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ぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザー「VEGEA」

ぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザー「VEGEA」

一面に広がるワイナリーのぶどう畑。冒頭の写真はワインの産地として知られるフランス・ボルドーやブルゴーニュで見られる美しい光景ですが、世界で年間約270億リットルのワインが生産される傍らで、使用されたぶどうの搾りかすのほとんどが伝統的に廃棄されています。(カバー写真は筆者が訪れたボルドーのワイン畑)

今回は、本革の聖地イタリアでぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザーに取り組むスタートアップ「VEGEA」をご紹介します。

ぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザー

フランスと並ぶワインの産地、そして良質な本革製品で知られるイタリアで2016年に設立されたスタートアップ「VEGEA」は、年間140億トンも廃棄されるぶどうの搾りかすから、本革に劣らない見た目としなやかさを備えたサステナブルヴィーガンレザーを作り出すことに成功しました。

その人工皮革はスウェーデンのファストファッションブランドH&Mのカプセルコレクションや、英高級自動車メーカーのベントレー100周年記念コンセプトカーのシートに採用されています。
ベントレー100周年記念コンセプトカー内装【出典】VEGEA

世界の合成皮革市場

世界の合成皮革市場は現在250億ドル(約2.9兆円)と評価されており、2025年までに450億ドル(約5.1兆円)に達すると予測され、ファッションメーカーは、よりサステナブルな消費を求める顧客のニーズを満たす、動物の皮を使用しないアニマルフリーな革の代替品を常に探しています。

H&M【出典】H&M

現在の課題は、見た目、感触、耐久性の点で、本革に並ぶ品質のヴィーガンレザーを確保することです。欧州では食べ物においても菜食主義をとる人が多く、身につけるものや家具に関してもアニマルフリーを求める消費者が増えています。特に本革を使用する機会が多いファッションおよび自動車業界は、ヴィーガンレザーの市場として重要な位置を占めるでしょう。

VEGEA創立のきっかけ

建築家やインテリアデザイナーとして13年働いていたジャンピエロ・テッシトーレ(Gianpiero TESSITORE)が、大学で化学を学んだ友人フランチェスコ・メルリーノ(Francesco MERLINO)らと立ち上げたスタートアップは、環境に配慮した未来へのコミットメントを示すために、完全菜食主義を示すVEGANの「VEG」と母なる大地を示す「GEA」を組み合わせて「VEGEA」と名付けられました。

VEGEA創業者【出典】VEGEA

創設者のジャンピエロは、インテリアデザインの仕事でソファの素材をリサーチした際に、サステナブルな素材がないと気づいたことが最初の動機づけになったと語っています。そして動物の皮でもなく、石油由来の人工皮革でもない素材が必要だと感じ、ミラノやフィレンチェの大学および国営のリサーチセンターと共同研究を始めました。

この小さなスタートアップが注目を集めたのは、2017年にH&Mファウンデーションが主催したイノベーションコンペ「グローバルチェンジアワード(GCA)」の受賞がきっかけでした。以降、イタリアの見本市やコペンハーゲンファッションサミットなどへの参加を続け、2019年にはGCAから追加助成金100万ユーロ(1億2,000万円相当)を受け設備を増強し、生産力を拡大しています。

VEGEAの生産方法

原料としているのは、グラッパを造る工程ででるぶどうの搾りかすです。グラッパ自体がワインを造る際にでるぶどうの搾りかすを熟成させたイタリアの蒸留酒。ワイナリーで出るぶどうの絞りかすをグラッパの蒸留所が買取り、熟成させてグラッパを作った後、さらに残ったぶどうの絞りかすをVEGEAが有効活用しています。
VEGEAの生産方法【出典】DAN&MEZ

提携した蒸留所から仕入れた原料を乾燥させ粉にし、不純物を取り除いた上でリネンのオイルとセイヨウアブラナのオイルを加えて攪拌。ペースト状になった原料をベースとなるオーガニックコットンまたはリサイクルコットン、リサイクルポリエステルに塗って仕上げます。EUが定めた強度、柔軟性などの基準をクリアし、1日あたり500メートル(140cm幅)の生産が可能で厚みも変えることができますが、いわゆる一般的な人工皮革と比べると30%程度高い価格設定となっています。

大手ファッションブランドに採用されるVEGEA

VEGEAはサステナブルな方法で調達された素材を求める様々なブランドとコラボレーションを行い、その存在感を高めています。

H&Mのプレミアムレディスウェアコレクション。H&Mは2030年までにリサイクルまたはサステナブルな調達の材料のみを使用するという野心的な目標を掲げています。
H&Mプレミアムレディスウェアコレクション【出典】VEGEA

フランスのスポーツブランド、LeCoqSportifとの最新のコラボレーションから生まれた、植物と環境にやさしいスニーカー。
LeCoqSportifとのコラボスニーカー【出典】VEGEA

本稿の冒頭でも取り上げたベントレーのコンセプトカーのシート部分にもVEGEAが採用されています。その品質の高さはもちろんのこと、ワインやシャンパーニュの材料であるぶどうから生産されているため、高級ブランドのイメージを損なうこともありません。
ベントレーのコンセプトカー【出典】VEGEA

この他にもカルティエを傘下に持つフランスのリシュモングループやアメリカのファッションブランド、カルバン・クラインのレザー製品ともコラボレーションを行っており、VEGEAを採用するブランドは今後も増えると予想されます。

おわりに

2019年8月にフランスのビアリッツで行われたG7において、フランスのマクロン大統領主導のもと、気候変動、生物多様性、海洋保護の3分野で具体的な改善目標に向かって取り組むことを誓約した「THE FASHION PACT」が発足しました。ファッションおよびテキスタイルの企業が対象で、ケリング(KERING)、シャネル(CHANEL)、エルメス(HERMES)、ナイキ(NIKE)、アディダス(ADIDAS)、H&Mなど欧米を中心に71社以上が加盟、日本からも2020年にアシックス(ASICS)が参加しています。

製造過程で大量の水や化学製品を使用する上に、流行のサイクルが早く大量生産、大量廃棄を行っているために、国連貿易開発会議(UNCTAD)による環境汚染産業ランキングで2位とされたファッション業界。サステナブルな素材への注目度と需要は確実に高まっています。

こうした流れのなかで、ヴィーガンレザーは日々技術向上を重ねながら需要に応えようとしています。認知度が上がるにつれて需要が増し、安定した生産と供給が可能になれば、手の届きやすい価格帯になることが期待されます。

廃棄される食料をアップサイクルし、動物への配慮もできるVEGEAの取り組みは、安定的な生産が確保されれば環境にとっても消費者にとっても理想的なビジネスモデルといえるのではないでしょうか。

References:
•H&M debuts leather alternative made from wine waste. The Drinks Business. (2020, January 31). Retrieved February 1, 2022
•Kohlbacher, C. (2021, June 5). Grape leather – the vegan wine fabric from Vegea. DAN AND MEZ – Sustainable Vegan Watches. Retrieved February 1, 2022
•Living, V. F. and. (2021, October 27). H&M debuts vegan leather made from Wine Waste in new eco-friendly collection. Vegan Food & Living. Retrieved February 1, 2022
•Yvanna, Solwen, Phphuoc, SCHURMANN, E., Edilaine, A. 9 mars 2019 R. B., Amélie, celine, L., & bluffants, 4 cuirs végétaux totalement. (2018, March 12). Le cuir de raisin vegea. citizenV. Retrieved February 1, 2022

寄稿者

黒坂 麻衣子
東京外国語大学卒、Institut Supérieur de Marketing du Luxe MBA修了。パリ在住。フランス系大手自動車会社勤務の傍ら、食をベースにした健康的でサステナブルな暮らしの重要性を感じ、ジュニア野菜ソムリエ、フードコーディネーター資格を取得する。独立後、レシピ本の執筆や企業のメニュー開発を経験。渡仏し見聞を広め、カルティエ主催の大学院にてラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。ハイブランドが行うサステナブルな取り組みを始め、欧州のフードテックを中心に取材・執筆を行っている。
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