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フードテックの世界市場規模は700兆円超|SDGs達成にも大きく関わる

フードテックの世界市場規模は700兆円超|SDGs達成にも大きく関わる

食を巡る様々な社会課題を解決するためにはイノベーションが欠かせません。2014年頃から北米を中心にフードテックへの投資が拡大しており、今後の市場規模は700兆円(SKS創業者Michael Wolf氏)とも言われており、SDGsのゴール達成にも大きく関与してくるものとして注目されています。

ここではフードテックについて説明するとともに、代替プロテイン(タンパク質)・細胞農業・垂直農業・陸上養殖・3Dフードプリンターなどの注目領域を紹介します。

フードテックとは?

フードテックとは「食(Food)」と「技術(Technology)」を組み合わせた造語です。食とIT・バイオテクノロジーなどの最先端技術が融合することで起こるイノベーション・トレンドのことを意味しています。

似た言葉として、「農業(Agriculture)」と「技術(Technology)」を組み合わせた「アグリテック」という造語もあります。農業領域でIoTやAI、ドローンなどのICT技術を活用して人の負担を大幅に軽減するなどのイノベーションを目指していますが、ここでは農業も広い意味で「食」に含まれると見なし、アグリテックも含めて紹介していきます。

2020年10月に農林水産省や民間企業で作る「フードテック官民協議会」が発足されるなど、日本政府も成長産業としてフードテックを支援していく事を決定しています。

ここからは、フードテックにおける注目領域を紹介していきます。

代替プロテイン(タンパク質)

(植物由来)代替肉

大豆などの植物性のタンパク質を原料として、見た目・味・匂い・食感などを本物の肉に似せて作る食品を「(植物性)代替肉」と呼びます。「人工肉」と呼ばれることもあります。

植物由来のものだけでなく、培養肉も合わせて代替肉とする場合もあります。

矢野経済研究所によれば、2020年の代替肉(植物由来肉・培養肉)の世界市場規模は約2572億6300万円、2030年には約1兆8723億円に拡大すると予想されています。

増加を続ける人類の食糧不足解決、畜産業が環境に与える負の影響の軽減、菜食主義者への栄養供給といった、多くの社会課題の解決に貢献する食品として、いま最も注目を集めているフードテック領域と言えるでしょう。

アメリカでは、ビヨンド・ミートが2019年5月にナスダック市場に上場。インポッシブルフーズも企業評価額が10億ドルを超えるユニコーンとなっています。これらのスタートアップ以外にも大手を含むたくさんの企業がこの領域に参入しており、大手ハンバーガーチェーン(マクドナルド・KFCなど)や、食品スーパー(ホールフーズ・マーケットなど)でも販売されています。

当サイトが、2021年8月に全国の20〜60代の男女1000人を対象に実施した、「社会問題・ソーシャルグッドに関する意識・行動調査」の結果によると、「代替肉」という言葉の認知度は66%となりました。

認知レベルの内訳としては、「意味までよく知っている」が4%、「意味をある程度知っている」が8%、「名前だけ知っている(意味は知らない)」が14%となっています。SDGsやCSVなど10個の単語の認知度の中でSDGs73%に続き2番目という結果となりました。

代替肉-認知度

培養肉(細胞農業)

学問と医学の分野で開発された技術を利用して、ほんの少量採取した動植物の食べられる部分の細胞だけを取り出して生体外で筋組織をつくる”細胞培養”という技術を用いて、本物と変わらない牛肉や魚、野菜などの食材を作り出すことができます。「細胞農業」とも言われています。それによって、牛などの動物の幹細胞を培養し、増殖させて作り出した代替製品のことを「培養肉」と呼びます。

畜産を中心とそた農業の環境負荷を大幅に削減することができ、食肉の汚染源となる糞尿も発生しないため、衛生管理も容易で、大変期待されているテクノロジー領域です。

現状では製造にあたり膨大なコストがかかることや、消費者からの支持を得られるかどうか課題となってしますが、ビルゲイツやジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソンといった実業家の大富豪が細胞農業に投資しています。

昆虫食

昆虫はタンパク質が豊富で栄養価が高く、生産に必要な餌や水、土地が少量で済むことから研究が進められています。

持続可能な社会にむけた食料生産手段の1つとして、2013年の国連食糧農業機関(FAO)のレポートで推奨されて以来、注目されている分野です。

EUでは、2018年に食用の昆虫の取引が自由化されました。また、カナダやヨーロッパでは、既に大手食品メーカーや小売店が新食材として採用を始めており、日本でも大手小売店などで取り扱いが開始されています。

また、資源が限られる宇宙などでも得られる動物性食物として優れていることから、将来、人類が宇宙ステーションに長期滞在する際や火星などへ移住する際の「宇宙食」としての研究もされています。

発酵・微生物

微生物を使って発酵を促すことでプロテインを組成する手法です。持続可能な食品への投資の成長を追跡している「The Good Food Institute(GFI、グッドフード・インスティテュート)」によると、発酵技術が植物性代替肉と培養肉に続く第3の柱として浮上してきていると評価しています。

発酵代替タンパク質の生産方法は、主に3つあります。

1つ目の方法は「微生物発酵」です。この方法は長年にわたって利用されてきました。微生物の酵素により、ある種の食品を別の種類の食品に変えます。(味噌やヨーグルト、お酒など)

2つ目の方法は「ホールバイオマス発酵」です。Quorn社のマイコプロテイン製品がこれに該当します。

3つ目の方法は「精密発酵」です。カスタマイズされた微生物を用って特定のタンパク質を大量に生産します。ほぼすべてのチーズに含まれるレンネットというタンパク質は、現在では特殊な酵母菌株を使って生産できます。

藻類タンパク質

藻類は、クロロフィルを含む水生植物で淡水と海水の両方に生息しています。主な種類には、紅藻類、緑藻類、青緑藻類などがあります。スピルリナやクロレラのように高タンパクなものもあり、栄養補助食品や機能性食品・飼料として利用されており、有望な代替タンパク質として注目されています。

株式会社グローバルインフォメーションのレポートによれば、藻類タンパク質の市場規模は2020年には3億6,140万米ドルとなりました。2028年には7億900万米ドルに達すると予測されています。2020年にはスピルリナセグメントが市場をリードし、今後もその優位性を維持することが予想されているとのことです。

マイコプロテイン

英語で、Myco Protein と綴ります。Mycoはギリシア語で真菌を意味します。

マイコプロテインは、1980年代のイギリスで将来的な食糧危機を懸念して開発されて以来、タンパク源として食べられてきた糸状菌です。質感は鶏肉によく似ていて、わずかにマッシュルームのような香りがするそうです。日本では扱われていませんがヨーロッパやアメリカではスーパーで普通に購入できます。

マーロウフーズから「Quorn(クォーン)」というブランド名で14カ国で販売されています。同社によれば、「菌はパン生地に似た形状を示し、とても細かな繊維質のかたまりとなります。この繊維は肉繊維と類似しているため、クォーン製品は動物性でないにもかかわらず、赤身の肉と似た食感が味わえる」とのことです。

また、クォーン1グラムを作のに、肉1グラムを作るエネルギーのわずか5分の1ほどしか必要としないとのことです。

代替タンパク質(プロテイン)ビジネスに挑む国内フードテック企業一覧

陸上養殖

陸上養殖とは、陸上に人工的に創設した環境下で養殖を行うもので、天然環境から海水等を継続的に引き込み飼育水として使用する「かけ流し式」と、飼育水を濾過システムを用いて浄化しながら循環利用する「閉鎖循環式」があります。

「かけ流し式」は環境に与える負荷が大きいため、現在は新規に開設することはできなくなっています。そのため、閉鎖循環式と、かけ流し式と閉鎖循環式を組み合わせた「半循環式」が注目されています。

矢野経済研究所の調査によると、2018年度の国内陸上養殖システム市場(事業者売上ベース)は50億8,800万円、2023年度は87億6,000万円に拡大する見通しとのことです。

陸上養殖とは?陸上養殖技術ベンチャー企業まとめ

また、陸上養殖と水耕栽培を組み合わせ、収益を向上させると共に節水効果や化学肥料が不要など、環境にも良いという利点を持つ「アクアポニックス」に対する関心も高まってきています。

アクアポニックスとは?メリット・デメリット|アクアポニックスに挑む注目企業まとめ

垂直農業

限られたスペースでより多くの食糧を生産する目的で、高層建築物の階層・傾斜面を使用して垂直的に植物を栽培する農法です。

垂直農業が実現すると、消費地に近い(地価が高い)場所での農業が可能になり、輸送距離・時間が短縮されます。

屋内で植物を栽培する「植物工場」の一種ですが、より限られた土地面積で収穫量を増やすために、スペースを垂直方向に広げていくという点が特徴です。

都市部における農業という点で「都市型農業(アーバンファーミング)」という領域との接点も多くなります。

スーパーやレストランなどの施設内で垂直農法で栽培し、採れたものをそのまま販売したり使用したりする試みもなされています。

3Dフードプリンター

アメリカの市場調査会社レポートリンカーのレポートによると、3Dフードプリンターの世界市場規模は、2019年時点で9871万ドル(約109億円)となっており、年率29.84%で成長を続け、2025年に4億7295万ドル(約520億円)に成長すると予想されています。

3Dプリンタには以下に示すような特徴があり、これまでの「同一規格化・大量生産による低コスト化」のマスプロダクション型のビジネスモデルを変える可能性がある。

  • 数量効果に囚われない経済性
  • 複雑な製品形状でも変わらない生産性
  • デジタル在庫という強靭性

現時点では試験的に使われるに留まっており、本格的な利用が始まったとはみられていませんが、未利用食材の活用によるフードロスの解決、個人データに基づいた食事提供によるwell-being向上、宇宙での食料供給といった多方面において、3Dフードプリンタの事業化に向けた動きがある。

ゴーストキッチン

ゴーストキッチンとは、デリバリーやテイクアウトに特化した無店舗型の飲食サービス業態です。ゴーストレストラン、バーチャルレストランと呼ぶこともあります。

インターネット上には存在するけれど、実店舗がなく、お客さんからは見えないキッチン・レストランということからの命名でしょう。

WEBサイトやスマホアプリなどで注文を受け、UberEatsやGrub Hub、Door Dashなどのデリバリーサービスを利用して注文者の指定した場所に料理を届けます。

上記に加えて、複数の料理人や店舗オーナーがキッチンをシェアしてコストを抑えて運営する「クラウドキッチン」というスタイルを組み合わせる場合もあります。

おわりに|フードテックとは?市場規模や注目領域まとめ

温暖化ガス排出・森林破壊・海洋資源の乱獲・食品ロス・飢餓や低栄養、肥満による健康被害など、グローバルフードシステムが世界に与える負のインパクトは巨大です。

世界を持続可能にするためにフードテックがもたらすイノベーションが果たす役割はとても大きなものになるでしょう。

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