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ブルーカーボン(生態系)とは?世界と日本の動向

ブルーカーボン(生態系)とは?世界と日本の動向

パリ協定で合意された、「産業革命以前のレベルと比較して、世界の平均気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑える」という目標を達成するためには、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、大気中から除去・貯留していくことが必要です。

そのための方法として、炭素直接空気回収・貯留(DAC)等の科学技術を活用するとともに、自然界における最大の二酸化炭素吸収源である「ブルーカーボン(生態系)」を活用することが重要となります。

ブルーカーボン(生態系)とは

「ブルーカーボン」(英語:Blue Carbon)とは、海藻・海草・湿地・干潟・マングローブ林などの海洋生態系によって隔離・貯留される炭素のことを指します。

また、二酸化炭素は水に溶けやすい性質があるため、重量あたり100倍以上の二酸化炭素が海洋に溶けこんでおり、海洋全体の二酸化炭素の量は大気中の50倍と見積もられています。

海水に溶けている二酸化炭素を海の植物が光合成によって吸収し、枯死した後は海底に堆積して炭素を貯留します。こうした一連のつながりを「ブルーカーボン生態系」といいます。海底には年間1.9億~2.4億トンの炭素が新たに貯留されると推定されており、海底の泥の中に貯留されたブルーカーボンは数千年に渡って分解されずに貯留されます。

なかでも、太陽の光がとどく水深数十メートル程度までの「沿岸浅海域」と呼ばれるエリアにおける、マングローブ林や湿地、藻場などのブルーカーボン生態系が最大の二酸化炭素吸収源となっています。沿岸浅海域の面積は海洋全体の0.5%以下であるにも関わらず、海洋全体が年間に貯留する炭素量の8割近くを占めています。

ブルーカーボンとグリーンカーボンとの違い

国連環境計画(UNEP)が2009年に発行した『Blue Carbon』というレポートで、初めて「ブルーカーボン」という言葉が定義されました。『Blue Carbon』では、ブルーカーボン生態系が年間平均約2%~7%の割合で減少を続けており、このままいくと今後20年のうちに失われてしまうと警告しました。

こうして、それまでは陸地であっても海中であっても、生物の作用によって貯留される炭素のことを「グリーンカーボン」(英語:Green Carbon)と呼んでいましたが、それ以降は、陸域の森林などに貯留される炭素のことを「グリーンカーボン」、海域の海藻などに貯留される炭素のことを「ブルーカーボン」と区別して呼ぶようになっていきました。

港湾航空技術研究所の試算によれば、地球の陸域、海域における二酸化炭素の年間吸収量は、「陸域」73億トンに対して「海域」103億トンとなっており、ブルーカーボン生態系の炭素吸収源としての大きさが明らかにされています。

ブルーカーボンに関する世界の動向

国連気候変動枠組条約(UNFCC)によると、陸域及び沿岸生態系の保護・回復・持続可能な管理は、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えこむ解決策のなかで最大37%を占める重要な手段とされています。

パリ協定においても、第5.1条に「締約国は、森林を含め、条約第4条第1項(d)で言及されている温室効果ガスの吸収源及び貯留源を保全し強化するための行動をとるべきである」と明記されており、陸域や海域における炭素吸収生態系の重要性が明記されました。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、マングローブの炭素吸収源としての重要性とともに、破壊による消失が気候変動に及ぼすインパクトについて警告しています。マングローブが破壊されることで湛水泥炭に蓄えられていた炭素とメタンが大量に放出されます。

そのようにして、劣化した沿岸生態系から年間10億2,000万トンもの二酸化炭素が放出されていると推定されています。

ブルーカーボンに関する日本国内の動向

日本政府は2021年4月の「気候サミット」で、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減すると宣言しました。吸収源による対策は2.6%を占めています。

これまでの日本の吸収源対策は、森林、農地土壌炭素、都市緑化だけでしたが、新たな対策としてブルーカーボンが注目されています。2030年におけるブルーカーボンによる二酸化炭素の年間吸収量は、既存の対策による吸収量と比較して最大12%に相当すると試算されています。

国土交通省は、ブルーカーボン活用のために、2021年10月に有識者検討会を設置しました。人工干潟を造成して海藻類の成育を促進することで創出した二酸化炭素吸収量をクレジットとして認証し、排出権として売買できる「ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度」の創設に向けて動き始めています。

しかし、日本におけるブルーカーボン生態系の現状を見てみると、湿地面積は大正時代から1999年までの間に半分以下に、また、沿岸開発や水質悪化などによって、瀬戸内海の海草藻場は1960年~1991年の間に1万6,000haが消失しています。

おわりに|ブルーカーボン(生態系)とは?

二酸化炭素を吸収・貯留する量を増大させるために注目されている「ブルーカーボン(生態系)」ですが、このままでは存続の危機に陥っているというのが現状です。

海洋が二酸化炭素を吸収することによって生じる「海洋の酸性化」によっても海洋生態系は減少しています。このままでは、自然界における最大の二酸化炭素吸収源を失ってしまうことになるでしょう。

本稿では気候変動対策におけるブルーカーボン(生態系)の重要性について紹介しましたが、雇用・収入・成長といった、海洋が生み出す経済面における恩恵についての「ブルーエコノミー」という概念についても紹介していますので、ぜひご覧ください。

ブルーエコノミーとは?経済価値・グリーンエコノミーとの違い

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