SDGsで掲げられている17の目標(Goal)の8番目「働きがいも経済成長も(“DECENT WORK AND ECONOMIC GROWTH”)」について説明します。
目次
SDGs8「働きがいも経済成長も」の概要
Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all
{包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する}
という宣言文になっています。
2013年に英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授とカール・フレイ博士らが発表した論文『雇用の未来』において、「労働人口の47%が人工知能(AI)やロボットで代替可能な状態にある」と発表したことが世界に衝撃を与えました。
一方でイノベーションの推進が目標として掲げられており、イノベーションが進むほどに人の仕事が奪われる懸念があるという「トレードオフ」が指摘されてきました。
しかし、世界経済フォーラムは2025年までに工場労働者など8,500万人が雇用を失うものの、AI技術者など9,700万人分の雇用が新たに創出されると予測しています。また、国連の人口推計(低位推計)では、2020年と比較した先進国の生産年齢人口は50年までに14.5%減り、2100年にはほぼ半減するという予測結果が出ています。
世界は爆発的な人口増加フェーズから、日本のように人口減少・少子化高齢化のフェーズに移行することが予想されており、日本の現状を見ても明らかなように「労働不足」の方が問題となる可能性が高まっています。
【出典】国際連合広報センター
SDGs8「働きがいも経済成長も」のターゲット
「目標8.働きがいも経済成長も」には12個のターゲットがあります。「8-1」のように数字で示される達成目標が10個、「8-a」のようにアルファベットで示される実現のための方法が2個で構成されています。
一人当たりの経済成長率の持続、特に開発途上国の高い成長率を目標に掲げています。そのために、起業、創造性、イノベーションに取り組むことや、「経済成⻑と環境悪化の分断」(デカップリング)を目指すことについても掲げられています。
また、2030年までに全ての人々が、雇用と働き外のある人間らしい仕事を、同一労働同一賃金のもとで得られるようにするといったことが目標とされているほか、強制労働や人身売買の撲滅や、移住労働者などの、弱い立場にある人々の権利保護、開発途上国への支援についても掲げられています。
8.1 | 各国の状況に応じて、⼀⼈当たり経済成⻑率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成⻑率を保つ。 | |
8.2 | ⾼付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた⾼いレベルの経済⽣産性を達成する。 | |
8.3 | ⽣産活動や適切な雇⽤創出、起業、創造性及びイノベーションを⽀援する開発重視型の政策を促進するとともに、⾦融サービスへのアクセス改善などを通じて中⼩零細企業の設⽴や成⻑を奨励する。 | |
8.4 | 2030年までに、世界の消費と⽣産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と⽣産に関する10年計画枠組みに従い、経済成⻑と環境悪化の分断を図る。 | |
8.5 | 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び⼥性の、完全かつ⽣産的な雇⽤及び働きがいのある⼈間らしい仕事、ならびに同⼀労働同⼀賃⾦を達成する。 | |
8.6 | 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも⾏っていない若者の割合を⼤幅に減らす。 | |
8.7 | 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、⼈⾝売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁⽌及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵⼠の募集と使⽤を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。 | |
8.8 | 移住労働者、特に⼥性の移住労働者や不安定な雇⽤状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安⼼な労働環境を促進する。 | |
8.9 | 2030年までに、雇⽤創出、地⽅の⽂化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を⽴案し実施する。 | |
8.10 | 国内の⾦融機関の能⼒を強化し、すべての⼈々の銀⾏取引、保険及び⾦融サービスへのアクセスを促進・拡⼤する。 | |
8.a | 後発開発途上国への貿易関連技術⽀援のための拡⼤統合フレームワーク(EIF)などを通じた⽀援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡⼤する。 | |
8.b | 2020年までに、若年雇⽤のための世界的戦略及び国際労働機関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運⽤化する。 |
SDGs8「働きがいも経済成長も」の日本の達成度スコア
SDSNとベルテルスマン財団が発表しているレポート「SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT(持続可能な開発報告書)」によると、2021年度における日本の総合スコアは79.8で世界18位でした。
▶︎SDGs達成度ランキング2021|日本は世界18位にワンランクダウン
SDGs目標8の評価に関しては、
- 現状(CURRENT ASSESSMENT):課題が残っている
- 傾向(TRENDS):達成軌道にある
となっています。前年から変化はありませんでした。
【出典】SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT 2021
SDGs8「働きがいも経済成長も」の日本の現状
熱意あふれる社員が少ない
世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップが2017年に発表した、世界1,300万人のビジネスパーソンを対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査の結果、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%でした。
米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位レベルでした。また、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達したとのことで、日本人は働きがいを感じていない人が多いという結果になっています。
ジェンダー不平等
世界経済フォーラム(WEF)が発表した「世界ジェンダー・ギャップ報告書2021」によると、日本では女性の72%が労働参加している一方で管理職の割合が低い(14.7%)、パートタイム職の割合が男性の約2倍、女性の平均所得が男性より43.7%低いと指摘されています。また、国会議員の女性割合が9.9%に留まっていることも指摘されています。
非正規社員の賃金格差
2020年4月から、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法が改正され、同一労働同一賃金が義務化されましたが、正規と非正規雇用の間の賃金格差は依然として改善されていません。
そのため、長時間労働をしているにも関わらず低所得から抜け出せない、ワーキングプアと呼ばれる人達が多く存在しています。
障がい者雇用達成率が低い
日本には障がい者が約1,000万人いますが、そのうち実際に雇用されているのは約60万人(6%)となっています。民間企業の障がい者法定雇用率達成企業の割合は48.6%に留まっています。
リカレント教育・リスキリング
日本はデジタル化の動きが遅れていることが産業界を中心に問題視されており、「DX(デジタルトランスフォーメーションの略)」の必要性が叫ばれています。
それにも関わらず、DXを推進するスキルを持った人材が不足しているため、経済産業省が中心となって、「デジタル化」と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を目指す「リスキリング」の普及に力を入れています。
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SDGs17の目標一覧
1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう