ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

ヴィーガンレザーとは?ハイブランドが植物由来のものを続々と採用

ヴィーガンレザーとは?ハイブランドが植物由来のものを続々と採用

SDGsの達成に向けてさまざまな業界でサステナブルな取り組みが行われています。動物性の素材を使わないアニマルフリーのヴィーガンレザーもそのひとつです。

20年近くに渡ってファッション業界にエシカル・ファッションの重要性を発信し続けてきた英ブランド、Stella McCartney(ステラ・マッカートニー)を始め、自動車メーカー「フォルクスワーゲン」がシートの表面にアップルレザーを採用するなどハイブランドも続々とヴィーガンレザーを取り入れています。

ヴィーガンレザーとは?

greenbananapaper【出典】green banana PAPER

「ヴィーガンレザー」とは、耳慣れた言葉で言い換えると「フェイクレザー」のことを指します。

今までの一般的な本革製品を製造するためには、動物の犠牲はもちろん、製造過程でも毒性のある化学製品を使い、大量の水を使用するなど、決してサステナブルとは言えない過程を経ていました。

一方、ヴィーガンレザーは動物の皮を使用せずに革の見た目・質感を再現した素材で、主に基布に合成樹脂を塗り重ねることで作られます。プラスチックなどの合成皮革やコルクなどの天然素材など、ヴィーガンレザーの製造に使用できるさまざまな素材があります。なかでも植物由来のヴィーガンレザーは、環境に配慮された素材であるということから注目が高まっています。

一口にヴィーガンレザーといっても、素材や構造によってさまざまな特徴があります。合成皮革に最もよく使用される材料は、石油由来の材料であるポリ塩化ビニル(PVC)とポリウレタン(PU)です。

ただし、これらの今まで一般的に使用されてきた合成材料は、環境に対するヴィーガンレザーの安全性と危険性に対し疑問を投げかけています。天然素材をベースに作られたヴィーガンレザーはまだ貴重ですが、環境に優しく、現在ではきのこやりんご、さらにはバナナの葉などの素材で作られた製品を見ることができます。

ヴィーガンレザーはどうやって作られる?

ヴィーガンレザーのうち、合成皮革は化学物質を素材とし、本革とは異なる工業プロセスを経て製造されています。布にコーティングを施すプラスチックの種類によって環境への負荷が変わります。

ダイオキシンを放出するPVCは1970年代に比べ減少しているものの、現在も一部のヴィーガンレザーには含まれています。ダイオキシンは閉じられた空間では潜在的に危険であり、燃焼すると特に危険です。また、柔軟性を増すために使用されるフタル酸エステルなどの可塑剤は種類により高い毒性があり、英環境団体グリーンピースによって「最も環境に有害なタイプのプラスチック」 と呼ばれています。

PVCに比べ環境への負荷が少ないプラスチックとしてPUが誕生し、製造中に放出される有害な毒素や化石燃料を使用して製造される油性ポリマーなどの欠陥を減らすために、常に技術的に改良され続けています。

これに対し、植物性のヴィーガンレザーは様々な天然素材を使用し、製造過程も素材により異なります。使用されるプラスチックも合皮に比べて少量または完全に抑えることができます。

アップルレザーの場合、廃棄される芯や皮を粉末状に加工したものをポリエステルで固め、その上からコットンポリエステル地をコーティングすることで、レザー調に仕上げられています。表面の樹脂層には粉末状のアップルパウダーが30〜40%含まれ、質感はまるで本物のレザーのようで、非常に柔らかい仕上がりです。

アップルレザー【出典】ラヴィストトーキョー

ヴィーガンレザーの見た目や臭いは?

人工的に作成された合皮に関しては、良質なものの見た目は本革とそれほど違いはありません。ただ、年月を重ねて味が出てくる本革に比べ、化学的に作られた合皮の耐久性は2-3年で、使い込むに従いボロボロと生地が傷むこともあるでしょう。また、通気性も毛穴のある本革に比べはるかに劣ります。

植物性のヴィーガンレザーの風合いはその素材によりますが、イタリアの見本市で絶賛されたサボテンベースのヴィーガンレザーやアップルスキンのようなりんごの廃棄物から作られたヴィーガンレザーの中には、その滑らかさや柔軟性から本革に負けずとも劣らない質を誇るものもあります。また、バナナの葉やコルクを素材とし、あえてその風合いを活かしている製品もあります。
arture【出典】Arture Online Store

PVCまたはPUで作られたヴィーガンレザーは、製造時に使用された化学物質から非常に奇妙な臭いがすることがあります。「魚臭い」とも形容されるこの臭いは、時間が経つにつれ弱まる場合もありますが、一般的には取り除くのが非常に難しいとされています。合皮に湿気による損傷を防ぐためや光沢を与えるために施された保護コーティング剤が臭いの原因の場合、重曹でこすり洗いをし、温水と食器用洗剤で表面を洗い流すとコーティングを取り除くことができる反面、素材を痛めてしまう可能性があります。

一方、天然素材をベースにした植物性のヴィーガンレザーはこれら悪臭を発生させる化学製品の使用を抑え、きのこや竹など、素材によっては細菌の繁殖の防止や消臭に効果があるものもあります。

hiconsumption大きくなりすぎて食用にならないきのこから作られたマッシュルームレザー。消臭効果に期待できるとのことです。
【出典】HICONSUMPTION

ヴィーガンレザーは環境に良い?

ヴィーガンと本革のどちらを選ぶかを決める際、ほとんどの人にとっての主な関心事は、それが動物と環境に与える影響です。

動物の悲しい犠牲の上に成り立ち河川を汚染する今までの本革と比較し、「ヴィーガンレザー」という用語は環境に優しいイメージを持たれますが、かならずしも全てがそうであるとは限りません。ここまで述べたように、PVCやPUを使用したヴィーガンレザー(フェイクレザー)は製造過程で化学物質を使用し、生物分解できない素材をベースにしているからです。

植物性の素材をベースにしたヴィーガンレザーには、樹皮を数年に一度切り取るのみで本体のコルク樫を切り倒す必要のないコルクや、葉の一部を切り取り再生を促すサボテンなど、サステナブルな素材をベースにしているもの、ジュースを製造する際に出る廃棄物の芯や皮を利用するりんご、ワインを生産する過程ででるぶどうの搾りかすを使ったアップサイクルな素材をベースにしているものがあります。製造過程で使用する化学製品も最小限に抑え、多くの製品は生物分解可能なため、こちらはサステナブルで環境に良いと言えるでしょう。

vegea英国の高級車ベントレーのコンセプトカーに採用された「VEGEA」のヴィーガンレザー。グラッパを製造する際にでるぶどうの搾りかすを使用しています。
【出典】VEGEA

ヴィーガンレザーは本革よりも優れている?

耐久性について

ヴィーガンレザーと本革を比較する際には、品質と耐久性も考慮すべきでしょう。ヴィーガンレザーは合成皮革であれ植物性であれ、本革よりもはるかに薄く軽量で取り扱いが容易ですが、耐久性が低くなります。

本革は時間の経過とともに古くなり味わいを増し、それが個性となります。本物の良質の革は、手入れをすると数十年に渡り使い続けられますが、良質の合成皮革の場合、その靴は1年ほどしか使用に耐えられない場合もあります。結果的に合成皮革製品を複数回交換することになり、環境へ与える影響が少なくないでしょう。

通気性について

本革には皮膚が呼吸できる毛穴がありますが、合成皮革、特にPVCを使用した製品は通気性がなく、ジャケットなどの衣料品の場合、長時間着用すると不快になる可能性があります。

価格について

合成皮革は通常、本革製品よりもはるかに安価です。これは、工業的に合成皮革を製造する方がコストが安いためです。

一方、本革を製品にするまでには非常に熟練した職人の技が必要であり、ソファ、ジャケット、バッグなどの特注の本革製品は数十万円になります。それでもこれらの本革製品は高品質で耐久性に優れていると考えられているため、市場でもニーズがあり続けるのです。

植物性の素材ベースのヴィーガンレザーの場合、まだ大量生産の仕組みが整えられていないため、場合によっては合成皮革よりも高い可能性がありますが、環境意識の高い消費者にはその価値を認められて受け入れられています。サボテンをベースにしたメキシコの「Desserto」のように、すでに本革と同様の価格帯を実現しているブランドもあります。
desserto【出典】DESSERTO

ヴィーガンレザーの扱い方法

お手入れ方法

植物性のヴィーガンレザーは素材やその製造方法が様々で、そのためお手入れ方法も異なるため、ここでは合成皮革のヴィーガンレザーのお手入れ方法について紹介します。

ヴィーガンレザーはプラスチックコーティングが施され、すでに防水機能を持っています。そのため、中性洗剤を使用したり、湿らせた布で拭いたりするだけで簡単に汚れを取り除くことができます。

ただし、本革の場合はコンディショニング製品を浸透させて乾燥やひび割れを防ぐことができますが、合成皮革の製品ではそのようなお手入れはできません。特に質のよくない製品であった場合、高温や太陽光線による劣化が発生する場合があります。

ヴィーガンレザーは染められる?

植物性の素材をベースにしたヴィーガンレザーは細かく砕いた素材を固める過程で染色物を混ぜ込んだり、コーティングを施す前に染色したりすることが可能ですが、その方法は素材とその製造方法により多岐に渡ります。

合成皮革は本革ほど浸透性が高くないため、染料を吸収しにくい素材です。したがって、染色した後でも時間の経過とともに色が薄くなり、染色プロセスを繰り返す必要があるかもしれません。自身で染色を行う場合は製品の注意事項をよく読み、自己責任で行ってください。下記にその一例を紹介します。

  1. 合成皮革の表面をきれいな布で拭いて、ほこりや汚れの粒子を取り除きます。完全にきれいにするために、アルコールで製品を拭くことをお勧めします。
  2. きれいに拭いたのちによく乾かしたら、室内装飾用塗料で染色します。推奨される乾燥時間については、塗料製品の説明を参照してください。全体に塗る前に、まず製品の目立たない箇所へ塗り、必ずテストを行ってください。

おわりに

動物保護や環境負荷への配慮から、本革製品の購入を控える人は多く、企業側もシャネルがワニやヘビなどの爬虫類のレザーの使用を止めると発表するなど、今後も「本革離れ」は加速すると見られています。

その一方で活況なのがヴィーガンレザー市場であり、さまざまな素材を元に開発が進み、エルメスやアディダスなどの大企業が次々と商品を開発しています。

ラグジュアリーな消費よりも環境保全に意識を向け、ハームレスでここちよい消費を求めるZ世代やミレニアルを中心に、合成皮革以外の植物性素材をベースとした、文字通りのヴィーガンレザーが今後引き続き成長していくことでしょう。

バナナの葉や、サボテン、リンゴなど、本革のイメージとは懸け離れた素材が使用されていることに驚きを覚えますが、実際は、今までの本革製品にも負けない品質のものが続々と市場に出てきています。

何より、動物を犠牲にすることなく、有毒な化学製品や水を大量に消費することなく、食品の廃棄部分や木を倒さずに再生可能な部分を使用するなど、持続可能な生産方法であることが、人にとっても地球にとっても素晴らしいことだと感じます。

References:
– Appianing, M. K. (2022, January 7). 6 reasons faux leather smell like fish & how to fix the Smell. FavoredLeather. Retrieved January 31, 2022
– Desserto: Cactus Vegan Leather. YouTube. (2020, February 18). Retrieved January 31, 2022
– Green Banana Paper. (n.d.). Handmade Wallets, business cards, corporate gifts. Green Banana Paper. Retrieved January 31, 2022

マッシュルームレザーの量産化に挑む MYCL Japan(マイセルジャパン)

寄稿者

黒坂 麻衣子
東京外国語大学卒、Institut Supérieur de Marketing du Luxe MBA修了。パリ在住。フランス系大手自動車会社勤務の傍ら、食をベースにした健康的でサステナブルな暮らしの重要性を感じ、ジュニア野菜ソムリエ、フードコーディネーター資格を取得する。独立後、レシピ本の執筆や企業のメニュー開発を経験。渡仏し見聞を広め、カルティエ主催の大学院にてラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。ハイブランドが行うサステナブルな取り組みを始め、欧州のフードテックを中心に取材・執筆を行っている。
Return Top