ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

海水農業とは?水不足問題と農地・地下水の塩化問題に挑む注目ビジネス

海水農業とは?水不足問題と農地・地下水の塩化問題に挑む注目ビジネス

2050年には世界人口が90億人を超えると予想されており、食糧や水の不足が懸念されています。その一方で、異常気象による干ばつや洪水の増加で農業の被害は拡大しています。さらに、海面上昇の影響によって農地や地下水が塩化するという問題が生じています。

ここでは、農地や地下水の塩化という問題と、海水を農業に利用することで「水不足」と「農地・地下水の塩化問題」という2つの問題を同時に解決する可能性を持つ「海水農業」について紹介します。

水不足問題

地球上の水(約14億km3)は、97.5%の塩水と2.5%の淡水から構成されています。その2.5%の淡水の70%が氷河・氷山として固定されていて、残りの30%もほとんどが土中の水分や地下深くに存在しています。そのため、人が利用しやすい河川や湖沼に存在する地表水は淡水のうち約0.4%。すなわち、地球上の水のわずか0.01%にすぎません。

そのような貴重な淡水の約7割は農業セクターで使用されています。さらに今後の人口増加や開発途上国の人々の食生活の欧米化によって、農業に必要な淡水の量はいっそう増えていくことが確実視されています。

農地や地下水の塩化問題とは

地球温暖化に起因する海面上昇によって、世界中で10億ヘクタール以上もの農地が塩害を受けているといわれています。海面上昇によって海水が地下水面に浸透すると、海岸線から離れた内陸でも地下水が塩化します。一度洪水や高潮などで海水を被ってしまった土壌は塩害によって農業が困難になります。

現在、世界の農地の4分の1近くが塩害に侵され、海面上昇によりその被害は深刻化しているとの報告もあります。(出典:Saline Agriculture Worldwide

海水農業とは

これまでのアプローチの多くは、淡水化装置を使って海水から塩分を除去して農業用水として使えるようにするというものでした。これには莫大なコストがかかるほか、太陽光を利用することが多いとはいえ、必要なエネルギーが大きすぎるといった課題がありました。

それに対し、海水でも農作物を育てられるようにしようという逆転の試みが「海水農業」といわれるものです。国土の25%以上が海抜ゼロメートル以下で塩害の危機に瀕しているオランダや、砂漠の国であるサウジアラビアのスタートアップなどが海水で農作物を育てることに成功し、ここ数年で注目を集めています。

「日本農業全書」によれば、日本においても江戸時代から海水や海藻が農業に使われていたという記録があります。高知市の徳谷トマトや八代市干拓地の塩トマトなど、土壌の塩分濃度が高い干拓地や、高潮の被害があった地域で品質の良い作物が収穫できる実例がありますので、可能性としては十分に考えられるでしょう。

地球上の水の97.5%を占める海水を利用できれば、淡水不足問題の解決に大いに貢献できるだけでなく、塩害を受けた土壌を利用することで、自然の生態系とそれに関連する生物多様性とともに、7,000万から1億2,000万ヘクタールの耕作可能な土地を確保することにも繋がります。

海水農業で食糧不足・水不足に挑むビジネス事例

海外を中心に海水農業が注目されていますが、日本でも独自の栽培技術を用いて海水農業に挑むスタートアップが存在しています。海水を利用することで淡水の利用を抑えたり、排水も抑えて外部環境への負荷(窒素肥料の海洋への流出など)を無くすことが可能となっています。

Cultivera LLC(カルティベラ)

ポモナファーム▼Webサイト: ポモナファーム

2016年に沖縄県で設立されたアグリテック系スタートアップ。特殊な繊維層に染み込んだ水分を気化させた空間の中で野菜を育てるという特許栽培技術「Moisculture」をプラットフォームとして、様々な農業技術の研究開発を行っています。現在は、三重県多気町で農業法人PomonaFarmの運営を行っています。

野菜が生きようとする力を引き出し、湿気中根と呼ばれる綿毛状の根を発生させて、気化する水分量や栄養の量を調節していくことで、栽培に必要な水分量は従来の1/10、土壌もほとんど必要ないという超省資源型の栽培が可能になっています。

気化水分で育てることで耐塩性が増す事実に着目し、繊維層を使った栽培法で約4〜12倍の希釈海水での作物栽培に成功しているとのことです。

N-ARK(ナーク)

ナーク▼Webサイト: N-ARK(ナーク)

2021年8月に静岡県浜松市に設立された建築系スタートアップ。海水農業と海上建築(海水農業を成立させる循環型の環境を作り出すフローティング建築)を組み合わせた海上ファーム「Green Ocean」のプロトタイプ製作を2022年を目標にしています。

海水農業はカルティベラの技術を活用するとのことで、アルカリ性の海水と酸性の雨水を中和することで海水農業の実現を目指しています。栽培する野菜については、当初はホウレンソウや水菜などを想定しているとのことです。

Salt Farm Texel(オランダ)

Salt Farm Texel▼Webサイト: Salt Farm Texel

オランダのスタートアップ。品種・塩分濃度・作付け時期などの条件を細分化して実験を重ねることで、塩水や塩化土壌にも適応したジャガイモ栽培法を確立しました。現在はジャガイモに加えて、ニンジン、タマネギ、キャベツ、大麦などの実験を進めています。

これまで限界とされてきた塩分濃度の数倍以上の土壌でも農作物の栽培が可能なことがわかったとのことで、この栽培法を利用して、パキスタン、バングラデシュでジャガイモを、ケニアではニンジンの栽培を行っているとのことです。

Seawater Solutions(スコットランド)

Seawater Solutions▼Webサイト: Seawater Solutions

スコットランドのスタートアップ。海水農業への取り組みで2018〜19年のスコットランドのビジネスアワードを受賞。海水で育つ塩生植物の栽培を広めようとしています。

これまで食用として栽培されることがほとんど無かった海岸や内陸の塩地で生育する塩生植物の中から栄養満点のスーパーフード候補を見つけ出し、効率的に育成する仕組みを構築し、サンフィアを中心にハママツナやウラギクなどを海水のみで栽培しています。

RED SEA FARMS(サウジアラビア)

RED SEA FARMS▼Webサイト: RED SEA FARMS

サウジアラビアのスタートアップ。海水で育つトマトの開発からスタートし、塩水に耐える作物や温室の開発をしています。

通常のトマト栽培に使われる淡水の90%を海水に置き換え、エネルギー効率を6倍向上させることに成功しました。また、この方式によって、無農薬で遺伝子組み換え無しの有機栽培トマトの生産に成功しています。

おわりに|海水農業とは?

日本は水に恵まれた国であるため、農地や地下水の塩化問題に関してはあまり注目されることがありませんが、世界に目を向けると非常に大きな問題であることが分かります。

上述したカルティベラは沖縄にあるOIST(沖縄科学技術大学院大学)発のスタートアップですが、同じくOIST発のスタートアップにEF Polymer株式会社という注目の企業があります。

インド人起業家兼CEOのナラヤン・ラル・グルジャール氏らが設立した会社で、野菜・果物の不可食部分の残渣など有機性廃棄物から開発したオーガニックポリマーを農業資材として製造販売しています。このポリマーは自重の80~100倍の水を保持することが可能で、土壌に投入すると保水力と肥料保持力が高まって40%の節水と20%の肥料削減が可能とのことで、農業の環境問題解決に大きく貢献できる技術となっています。

Return Top