人類は地球1.6個分の資源消費をしており、もし世界中の人々が日本人と同じような暮らしをした場合は地球が2.9個必要になります。このままの生活では地球は持続可能ではないことは明らかです。
食に関しても、貧困・飢餓・健康・環境への負荷といった社会問題が数多く存在しており、持続可能性に対する負のインパクトは巨大なものとなっています。
ここでは、サステナブルフードとは何か?サステナブルフードの例や市場規模について紹介するとともに、食の持続可能性(サステナビリティ)を高めるための16の方法を紹介します。
目次
サステナブルフードとは?
“Sustainable Food”(サステナブルフード)とは「地球環境や社会的な問題に配慮し、長期的に持続可能な食料生産や消費を目指す食物」のことです。これには、農業や漁業の方法、食料の輸送や保存、消費者による選択などが含まれます。
サステナブルフードの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 地産地消: 地元で栽培された野菜や果物、畜産品を使用した食品
- オーガニック食品: 有機農法に従って栽培された野菜や果物、畜産品を使用した食品
- フェアトレード食品: 農民や生産者に公平な取引を行っている食品
- サステナブル・シーフード: 持続可能な漁業を行っている海産物を使用した海産物(MSC認証・ASC認証)
- サステナブル・コーヒー: 自然環境や生産者の生活などに配慮して生産されているコーヒー
- レストランのシーズンメニュー: 季節限定の新鮮な食材を使用したメニュー
サステナブルフードの市場規模
国際的な食糧と土地利用分野のNGOであるFOLU(The Food and Land Use Coalition)が2019年9月に発表したレポートの中で、世界のフードシステムの年間市場価値は10兆ドルであるのに対し、目に見えない負のコストが12兆ドルであるとの試算結果が示されました。そして、何の対策もしなければ、フードシステムがもたらす負のコストは2025年までに16兆ドルまで膨れ上がると警告しています。
富士経済グループのレポート「SDGs社会に向けて変革するサスティナブルフード市場の現状と将来予測」によると、2021年の国内サステナブルフードの市場規模は1兆6,104億円(前年比13.7%増)と推計されています。
この調査では、市販用の食品を対象に、サスティナビリティを訴求している商品をサスティナブルフードと定義しています。その中身は、生産地・労働者支援を訴求する家庭用一般加工食品を始め、MSCなどの認証品、軽量化・プラスチックフリーなどのエコパッケージなどから構成されています。
2021年以降も市場の成長が続くと予想されており、2030年には2兆6,556億円に達すると見込まれています。
食の持続可能性を高める16の方法
ここからは、サステナブルフードを具現化するための方法について紹介します。
アグロフォレストリー
アグロフォレストリー(英語: agroforestry)は、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語です。日本語では「農林複合経営」「森林農業」「混農林業」といわれます。
アグロフォレストリーは森林を伐採しない農業・林業なので、地球温暖化の原因となる空気中の炭素を土壌に隔離します。また、同じ作物だけを栽培する「単一栽培」よりも、生産者の収益減少のリスクを減らすことができるといったメリットもあり、持続可能な農業です。
アップサイクル
温室効果ガス排出による気候変動や、無駄使いによる資源枯渇といった持続可能性の課題に対する解決策の一つとして「アップサイクル」が注目されています。
2022年12月14日にアメリカの人気レシピ雑誌「Eating Well」が発表した『2023年の食のトレンド予測TOP10』では、2位に「Upcycled Foods(アップサイクル食品)」がランクインするなど、注目度が高まっています。
アニマルウェルフェア
人間が動物に対して与える身体的な痛みや精神的なストレスなどの苦痛を最小限に抑えることによって動物の幸福を実現する、という考え方です。
家畜であっても人と同じく満たされて生きる権利があるという概念が元になっており、飼育者の責任において家畜が満足度の高い生活をおくれるように飼育する必要性を説いています。
海水農業
海面上昇によって世界中で10億ヘクタール以上もの農地が塩害を受けているなか、海水で農作物を育てる試みです。
海水を利用することで水不足問題解決に貢献できます。また、塩害を受けた土壌を利用することで7,000万から1億2,000万ヘクタールの耕作可能な土地を確保することにもつながります。
サステナブルコーヒー
自然環境や生産者の生活など、コーヒー産業のサステナビリティ(持続可能性)に配慮して生産されているコーヒーを総称して「サステナブルコーヒー」といいます。
公平な取引価格・投機資金の排除・生物多様性の保全・水資源の保全と保護・病害虫への対策・廃棄物の管理と活用、といった様々な取り組みがされています。
CSA
CSAとは、”Community Supported Agriculture” の略で「地域支援型農業」を意味します。消費者が生産者に前払いで代金を支払いして、定期的に野菜や果物などの収穫物を受け取るシステムのことです。
生産者は消費者から前払いで受け取った代金で、種や肥料などの野菜や果物を生産するために必要な資材などの購入費に充てることができます。また、生産者と消費者の両者が天候不良による不作のリスクを共有する新しい農業のモデルともなっています。
スマート農業
スマート農業とは、ロボット技術やICTを活用して省力化・精密化・高品質生産を実現する新たな農業のことを指します。
日本の農業では高齢化と労働力不足が深刻な問題となっています。そのため、農作業における省力化・軽労化、栽培技術の継承を進め、新規就農者を確保するための対策が急務となっています。
堆肥化(コンポスティング)
堆肥化とは微生物を利用して生ごみなどの有機物を発酵・分解させ、有機肥料を作ることです。コンポスティング(コンポスト化)ともいいます。
かつては日本でも生ごみや糞尿などを堆肥として田畑の土を作っていました。しかし、近代ではごみの種類も増えて、まとめて焼却されるようになりました。近年では循環型社会の取り組みとして再注目されており、市町村でコンポスト化の事業が進められることが増えてきています。
代替肉・プラントベースドミート
代替肉とは、動物を屠殺・食肉処理した通常の肉ではなく、大豆など植物性原料を用いて肉の味や食感を再現して作られた、肉の替わりとなる植物ベースの食品のことです。
英語圏では、Plant based meat(プラントベースドミート)という呼び方が広まっています。そのほか、フェイクミート、大豆ミート、大豆肉、ソイミート、疑似肉、植物性タンパク、アナログミートなどとも呼ばれます。
2019年、世界経済フォーラムはダボス会議の前に代替肉について、食品汚染のリスクが無く、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながる可能性があると報告しています。それ以外にも動物倫理といった社会課題の解決策として注目されています。
パーマカルチャー
“Permaculture”(パーマカルチャー)とは、「永続性」を意味する “Permanent”、「農業」を意味する “Agriculture”、「文化」を意味する”Culture” の3つを組み合わせてできた言葉です。永続可能な農業をもとに、人と自然が共に豊かになれるような関係を築いていくためのデザイン手法のことを示しています。デザインの対象となるのは、農業だけでなく、植物や動物、建物やコミュニティなどの生活すべてに及びます。
「世界中を森にすることで世界に広がる森をつくり、森が与えてくれるものを食べる、そして人間以外の生き物たちとの共存を目指す。」というのがパーマカルチャーの目指している世界観となります。
バイオ炭
バイオ炭とは、生物由来の有機物を炭化させたものです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)ガイドラインによれば、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」と定義されています。
2019年改良版のIPCCガイドラインにおいて、CDR(Carbon Dioxide Removal)として認められたことを契機に、2020年9月には「バイオ炭の農地施用」が日本国政府が認証する制度「J-クレジット」の対象となるなど、カーボンニュートラルの実現に向けた取組の中で「バイオ炭」に対する注目が高まっています。
ファーム・トゥ・テーブル
安全で新鮮な食材を農場(Farm)から食卓(Table)へ届けるという意味で、アメリカの食品業界でトレンドになっているコンセプトです。
農場と食卓が近いことで、運搬によって発生する温室効果ガスの削減にもつながるなど、地球環境にも良い影響があります。 日本でも農家レストランや地元の食材を使った料理を売りにするオーベルジュが人気を博しています。
フレキシタリアン
フレキシタリアン(Flextarian)は、柔軟なスタイルで、菜食を基本としつつ、状況によっては乳製品・卵・魚介類・肉も食べるというスタイルです。「ゆるい菜食主義者」などと言われています。
世界人口の増加と、肉食中心の西洋型食生活に移行する人達の増加によって、家畜の飼育頭数は増加の一途にありますりますが、家畜の飼育は毎年排出される世界全体の温室効果ガスの15%近くを占めています。こうした地球温暖化や食糧不足などの社会課題を解決するための行動として、植物性食品中心の食生活を選択する人たちが増えています。
陸上養殖
陸上養殖とは、陸上に人工的に創設した環境下で魚介類の養殖を行うことを意味しています。世界人口の増加によって水産資源の需要が増加する一方で、乱獲による枯渇が懸念されており、水産養殖の重要性が高まっています。
その一方で、海面養殖に適した場所には限りがあるほか、海洋汚染も問題視されています。そこで、AIやIoTをはじめとした先端技術を駆使した陸上養殖が注目されています。
リジェネラティブ農業
土壌を修復し、自然環境を回復する農業を意味します。「不耕起栽培」「被覆作物の活用」「輸作」「化学肥料や農薬の不使用(または最低限に抑える)」といった手法を用いた農法です。
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)は、土壌の炭素含有量を増やして肥沃にし、保水性を高めることで干ばつへの耐性を高めます。他にも、害虫に強くなり、必要な肥料の量が減るといったメリットがあります。更に、二酸化炭素を土中に隔離することで気候変動を抑える効果も期待されています。
6次産業化(6次化)
産業分類上、第一次産業に属する農林漁業者が、第二次産業に分類される加工業や、第三次産業に分類される流通・販売・サービス業に進出することを意味しています。
輸入品との価格競争などによって第一次産業の採算が合わなくなってきていることから、加工や流通といったサプライチェーンの川下側のマージンを取り込むことによって、所得の向上を図り、一次産業を維持・活性化させようという狙いがあります。
おわりに|サステナブルフードとは?
食は、世界中の全ての人の生存に関わる最も大切なものです。1人1人の影響力は小さくても世界中の人の行動が少し変わるだけでとても大きな変化が起こせます。
これらのサステナブルな方法を知って、応援したり、自分でできることに取り組んだりすることで世界の持続可能性を高めることに貢献しませんか?