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陸上養殖とは?陸上養殖技術ベンチャー企業まとめ

陸上養殖とは?陸上養殖技術ベンチャー企業まとめ

世界人口の増加によって水産資源の需要が増加する一方で、乱獲による枯渇が懸念されており、水産養殖の重要性が高まっています。

その一方で、海面養殖に適した場所には限りがあるほか、海洋汚染も問題視されています。そこで、AIやIoTをはじめとした先端技術を駆使した陸上養殖が注目されています。

陸上養殖とはどういったものなのか、メリット・デメリット、そして陸上養殖で地方活性化に取組事例や、技術開発に挑むベンチャー企業も紹介します。

陸上養殖とは

陸上養殖とは、陸上に人工的に創設した環境下で魚介類の養殖を行うことを意味しています。

陸上養殖には、大きく分けて2つの方式があり「かけ流し式」と「閉鎖循環式」に分けられます。「かけ流し式」は、海や川、地下水などを取水・排水します。主にうなぎ養殖でよく使われています。一方、「閉鎖循環式」は飼育水をろ過システムで浄化し、循環して繰り返し使いながら養殖を行いますので環境に優しい方式になります。

矢野経済研究所の調査によると、2018年度の国内陸上養殖システム市場(事業者売上ベース)は50億8,800万円、2023年度は87億6,000万円に拡大する見通しとのことです。

ちなみに、世界の漁業生産は2018年に1.79億トン、売上高4010憶ドル相当と推計されています。うち8,200万トン、2,500憶ドル相当が養殖によるものです。全体のうち、1.56億トンが人間による消費用であり、一人当たり年間供給量で換算すると20.5kg相当となります。養殖は総生産の46%、人の消費用では52%を占めます。(出典:「食糧農業機関(FAO) 2020年 世界漁業・養殖業白書」)

陸上養殖のメリットとデメリットとは

まずは、陸上養殖のメリットとデメリットをそれぞれ見ていきます。

陸上養殖のメリット

まずは、陸上養殖のメリットから見てみましょう。

【陸上養殖のメリット】
  • (閉鎖循環式の場合)使用した水の再利用を行うため海洋汚染を起こさずに養殖が可能。
    水の再利用をしながら水槽内で養殖を行うため、海洋汚染の原因となるエサの残骸を海に流さず取り出して処分することができるため。
  • どんな場所でも技術的に実践することが可能なので養殖する場所を選ばなくてよい。
    地方の空き家地帯や農作放棄地などの土地を有効利用できる可能性を秘めている。また、今まで漁業とは縁が無かった地域でも養殖魚の生産が可能になり、新たな特産物や地元の活性化につながる。
  • 外部の水を使用しないので、細菌やウイルス、汚染物質などの環境汚染の原因となるものの混入を妨げ、健康的な魚を育てることができる。
  • 海の近くではなく市街地で養殖を行うことが可能なので、輸送コストや人件費の削減にもつながり、消費者の元へより新鮮で安価な魚介類を届けることができる。

陸上養殖のデメリット

次に、デメリットを挙げます。

【陸上養殖のデメリット】
  • 陸上に水槽を作らなくてはいけない。その設備コストや運営にかかるランニングコストが高い。
  • 水温調整や濾過を行うための機械が必須なので、その機械の故障時や停電時などには全滅のリスクが大きい。

海面養殖と比べるとコスト高であることが陸上養殖が普及するための最大の課題となっています。

陸上養殖と海面養殖の違い

陸上養殖と海面養殖の違いについて説明します。

陸上養殖は海面養殖と比べると歴史が浅く技術が未発達な部分があるため、安定した生産が出来ないという課題があります。ただこれからの養殖業を支えるさまざまなメリットや、地球を守るための可能性をたくさん持っているため、環境への負担が少ない持続可能な新しい養殖業の形です。大型の水槽の中で養殖を行うため、天候条件に左右されることなく安定した供給が望めます。lotの積極的活用などで管理や餌やりなどの労働力の負担を下げる取り組みもされています。

一方で、海上養殖は自然の海を使って養殖を行います。自然の海の水を使うので水質管理が難しく、地球温暖化や天候条件に大きく左右されてしまうというデメリットがあります。また、魚のフンや残餌を含んだ養殖排水を海に排水するため環境への負担がとても大きいことも問題点になっています。魚の疫病を防ぐための薬剤使用などが原因で、海域に薬剤が留まりやすく海水汚染につながるとの指摘を受けています。

陸上養殖の課題への取り組み

陸上養殖の課題をデメリットの章でご紹介しました。その課題解決に向けてさまざまなベンチャーや企業が研究に取り組み、試行錯誤しています。

例えば、餌やりのコストや作業時間をAIシステムを使って自動化にして効率アップを図る取り組みや、自動餌やりシステムの開発、餌代にかかるコスト削減のための独自のエサ開発や改良への取り組みなど、さまざまな開発が進んでいます。

また、飼育水槽の魚の様子をカメラでチェックして画像解析をすることで魚の接触状況が分析判断できるようになります。

陸上養殖に欠かせない水槽内での水温管理を再生可能エネルギーで行えないかと、環境に負担を欠けることない養殖産業の実現を望む動きもあります。これが可能になると、海水温の変化などによっての飼育できる魚の種類を限定しないため、幅広い魚の種類の飼育が可能になり養殖魚の発展につながっていきます。

こういった養殖産業の中で課題面とされる部分にフォーカスを当て開発に取り組むことで、養殖産業の先進化や過酷な労働環境の改善にも大きな役割を果たしてくれることでしょう。そして、それは働き方改革につながり人手不足という深刻な状況も打破してくれるきっかけになると期待されています。

また、陸上養殖と水耕栽培を組み合わせることで、植物とバクテリアの力を利用して餌や糞に含まれる成分(主にアンモニア)を分解・吸収して水質を浄化させたり、収益性を高めて投資回収を早めたりする「アクアポニックス」という方法で養殖の事業化に挑む例もあります。

陸上養殖での地方活性化事例

JR西日本(PROFISH)

JR西日本-PROFISH▼運営サイト: 西日本旅客鉄道株式会社
JR西日本が地域(自治体や事業者)と協力しながら陸上養殖事業に参入しています。

水質に優れた自然由来の水にこだわり、適正な管理下で持続的に育てられる陸上養殖により、生産履歴の管理や各種検査を行い安心安全を担保している魚を「プロフィッシュ」と名付けて展開しています。

2021年10月11日現在、以下の7種類の魚種を、それぞれのブランドのもとで展開しています。

「お嬢サバ(鳥取)」「白雪ひらめ(鳥取)」「クラウンサーモン(鳥取)」「オイスターぼんぼん(広島)」「とれ海老やん(広島)」「べっ嬪さくらます うらら(富山)」「大吟雅とらふぐ(山口)」

ジャパンキャビア株式会社(宮崎キャビア1983)

ジャパンキャビア▼運営サイト: ジャパンキャビア株式会社
(宮崎県宮崎市)

宮崎県内の15カ所のチョウザメ養殖業者が出資して2016年に設立。

1983年からチョウザメの養殖に取り組み、2004年に国内で初めて完全養殖に成功し、2013年に「宮崎キャビア1983」として販売を開始。ANAの国際線ファーストクラスの機内食で採用されるなど評価は高く、輸出にも乗り出しています。

空気清浄した部屋で防護服を着ながら進める採卵作業と最新の冷凍保存技術で、保存のために塩分量を7%にする海外産もあるなかで3%に抑えています。また、これだけの長期熟成は海外ではあまり見られないとのことです。

株式会社夢創造(温泉トラフグ)

夢創造▼運営サイト: http://www.ganso-onsentorahugu.com/
(栃木県那珂川町)

那珂川町の小川地区で湧出する温泉の成分は、塩分濃度1.2%と海水(3.6%)の1/3程度で、生理食塩水(0.9%)に近い成分であることが判明しました。そこで、塩分が含まれる地元の温泉で海の魚が育てられるかもしれないと着眼して取組み始めた事業です。

2008年6月よりトラフグの飼育試験を開始し、現在では那珂川町旧武茂小学校廃校教室を活用し3,000尾のトラフグ養殖事業を実施しています。

株式会社飛騨海洋科学研究所(飛騨とらふぐ)

飛騨とらふぐ▼運営サイト: http://hidatorafugu.com/
(岐阜県飛騨市)

近畿大学で生まれたとらふぐの稚魚を、飛騨の山の中のミネラル豊富な地下水を利用して、閉鎖循環式陸上養殖で育てて、「飛騨とらふぐ」というブランドで販売しています。体長5cmほどの稚魚を1年ほどかけて約30cm位の成魚まで育てます。

特徴の1つ目は透けるような白身と甘みです。とらふぐはストレスを溜めると身が赤く染まりますが、「飛騨とらふぐ」はストレスの少ない環境で育つため、透けるような白身になります。
2つ目の特徴は甘さです。海水濃度に比べ1/3に抑えた塩分濃度やエサ、水温、水質などストレスをあたえない独自の養殖方法で大切に育てることで可能となっています。

代表取締役の深田氏が、飛騨の山の中で高級魚のとらふぐの養殖ができないか思い海水の研究を始め、試行錯誤の末、2011年にとらふぐの陸上養殖場を完成させ、2013年から出荷できる体制まで整備しました。

陸上養殖技術ベンチャー企業

リージョナルフィッシュ株式会社

リージョナルフィッシュ▼運営サイト: リージョナルフィッシュ株式会社
京都大学のゲノム編集の研究成果と、近畿大学の養殖技術を基に誕生したベンチャー企業。ゲノム編集による育種とスマート養殖(養殖自動化)技術を提供しています。

ゲノム編集という、一般社会では非科学的で感情的な意見が大勢を占めがちな領域の技術のため、現段階では積極的な広報活動をしていない企業ながら、日本のゲノムと養殖の最先端の知見と技術を結集した最先端の陸上養殖ベンチャー企業です。

株式会社FRDジャパン

FRDジャパン▼運営サイト: 株式会社FRDジャパン
従来の循環型陸上養殖システムでは、主に硝酸のような除去できない物質の蓄積を防ぐため、最低でも1日30%前後の水替えが必要でしたが、FRDジャパンが開発した閉鎖循環式陸上養殖システムでは、硝酸をバクテリアの力で除去する「脱窒装置」により、水替え不要(蒸発分は補給が必要)の完全閉鎖循環による陸上養殖が可能になりました。

自社で養殖プラントの建設・操業を行い、現在は千葉県木更津市で実証実験プラントを運営しています。抗生物質不使用かつASC認証取得済みのサーモントラウトを「おかそだち」というブランドで販売しています。

株式会社ARK

ARK▼運営サイト: 株式会社ARK
「養殖の民主化」を掲げて、小型の閉鎖循環式陸上養殖システム(CRAS)の開発に取り組んでいるベンチャー企業。養殖事業者に対する種苗・水・エサ等の提供や、給餌や水質管理のアプリを提供することを想定しています。

従来の閉鎖循環式陸上養殖の課題を以下のように解決することを目指しています。

  • 課題1)大型思考で「系」が安定せずリスクが高い
    →小型・分散型による安定性と持続性を追求
  • 課題2)属人的なノウハウが多く汎用化できていない
    →ソフト・データのプラットフォーム化
  • 課題3)初期費と運用費が高い
    →初期費を1/100にし、運用費を1/3に削減

おわりに|陸上養殖とは

ノルウェーサーモンに代表される海面養殖においては、ノルウェーやチリが世界を席巻しており、残念ながら日本の存在感は示すことができていません。しかし、世界の裏側から食料を輸入するというのはフードマイレージの観点からはサステナブルとは言えません。

近年では、地方創生の面からも陸上養殖は注目を集めていますが、地域の中小規模の陸上養殖施設が周辺地域の需要を満たすことができる地産地消モデルが確立されることが理想ではないでしょうか。

陸上養殖に水耕栽培を組み合わせることで、収益性を高め、化学肥料や農薬も不要にすることで健康・環境面にもメリットがある「アクアポニックス」にも注目が集まっています。

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