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自分の服を育てよう!微生物が紡ぐヴィーガンレザー

自分の服を育てよう!微生物が紡ぐヴィーガンレザー

欧米を中心に急速に広まっているヴィーガンレザー。その素材はさまざまです。

前回はぶどうの搾りかすからセルロースを取り出し、ベースの生地に塗布する試みを紹介しましたが、今回は微生物が生産するセルロースをそのまま布状にしてしまう、ラボのなかで完結する製造方法です。

自然発酵プロセスを利用したプロジェクト「バイオクチュール」

【出典】TED

ロンドンの世界的な服飾系専門学校、セントラル・セント・マーチンズカレッジの研究者であり、ファッションデザイナーでもあるスザンヌ・リー(Suzanne Lee)は、バクテリアと酵母からセルロース繊維を製造する革新的な技術を開発しました。

その結果、生分解性で耐性のある素材が生まれ、ファッション業界をより持続可能なものにする道が開かれたのです。このバクテリア、藻類、酵母、菌類などの生物から生地を生産するプロジェクトは「バイオクチュール(Biocouture)」と呼ばれ、こうして生まれた生地は革に似た特性を持っています。
【出典】The Next Black – Biocouture

生成された材料は完全に生分解性を有しており、充分な強度を持っています。また、果物・ターメリック・インディゴなどの天然染料で着色をすることで、その自然に還る性質を保つことができます。
【出典】TED

「バイオクチュール」生地の作り方

微生物からマット状の生地を作り出す。一体どのようにして可能なのでしょうか。

まず、求める生地の大きさと同じ程度の広さの容器を用意します。そこへ30°C弱に温めた緑茶を30リットル満たします。2キロの砂糖を加え、バクテリア、酵母、酢の蒸留で得られた酢酸と混ぜていきます。すると自然な発酵プロセスが始まり、バクテリアは砂糖を食べて、純粋なセルロースの小さなナノファイバーを紡ぎだすのです。
【出典】TED

紡がれた繊維は集まって徐々に層を成し、浮き上がってきます。
【出典】TED

2-3週間後には、固形の革のようなマット状のものが表面部分に形成されます。この時点では7割が水分で非常に重い素材です。そして砂糖菓子のような甘い匂いがするそうです。

【出典】TED

次に、それらを太陽光で乾かします。乾燥時間を長くとると、生地は紙のように薄くて硬くなり、逆に短時間のみ露出すると、他の植物性のヴィーガンレザーのように柔らかく仕上がります。
【出典】TED

その後には動物由来の革と同じく、裁断や縫合を行うことができます。靴型のような立体的な形で乾燥させれば、永続的な3Dの形を作ることもできます。
【出典】TED
【出典】The Next Black – Biocouture

他の植物由来のヴィーガンレザーが最終工程で微量の化学物質を混ぜ込む場合があるのに比べ、この微生物の発酵を利用した製造プロセスは完全に自然で、生地の色彩を決めるのは酸化鉄や果物・野菜などの天然染料です。
【出典】TED

スザンヌ・リーは、この生地は動物でも植物でもない合成皮革であるとしています。さらに、このセルロース生地は、果物の皮のように100%堆肥にできるのです。

「バイオクチュール」から生まれる製品は、生命が紡ぎ出す素材という意味で、貝のなかに生まれる真珠や、カイコが吐く生糸に例えることもできるでしょう。バイオクチュールの生地は微生物そのものではなく、微生物の活動によって生成された材料でできているからです。

バイオクチュールの優れた点、改善点

この発酵プロセスを経ることで得られる生地の特徴は、必要な分を必要な分だけ成長させることができる点です。また、余計な電気や大量の水を消費することもありません。食品工場から出る糖分を含んだ排水を溶液として使用することさえ可能です。

それだけでなく、完成された生地も完全に生分解性なため、古くなった洋服をゴミ箱に廃棄する必要もありません。堆肥として土へ還すことができるのです。

欠点としては、発酵のプロセスに時間がかかること、そして耐水性に劣ることです。微生物が紡いだセルロース繊維に化学的な防水処理を施していないために、雨に触れると水分をみるみる吸収し、重くなり、さらには溶け出してしまいます。目下この点が実用化に向けて改善されるべきでしょう。

おわりに

スーザン・リー自身は、「この素材が従来の皮革や綿に完全にとって代わるとは考えてない、ただ、貴重な天然の資源を補うひとつの素材にはなりうる」と述べています。そして最終的には、ファッションの領域にとどまらず、照明や椅子などの家具や、車、果ては家までもこの素材で作ることも可能になり、将来、わたしたちが自らに必要なものを「バイオクチュール」で育て、作り出すことができるかもしれないと夢を語りました。

動物はおろか、植物さえも主材料としないこの「バイオクチュール」。天然にある資源を保護し、すべてのプロセスをラボのなかで完結できるこのイノベーティブな取り組みは、汚染されていることが知られている繊維産業に持続可能な原材料を提供し、革命を起こす可能性を秘めています。

一見したところその洋服は着心地がよいようには見えませんが、スタートしたばかりのこの取り組みがヴィーガンレザーとしてはもちろん、その枠組みを超えてどのように進化していくのか、非常に興味深いところです。

References:
•Gique@giqueme. (n.d.). Suzanne Lee, bio-couture Pioneer. Living Circular. Retrieved February 10, 2022.
•The next black – a film about the future of clothing – youtube. (n.d.). Retrieved February 10, 2022.
•Suzanne Lee: Biocouture. LAUNCH. (n.d.). Retrieved February 10, 2022.
•Suzanne Lee: Grow your own clothes – youtube. (n.d.). Retrieved February 10, 2022.
•UG, K. (2020, November 3). Biocouture on the spotlight. Kleiderly. Retrieved February 10, 2022.
•What is biocouture? The Girl Blog – Womens Blog. (2021, April 17). Retrieved February 10, 2022.

寄稿者

黒坂 麻衣子
東京外国語大学卒、Institut Supérieur de Marketing du Luxe MBA修了。パリ在住。フランス系大手自動車会社勤務の傍ら、食をベースにした健康的でサステナブルな暮らしの重要性を感じ、ジュニア野菜ソムリエ、フードコーディネーター資格を取得する。独立後、レシピ本の執筆や企業のメニュー開発を経験。渡仏し見聞を広め、カルティエ主催の大学院にてラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。ハイブランドが行うサステナブルな取り組みを始め、欧州のフードテックを中心に取材・執筆を行っている。
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