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バイオエコノミーとは|市場規模やSDGsとの関連性についても解説

バイオエコノミーとは|市場規模やSDGsとの関連性についても解説

従来の化石燃料に頼る経済モデルでは、資源の枯渇や温室効果ガスの排出といった問題が深刻化しています。バイオエコノミーは、こうした課題を克服し、持続可能な社会を実現する手段として注目されています。

この記事では、バイオエコノミーとは何か、市場規模や日本のバイオエコノミー戦略について紹介します。

バイオエコノミーとは

バイオエコノミー(Bioeconomy)とは、生物由来の資源(バイオリソース)を活用して、環境負荷を減らしながら経済活動を行うことを目指す経済モデルを指します。それぞれの機関による定義は以下のようになっています。

  • 【欧州委員会】再生可能な生物資源を生産し、それらを食品、飼料、バイオベース製品、バイオエネルギーなどに変換する経済。
  • 【OECD】バイオテクノロジーに基づいた技術、知識、イノベーションによって持続可能性を向上させた経済活動全般。
  • 【日本政府(バイオ戦略)】生物資源やバイオ技術を活用して、経済成長を促進しながら環境や社会課題を解決する持続可能な経済モデル。

バイオエコノミーの市場規模

バイオエコノミーは、環境問題の解決だけでなく、新しい産業や雇用を生む可能性を秘めた次世代の経済モデルとして注目されており、その市場規模は今後大きく成長すると予測されています。

世界の市場規模

経済協力開発機構(OECD)は、バイオエコノミーの世界市場が2030年までに約200兆円に達すると試算しています。

米国政府は2022年9月に、バイデン大統領が「持続可能で安全・安心な米国バイオエコノミーのためのバイオテクノロジーとバイオものづくりイノベーション推進に関する大統領令」に署名し、「National Biotechnology and Biomanufacturing Initiative」を発表しました。

そこでは、今後10年以内に製造業の世界生産の3分の1が置き換わり、金額換算で約30兆ドル(=約4,000兆円)に達する」という分析を示しており、2023年3月には、更なる具体的な方向性を示した「Bold Goals for U.S. Biotechnology and Biomanufacturing」を発表しています。

日本の市場規模

日本国内では従来の発酵・醸造技術を含めた広義のバイオ産業の市場規模は、2019年時点で約57兆円とされています。

日本政府は2019年に「バイオ戦略」を策定し、バイオエコノミー市場規模を現在の60兆円から2030年に100兆円に拡大することを目標に掲げました。バイオエコノミー戦略(令和6年6月3日 統合イノベーション戦略推進会議決定)で用いれている5つの領域における市場規模はそれぞれ以下の通りです。

  • バイオものづくり・バイオ由来製品: 53.3兆円
    バイオ化学品(高機能バイオ素材、バイオプラスチック等)、繊維、香料・化粧品、バイオ燃料、農薬・肥料、食品(細胞性食品等)、新規酵素、バイオファウンドリ、有機廃棄物・有機排水処理、計測分析機器等
  • 生活習慣改善ヘルスケア、デジタルヘルス: 33兆
    健康増進サービス、アプリ、ウェアラブルデバイス、フィットネス、生活支援サービス、ロボット介護機器
  • バイオ医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連産業: 3.3兆円
    ワクチン、抗体薬(モノクローナル抗体)、核酸医薬品、iPS細胞、CAR-T細胞治療薬、遺伝子治療用製品等
  • 持続的一次生産システム: 1.7兆円
    スマート農業技術を活用した農業機械等、ゲノム情報等を利用して育成された新品種等
  • 木材活用大型建築・スマート林業: 1兆円
    中層木造建築物、建築用木材等

2022年度にはバイオものづくり等のバイオ分野に総額1兆円規模の大型予算が措置され、本格的な国家プロジェクトが始動しています。

バイオエコノミーとSDGsとの関連性

バイオエコノミーは、SDGsの達成を目指すにおいて重要な役割を果たします。

例えば、目標2「飢餓をゼロに」では、遺伝子改良や微生物を活用した農業技術の発展により、食料生産の効率化や栄養価の向上が可能になります。目標3「すべての人に健康と福祉を」においては、バイオ医薬品や再生医療、ワクチン開発が進むことで病気の予防や治療の質が向上します。また、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に貢献する形で、バイオマスエネルギーや藻類由来のバイオ燃料が化石燃料に代わる持続可能なエネルギー源として注目されています。さらに、バイオテクノロジーは環境負荷の低減や資源循環の促進にも寄与し、他のSDGs目標(気候変動対策、持続可能な都市づくりなど)とも深く関わっています。これらの技術革新を通じて、バイオエコノミーはSDGsの各目標と多くの深い関連性があります。

バイオエコノミーとSDGs目標2との関連性

SDGs目標2-ロゴバイオテクノロジーを活用することで食料生産の効率化や持続可能性を高め、飢餓や栄養不良の解消を目指します。以下にその具体的な関係性を解説します。

  • 作物の改良による収穫量の向上
    遺伝子編集技術を使い、収穫量が多く、病害虫や気候変動に強い作物を開発することで、食料不足地域での供給を安定化することにつながります。
    (例)CRISPR-Cas9技術を用いた干ばつ耐性や塩害耐性を持つ作物
  • 栄養強化作物の開発
    栄養素が不足している地域向けに、特定の栄養を強化した作物を開発ことで、栄養不良の人の数を減らすことにつながります。
    (例)ビタミンA強化米「ゴールデンライス」や鉄分を多く含むトウモロコシ
  • 持続可能な農業技術の普及
    微生物やバイオ肥料を活用して、化学肥料の使用量を減らすことで環境負荷の軽減につながります。
    (例)根粒菌を活用して窒素固定能力を強化する技術
  • 食料廃棄の削減
    バイオ技術を使って食料保存技術を向上させることで腐敗や食品ロスを減らすことにつながります。
    (例)保存期間が長い作物や食品の開発
  • 代替タンパク質の開発
    培養肉や昆虫食など、動物由来以外の新しいタンパク質源を開発することで、世界人口増加に伴うタンパク質不足の解消につながります。
    (例)土地や水の使用量が少ない培養肉の開発
  • 気候変動への対応
    バイオ戦略により、気候変動に強い作物や農業システムを構築したり、再生可能エネルギー(バイオ燃料)を農業に導入することで化石燃料への依存を減らすことにつながります。
    (例)異常気象に対応する短期間で収穫できる品種の開発

バイオエコノミーとSDGs目標3との関連性

SDGs目標3-ロゴバイオテクノロジーを活用することで、健康を守り、病気を予防し、医療の質を向上させる革新的な解決策を提供しています。以下にその関係性を詳しく説明します。

  • 新しい医薬品や治療法の開発
    バイオ医薬品(抗体医薬、ペプチド医薬)により、がんや自己免疫疾患などの難治性疾患に効果的な治療が可能になります。
    (例)抗体医薬「オプジーボ」は、がん免疫治療として注目
    (例)CAR-T細胞療法(白血病やリンパ腫の治療に使用)
  • 健康診断と早期発見の技術向上
    バイオセンサーや遺伝子検査により、病気のリスクを早期に発見することが可能になり、重篤化を防ぐことや医療費削減につながる。
    (例)血液1滴でがんを早期発見する技術
  • 再生医療と臓器移植
    iPS細胞を活用した再生医療により、失われた臓器や組織の機能回復が可能になります。
    (例)網膜色素変性症やパーキンソン病の治療における細胞移植

バイオエコノミーとSDGs目標7との関連性

SDGs目標7-ロゴバイオ戦略とSDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、再生可能エネルギーの開発や利用効率の向上を通じて密接に関係しています。バイオテクノロジーを活用することで、化石燃料への依存を減らし、持続可能で環境に優しいエネルギーシステムを構築することができます。以下に具体的な関係性を詳しく説明します。

  • バイオマスエネルギーの開発
    バイオマスエネルギーは、植物や有機廃棄物などの再生可能資源を燃料として利用します。化石燃料よりも二酸化炭素排出量が少なく、カーボンニュートラルにつながります。
    (例)バイオエタノール: トウモロコシやサトウキビなどから生産され、ガソリンの代替燃料として使用
    (例)バイオディーゼル: 植物油や廃食油を原料にしてディーゼルエンジン向け燃料を製造
  • 廃棄物からのエネルギー生成
    廃棄物を発酵させて得られるバイオガス(主成分はメタン)を燃料として利用することで、廃棄物処理とエネルギー生産を同時に達成し環境負荷を軽減します。
    (例)家庭や農業で発生する食品廃棄物や家畜の糞尿を活用
  • 高効率なバイオ燃料の開発
    第1世代(トウモロコシやサトウキビ)から第2世代(非食用植物や木質)・第3世代(藻類)へと進化したバイオ燃料の研究が進んでいます。
    (例)藻類バイオ燃料: 高効率で成長が早い藻類を利用し、軽量・高密度な燃料を生成
    (例)セルロース系エタノール: 廃材や草木など非食用部分を利用して生産
  • バイオテクノロジーによるエネルギー効率の向上
    微生物を利用してエネルギー生成効率を高める技術の研究が進行中です。より少ない資源で多くのエネルギーを生産することが可能になります。
    (例)メタン発酵の効率を向上させる微生物の遺伝子改良
  • 地域社会でのエネルギー自給自足
    バイオマスエネルギーを地域資源として活用することで、地方のエネルギー自立を促進し、地域経済の活性化にもつながります。
    (例)農村部での家畜糞尿や稲わらを用いたエネルギー生産

おわりに

従来の化石燃料に頼る経済モデルに限界があることは明白となっています。資源の枯渇や温室効果ガスの排出といった世界的な問題を克服し、持続可能な社会を実現するために、バイオエコノミーへの転換が必須となっています。

References:
•バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)
•バイオエコノミー戦略(令和6年6月3日 統合イノベーション戦略推進会議決定)

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