SDGsで掲げられている17の目標(Goal)の14番目「海の豊かさを守ろう(“LIFE BELOW WATER”)」について説明します。
目次
SDGs14「海の豊かさを守ろう」の概要
Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources for sustainable development
(持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する)
という宣言文になっています。
地球の表面積の7割は海であり、海洋資源は人間が生きていくために必要不可欠です。「ブルーエコノミー」という概念では、2015年の経済価値は全世界で年間2.5兆米ドル(275兆円)とされており、世界第7位のフランスのGDP2.9兆米ドルに次ぐ規模となっています。
しかし、このかけがえのない海の持続可能性に危険信号が灯っています。主な原因をいくつか紹介します。
プラスチック・海洋汚染
海洋汚染によって海洋生物の生態系の破壊が進んでいます。
原因の8割は陸地から流れ込むゴミや排水と言われており、世界では毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流れ出ているという試算もあります。2060年までには世界の海の魚の量をマイクロプラスチックが上回るという調査予測もあります。
海洋の酸性化
海は二酸化炭素を吸収するため、空気中の二酸化炭素濃度が増加したことで海の酸性化が進んでいます。
酸性化が進むとサンゴなどの石灰化生物に悪影響が出る可能性があります。2030年には世界のサンゴ礁の9割、2050年にはほぼ全てが脅威にさらされると予測されています。
海水温の上昇
酸性化と同様に、温室効果ガスが増えて大気の温暖化が進んだため、海水が熱を吸収して温度が上昇しています。
海水温が上昇することで、海流が変化して生態系に影響を及ぼしています。また、海水温の上昇が原因でサンゴの白化も進行しており、海水の酸性化・酸素欠乏の原因にもつながっています。
富栄養化による海洋生物の死滅
過剰な富栄養化によって水域が無酸素・貧酸素状態になってしまうことを意味する「デッドゾーン」が、2003年には146か所、2008年には405か所、2019年には700か所が見つかっています。
デッドゾーンでは酸素が欠乏するため、海洋生物の死滅につながります。
乱獲による海洋資源の減少
違法漁業や乱獲も水産資源に被害を与えています。
国際連合食糧農業機関(FAO)による2020年の報告では、全魚種資源の3分の1が乱獲されており、全体の約60%がこれ以上の漁獲増に耐えられない状態であると伝えられています。
世界の水産物消費量は年々増加を続けており、今後も増加していくことが見込まれます。こうした過剰な資源の利用が続けば、増加が予想される世界の水産物需要を支えられなくなるでしょう。
【出典】国際連合広報センター
SDGs14「海の豊かさを守ろう」のターゲット
「目標14.海の豊かさを守ろう」には10個のターゲットがあります。「14-1」のように数字で示される達成目標が7個、「14-a」のようにアルファベットで示される実現のための方法が3個で構成されています。
海洋汚染、海洋酸性化、乱獲を減らして生物の多様性を守るといったことや、⼩島嶼開発途上国と後発開発途上国、小規模事業者の保護といった内容が中心となっています。
14.1 | 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防⽌し、⼤幅に削減する。 | |
14.2 | 2020年までに、海洋及び沿岸の⽣態系に関する重⼤な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を⾏い、健全で⽣産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の⽣態系の回復のための取組を⾏う。 | |
14.3 | あらゆるレベルでの科学的協⼒の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最⼩限化し、対処する。 | |
14.4 | ⽔産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の⽣物学的特性によって定められる最⼤持続⽣産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣⾏を終了し、科学的な管理計画を実施する。 | |
14.5 | 2020年までに、国内法及び国際法に則り、最⼤限⼊⼿可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。 | |
14.6 | 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助⾦交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能⼒や過剰漁獲につながる漁業補助⾦を禁⽌し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助⾦を撤廃し、同様の新たな補助⾦の導⼊を抑制する**。 **現在進⾏中の世界貿易機関(WTO)交渉および WTO ドーハ開発アジェンダ、ならびに⾹港閣僚宣⾔のマンデートを考慮。 |
|
14.7 | 2030 年までに、漁業、⽔産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、⼩島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利⽤による経済的便益を増⼤させる。 | |
14.a | 海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に⼩島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋⽣物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能⼒の向上、及び海洋技術の移転を⾏う。 | |
14.b | ⼩規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。 | |
14.c | 「我々の求める未来」のパラグラフ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利⽤のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利⽤を強化する。 |
SDGs14「海の豊かさを守ろう」の日本の達成度スコア
SDSNとベルテルスマン財団が発表しているレポート「SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT(持続可能な開発報告書)」によると、2021年度における日本の総合スコアは79.8で世界18位でした。
▶︎SDGs達成度ランキング2021|日本は世界18位にワンランクダウン
SDGs目標14の評価に関しては、
- 現状(CURRENT ASSESSMENT):主要な課題が残っている
- 傾向(TRENDS):停滞している
となっており、前年からの変化はありませんでした。
【出典】SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT 2021
SDGs14「海の豊かさを守ろう」の日本の現状
MSC認証プログラムを運営する非営利団体MSC(海洋管理協議会)が2020年1月から3月にかけて実施した、日本を含む世界23カ国の水産物を購入する消費者を対象とする調査結果によると、日本の消費者が海洋環境で最も懸念していることとしては、
・プラスチックなどによる海洋汚染(65%)
・気候変動に伴う海洋環境への影響(52%)
・過剰漁獲や水産資源の現状(43%)
という順番になりました。
プラスチックなどによる海洋汚染問題
プラスチックごみの海洋流出問題における日本の現状を見てみると、「海洋プラスチック問題について 平成30年7月(環境省)」に記載されている、「陸上から海洋に流出したプラスチックごみ発生量(2010年推計)ランキング」によれば、年間6万トン(30位)となっています。
過剰漁獲や水産資源を守るための認証
持続可能な漁業の普及を目指して、世界には様々な水産エコラベルが存在しています。
日本国内では主に、漁業を対象とした「MSC(本部:イギリス)」、養殖業を対象とした「ASC(本部:オランダ)」、「MEL(本部:日本)」等の水産エコラベル認証が主流となっています。
水産庁調べでは、国内の認証数は、MSC認証は10漁業・300事業者(流通加工)、ASC認証は13養殖業(68養殖場)・151事業者(流通加工)、「MEL」は7漁業・41養殖業・58事業者(2021年3月31日現在)となっています。
水産資源や環境に配慮し、適切に管理されたMSC認証を取得した漁業で獲られた水産物や、ASC認証を取得した養殖場で育てられた水産物を「サステナブル・シーフード」と呼びます。
イオングループ、生協・コープ、セブン&アイグループ、西友、マクドナルドなどで販売されており、少しづつ認知と普及が進んでいるとはいえ、前述したMSCの調査結果では、日本でのMSC「海のエコラベル」の認知度は19%となっており、前回から7ポイントのアップしたものの、世界平均の46%に比べて低く留まっています。
陸上養殖への取り組み
過剰漁獲を抑えつつ食料需要を満たす手段として養殖の重要性が高まっています。一方で、これまで養殖の中心となってきた海面養殖に適した場所には限りがあるほか、餌や糞による海洋汚染も問題視されています。
そこで、「陸上養殖」の注目度が高まっています。AIやIoTの活用を始めとする技術進化によって、「閉鎖循環式の陸上養殖」が普及しつつあり、場所を選ばない養殖が可能になってきています。過剰な漁獲と海の水質汚染を抑えながら食料供給が可能な「陸上養殖」に期待が集まっています。
魚粉利用の問題
養殖が拡大していく一方で、使用されている餌は、天然の魚を乾燥して粉末状に砕いた「魚粉」が主成分となっており、持続可能ではありません。
特に、IUU漁業由来の原料を使うことは、養殖の持続可能性を損なう大きな原因になりますが、日本は先進国のなかではIUU漁業の占める割合が圧倒的に高いと言われています。
また、こうした飼料の持続可能性に配慮した飼料は、ヨーロッパではスタンダードなものになっていますが、日本ではこうした配慮を実践している飼料メーカーは残念ながら主流派ではありません。
「Marin Trust認証」を満たしたペルーのカタクチイワシなどを使用したり、人間が食用とする魚の骨や内臓、頭などの非可食部位の再利用することによって、持続可能な魚粉を使用することが求められています。
SDGsのその他の目標をみる
SDGs17の目標一覧
1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう