DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を目にしたり耳にしたりした人は多いのではないでしょうか?DXは、日本企業の競争力を持続的に高めることを目的として、2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を公開したことが起源となっています。
同じように、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という言葉が、経済産業省が設置した委員会によって提唱されており、今後は企業経営の重要な言葉として広がっていくことが予想されます。
ここでは、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という言葉について、その概要、必要とされる理由などについて説明します。
目次
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の概要
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、不確実性が高まる環境下で「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させることを目指す戦略指針のことです。
経済産業省が設置した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が2020年8月に発行した中間取りまとめで提唱されました。
本報告書の中で、以下の3つの具体的な取り組みを通じた経営の在り方・対話のあり方のことを「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶ、と述べられています。
①企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、事業ポートフォリオ・マネジメントやイノベーション等に対する種植え等の取組を通じて、企業のサステナビリティを高めていくこと、
②不確実性に備え、企業としてのレジリエンスを高めるために、長期的な社会の要請(社会のサステナビリティ)を踏まえ、それをバックキャストして企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な「リスク」と「オポチュニティ」双方を的確に把握し、 それを具体的な経営に反映させていくこと、
③不確実性が高まる中で、企業のサステナビリティを高めていくための具体的な経営の在り方は、一度で決まるものではなく、将来に対してのシナリオ変更がありうることを念頭に置き、企業と投資家が、①②の観点を踏まえた対話を何度も繰り返すことにより、 企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高めていくこと
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)がなぜ必要とされているのか?
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が設置されるまでの流れを振り返ってみることで、何故、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が提唱されるに至ったかを理解することができます。
はじめは、日本企業が継続的低収益性のパラドックスから抜け出すための提言として、2014年に「伊藤レポート」が発行されました。
2017年には「伊藤レポート 2.0」が公表され、企業の無形資産への投資やESGへの取組の重要性が示唆されるとともに、それらが中長期的な企業価値の創造につながるということを、「価値創造ストーリー」として語ることの必要性が強調されました。そのための共通言語として「価値共創ガイダンス」が策定されるなど、日本企業の稼ぐ力の強化による企業価値の創造に向けた協議と取り組みを進めてきました。
しかし、2014年の「伊藤レポート」の公表後、DXの進展・新型コロナウイルスの感染爆発・米中対立構造の深化というように、社会環境の不確実性が高まるとともに、ESG・SDGsなどの企業のサステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(強靱性)強化への要請が高まってきたことを受けて、2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が設定され、「企業のサステナビリティ」を考えるだけでなく、それを「社会のサステナビリティ」に同期させることの必要性が提言されることとなりました。
サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 委員
〈座長〉
伊藤 邦雄 一橋大学 CFO 教育研究センター長
〈委員〉
井垣 勉 オムロン株式会社 執行役員 グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部長
市村 雄二 コニカミノルタ株式会社 常務執行役
岩﨑 亨 TOTO株式会社 上席執行役員 経営企画本部長
江良 明嗣 ブラックロック・ジャパン株式会社 運用部門 インベストメント・スチュワードシップ部長
奥野 一成 農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役 CIO
加藤 浩嗣 株式会社丸井グループ 取締役 常務執行役員 CFO
亀井 達彦 アニコム ホールディングス株式会社 取締役 常務執行役員
古泉 直子 亀田製菓株式会社 取締役 グループ会社・ダイバーシティ担当
三瓶 裕喜 フィデリティ投信株式会社 ヘッド・オブ・エンゲージメント
釣流 まゆみ 株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 経営推進本部 サステナビリティ推進部シニアオフィサー
中空 麻奈 BNPパリバ証券株式会社 グローバルマーケット統括本部 副会長
花﨑 浩二 塩野義製薬株式会社 上席執行役員 経営戦略本部長
平原 彰男 三井化学株式会社 常務執行役員
藤野 英人 レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長・CIO
松原 稔 りそなアセットマネジメント株式会社 執行役員 責任投資部長
溝内 良輔 キリンホールディングス株式会社 常務執行役員
※2020年8月時点
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に関する書籍
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を主題として書かれている書籍として、『SXの時代』を紹介します。
『SXの時代』 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営
【発行日】2021年4月12日
【著者名】坂野 俊哉、磯貝 友紀 著
【発行元】日経BP
世界では、サステナビリティを軸にした経営改革(サステナビリティ・トランスフォーメーション=SX)に取り組むグローバル企業が増えており、サプライチェーンに連なる多数の取引先に影響が及ぶため、自社が望もうが望むまいがサステナビリティ経営に向き合う必要があると指摘しています。
そんな中、日本企業の危機意識は希薄で、「利益につながる事業の本丸」とまでは考えていないところが大半で、「事業の本丸とは別世界で繰り広げられるアピール合戦」の様相を呈していると批判しています。
その上で、「ムダなサステナビリティ・SDGs合戦」から解放すべく、サステナビリティ経営の基本から、利益を出すための要諦、KPIを設定したマネジメント方法まで、数多くの事例とともに解説しています。
まとめ|SXとは?
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、単にSDGsやESGに対応してアピールしましょうといった次元の低い話ではなく、不確実性の高い未来を生き残っていくための経営戦略作りの指針であるということが分かって頂けたと思います。
「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」は続いていますので、最終報告を注視しましょう。