人の生活の三大要素である「衣」に関わるファッション産業。食の社会問題と同様、環境に対する負荷に代表される様々な社会問題があり、持続可能性に対する負のインパクトは巨大なものとなっています。
ここでは、サステナブルファッションとは何か、背景にあるファッションの社会問題を一覧にして紹介するとともに、アップサイクルをはじめとした解決に向けた取組事例を紹介します。
目次
サステナブルファッションとは?
サステナブルファッションは、英語で”Sustainable fashion”と綴ります。
衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組み
を意味しています。
ファッションの社会問題一覧
二酸化炭素を大量に排出
2017年度のエレンマッカーサー財団のレポートによれば、世界で排出されるCO2の約10%はファッション産業が排出しており、このままだと2050年には26%を占めると予想しています。
石油を大量に消費
2015年には9800万トン、2050年には3億トンの石油を消費することが予想されています。
水の使用量の多さ
水の使用量では石油産業に次いでワースト2位の産業となっています。
衣類の製造には、毎年930億m3の水が使用されています。WWFの報告では、1枚のTシャツを生産するのに必要な水の量(ウォーターフットプリント)は約2700ℓとされています。これは5人分の1年間の必要飲料水量に匹敵します。
ウズベキスタンでは木綿を栽培するために多くの水を消費したため、50年でアラル海が干からびてしまった原因と言われています。
水の汚染(マイクロプラスチック排出含む)
産業に起因する世界中の水質汚染のうち、20%はファッション産業が原因となっていると言われています。
例えば、綿花栽培時に大量の殺虫剤や除草剤を使用したり、生地の染色時に使用する化学物質が川に排出することで、産業としては2番目に大きな水の汚染源となっています。
国連環境計画とエレン・マッカーサー財団によると、毎年500億本のペットボトルの量に相当する50万トンのマイクロプラスチックが、衣類の洗濯によって海に流出していると報告しています。この量は海中に浮遊するマイクロプラスチックの35%にあたります。
大量生産・大量廃棄
ファストファッションが主流になったことで、流行のサイクルは早まり、衣料品の生産量が増加し、それに伴って廃棄量も増加するという悪循環に繋がっています。世界で毎年作られる服の85%が焼却や埋め立てなどで処分されています。
また、環境省の報告では、日本国内における衣料廃棄物の排出量は2017年度は147万トンであり、そのうち再生利用される量は29万トン(約20%弱)にとどまっています。
人権問題
世界の繊維産業の平均賃金は低く、過酷な環境下で長時間働いています。また、児童労働や強制労働等の人権問題も改善が必要です。
動物虐待
コートやマフラーなどの毛皮製品や、財布や靴などの皮革製品の素材として動物の毛や皮が使われてきましたが、動物虐待にあたるとして問題視されています。
ファッションの社会問題の解決に向けた取組事例
ファッション業界の社会問題の解決に向けた取り組みとして、ここでは大量生産・大量廃棄問題の解決に向けた取り組みである「アップサイクル」と、動物虐待の解決に向けた取り組みである「ヴィーガンレザー」を紹介します。
アップサイクル
アップサイクルとは、循環型社会を目指すモノづくりの方法の一つで、捨てられるものに価値を付加して新しく別のものに生まれ変わらせるプロセスのことを意味する言葉です。
アディダスが海洋プラスチック廃棄物からトレーニングウェアを作るなど、世界中のファッション企業がアップサイクルに乗り出しています。ここでは日本企業を中心に事例を紹介します。
PANECO®
布だけではなく合成皮革など廃棄衣料品に含まれるさまざまな繊維をアップサイクルすることができる繊維リサイクルボードです。硬度があり、加工しやすいため、多様な目的に使用することができます。
アパレル企業の余剰在庫や製造過程に生じる繊維屑などの廃棄処分予定の衣料を、店舗・イベント・オフィス等のさまざまな空間のディスプレイ什器や家具、プロダクトへとアップサイクルします。また、使用後の「PANECO®」を回収し再びボードとしてマテリアルリサイクルが可能となっています。
PLUS∞GREEN PROJECT(プラスグリーンプロジェクト)
繊維専門商社であるスタイレム瀧定大阪株式会社が展開する活動で、従来廃棄される衣類などのポリエステル繊維を培地「TUTTI(トゥッティ)」としてアップサイクルすることで、人々がサステナビリティに親しみを感じるライフスタイルの実現を目指すプロジェクトです。
ポリエステルを主体に、人工ゼオライトなどを特殊混合しています。従来の培養土と同じように、野菜でも、花でも、苗木でも育てることができます。
KURAKIN(のこり染)
岐阜県にある染色整理加工を営む株式会社艶金は、食品残渣さを使って染色した生地を用いた自社アパレルブランド「KURAKIN」を展開しています。
12色のカラー展開をしています。(ワイン・あずき・くり・ほうれん草・ウーロン・ブルーベリー・おから・えごま・さくら・よもぎ・かき・ひわだ)
食品や植物を加工した後に出る、”のこりもの”を原料とした「のこり染」で染めた、リサイクルコットン100%のキャンバスを採用したオールスターが発売されるなど、ブランドやプロ野球チームなどとのコラボレーションも行っています。
UP FIRE
神奈川県茅ヶ崎を拠点にソーシャルビジネスを展開する株式会社コルが、茅ヶ崎市消防本部と消防服の国内トップシェアを有する帝人株式会社と共に、廃棄予定だった防火衣のアップサイクルに取り組んでいます。
ヴィーガンレザー
近年では、サステナビリティへの対応に積極的なブランドを中心に、植物由来の材料から作ったヴィーガンレザーと呼ばれる人工皮革を採用する例が増えてきています。
VEGEA
イタリアで2016年に設立されたVEGEA社は、年間140億トンほど廃棄されるぶどうの搾りかすから、本革に劣らない見た目としなやかさを備えたヴィーガンレザーを作り出すことに成功しました。
その人工皮革はスウェーデンのファストファッションブランドH&Mのカプセルコレクションや、英高級自動車メーカーのベントレー100周年記念コンセプトカーのシートに採用されるなどの実績が生まれています。
おわりに|サステナブルファッションとは?
ファッション産業の環境破壊や人権問題はメディアで取り上げられることも多くなり、H&MやZARAなどの世界的なSPA(製造小売業)や、NIKEやアディダスなどのグローバル企業も、積極的なサステナビリティ対応を進めています。
2019年8月には、フランスのビアリッツで開かれたG7サミットで、欧米を中心とするファッション・テキスタイル企業が参加する「THE FASHION PACT」という協定が締結されました。