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微生物を利用してバイオ素材開発に挑戦する海外ビジネス事例

微生物を利用してバイオ素材開発に挑戦する海外ビジネス事例

日本では2006年頃に自動車メーカーと化学繊維メーカーを中心に「バイオファブリック」と呼ばれる、トウモロコシなどを原料とする植物由来織物の発表が相次ぎましたが、その後は人工合成クモ糸素材などのタンパク質素材を開発するSpiber(山形県鶴岡市)が注目されているくらいに留まっています。

その一方で、海外では新しいバイオ素材がたくさん生まれています。食料との競合もない食物残渣や繊維屑などを原材料とし、微生物やバクテリアを活用することで、テキスタイルやコンクリートなどの多様なバイオ素材を生み出す技術を持ったスタートアップが続々と生まれています。

MycoWorks(米国)

mycoworks▼運営サイト: MycoWorks
MycoWorksは、動物由来の革の代替となりうる真菌ベースのバイオマテリアル「Reishi™」を製造しているバイオテクノロジー企業です。30年以上に渡る先進的な研究とイノベーションをもとに設計された製造プロセス「FineMycelium™」によって、今までにないプレミアム品質の非動物性素材を生み出しました。

CEOのマット・スカリン(Matt Scullin)は、「菌糸体を設計して、求められた仕様に合わせオーダーメイドで高級素材を成長させるバイオテクノロジー」がMycoWorksの特色だとしています。同社は2021年初頭に仏高級ブランドHermèsとの最初のパートナーシップを開始し、現在、さまざまなグローバルラグジュアリーブランドと契約を結んでいます。

高級ブランドへの提供から始まったビジネスですが、現在MycoWorksは幅広い価格帯で製品を提供できる大量生産に向けた動きも視野に入れ、2021年1月までに合計1億8700万ドル(約215億円)を調達しました。これにより、既存のカリフォルニア州エメリービルでのパイロットプラントに加えて、サウルカロライナ州ユニオンに新工場を建設しています。このプラントでは、年間数百万平方メートルの微細菌糸体をベースにした素材が生産可能になる予定です。

DANIELLE TROFE(米国)

danielletrofe▼運営サイト: danielletrofe
インダストリアル・デザイナーであり、ニューヨークのブルックリンにデザインスタジオを構えるダニエル・トローフ(Danielle Trofe)氏。バイオテクノロジーの恩恵を受けて、菌糸体と麻を合わせて培養し創作されたランプシェード「Mush-Lume」は、控えめで洗練されたデザインに加え、その制作方法でも高い評価を受けています。

インテリアデザインの修士課程を経たニューヨークでの家具デザインのインターンシップ中に、垂直に並べられたボトルガーデンをトローフ氏が自分なりにデザインし直した作品「Vertical Hydroponic Garden (水耕栽培を利用したボトルガーデン)」が国際デザイン賞IDAを受賞。2011年にテクノロジー、サイエンス、デザイン、サステナビリティという4つの柱を軸にしたデザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。

ダニエル・トローフ氏のスタジオ、Danielle Trofe Designは照明業界で生分解性製品を製造している数少ない企業の1つで、そこでは生物の自然環境が再現されています。

漏斗状の型に菌糸体と麻の混合物を入れると、菌糸体は麻の基質に結合し、それを消化します。そして4〜10日間かけて、ランプシェードの形へ成長します。この製品は自然の成長プロセスに則り、追加のエネルギーを必要とせず、水もほとんど必要ありません。その後、菌糸体の成長を止めるため、熱処理が行われ、そのままか、天然のミルクペイントで仕上げが行われます。完全に天然の素材で作られたこのランプシェードは安全に土に戻すことができます。

トローフ氏は、さらにバイオミメティクス(生物的模倣)分野で2つ目の修士号を取得し、生物学をベースとしたデザインの可能性を追求しています。

BIOMAISON(米国)

biomason▼運営サイト: BIOMASON
Biomasonは、微生物・バクテリアによって生物学的に生成することができるセメント、バイオセメントの開発を行う2012年創業の米国発ベンチャー企業です。この方法は、サンゴが形成されるプロセスとよく似た、生物学的セメントと呼ばれる天然に存在する材料を模倣しています。

現在の建築に欠かせないコンクリートは、セメント・水・砂・砂利・砕石から成っています。このセメントを製造する際に排出されるCO2は、その焼成というプロセスのために、一般的に世界の排出量の8%を占めるといわれ、一大排出源となっているのです。

Biomasonはこの製造プロセスを微生物を使いバイオセメントを成長させることで置き換えようとしています。Biomasonでは、一般的に使用されるポルトランドセメントの代わりに、バイオセメントを使用して緩い砂と岩を結合します。ポルトランドセメントは、元々は石灰岩を加熱することでから炭素を遊離させてできるケイ産カルシウム水和物です。このとき、副産物として二酸化炭素を放出します。バイオセメントはこのプロセスを逆に辿り、炭素とカルシウムを組み合わせて生物学的に石灰石材料を生成します。

Biomasonのプロセスでは砂をレンガの型に詰めることから始まり、それから微生物が接種されます。微生物は砂の粒を包み込みます。各粒子は核として機能し、炭酸カルシウムの結晶がその周りに形成されます。
次に、数日の間、灌漑システムを介して栄養豊富な水がそのレンガに供給されます。結晶が成長し、砂の粒の隙間を埋めます。およそ72時間後、レンガは丈夫で耐久性があり、建設現場で使用できるようになります。

このように、Biomasonの行うプロセスでは高熱と化石燃料が不要であり、炭素を閉じ込めることでレンガを作り出します。また、通常のコンクリートの製造に最大28日必要なのに対し、バイオセメントは72時間で充分な強度を持った素材に成長します。最終的にこの素材は、リサイクル原料の花崗岩85%と15%の生物学的に成長した石灰岩で構成されています。内装や外装、そして床材として利用することができます。

Biomasonは2021年6月にH&Mと戦略的パートナーシップを提携し、H&Mの実店舗向けに床材を提供する実証実験を行うことで合意しました。これにより、H&Mは環境負荷の低い店舗や生産施設への移行を含め、ブランドの持続可能な取り組みを一層推進することができます。

Biomaisonは商業化目前のこのバイオセメントによって、2030年までにコンクリート業界の世界の炭素排出量を25%削減することを目指しています。

Mogu(イタリア)

mogu▼運営サイト: mogu
Moguはアップサイクルされた繊維の残留物と菌糸体から製造した吸音性壁材「Mogu Acoustic Panel」や、農業由来の残留物をベースにした柔軟性のある床材「Mogu Floor」を提供するイタリアの企業です。

Mogu Acoustic Panelは、Moguが手がけた最初の市販製品であり、真菌菌糸体とアップサイクルされた繊維残留物でできています。独自のテクノロジーを使用し、音響の快適性に特化した最も持続可能なソリューションを提供しています。

また、Mogu Floorはタイルの内側に菌糸体をベースにした複合材を使用し、外側には独自に開発したバイオレジンを使用した、寿命20年以上の弾力性のある床材です。87%バイオベースの樹脂が表面をコーティングしているため、従来の床と同じように傷に対する耐久性を備えています。

この樹脂の原料はトウモロコシ、稲わら、使用済みコーヒーかす、廃棄された海藻、あさりの殻などの低価値バイオマスから成っています。しっかりとした外観と強度を保ちながら、暖かく柔らかな感触が特徴です。

Officina Corpuscoli(オランダ)

officina-corpuscoli▼運営サイト: Officina Corpuscoli
前述のmoguを設立したイタリア人デザイナーのマウリツィオ・モンタルティ(Maurizio Montalti)氏は、2010年からオランダのアムステルダムにOfficina Corpuscoliというスタジオを構え、菌糸体を活かして素材をつくる研究を行っています。

Officina Corpuscoliは学際的なスタジオとして運営されており、創造的なコンサルティングを提供し、生物システムを利用した委託共同研究プロジェクトと自発研究プロジェクトの両方を進め、Moguはこのスタジオでの研究成果の販売、菌糸製品の工業生産の強化、およびインテリアに特化した製品の開発をしています。

ここで行われているのは、木質セルロース基材と真菌バイオマスの混合物である複合材の生成です。農産業や家具生産などのサプライチェーンから廃棄物を入手し、それを菌類に与え、成長するための条件を整えることで素材を生成するのです。

菌類に深く焦点を当てたOfficina Corpuscoliの制作物は数々の賞を受賞し、メディアで広く取り上げられ、ニューヨークのMoMA, パリのポンピドゥセンター、ロンドンのデザインミュージアム、ミラノのトリエンナーレなど非常に有名な美術館、ギャラリー、機関で世界的に展示されています。

Faber Future(イギリス)

faber-future▼運営サイト: Faber Future
ジンバブエ出身のナッサイ・オードリー・チエザ(Natsai Audrey Chieza)氏は、ファッション業界の汚染を憂い、バイオテクノロジーによって環境に優しいテキスタイルを製造するソリューションを追求するマテリアルデザイナーです。2011年にバクテリア染色の仕事を始め、2018年にデザインエージェンシー「Faber Futures」を設立しました。

ロンドンを拠点とするこのバイオテクノロジー企業は、バクテリアを利用して繊維を染色しています。Chiezaは、プリントを作成するためのツールを設計および構築し、放線菌であるストレプトマイセス菌で着色したテキスタイルを初めて生み出しました。

この独創的な取り組みは、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ生化学工学部のジョン・ワード (John Ward)教授と共同で行われ、革新的なデザインプロジェクトに与えられる「Index Design Award」を2019年に受賞しています。

ジョン・ワード教授の研究室で抗生物質に関する研究に使われていたストレプトマイセス菌に初めて出会った際、チエザ氏はこのバクテリアが顔料を製造する能力に興味をそそられ、この性質を繊維産業に活かす可能性を見出しました。

ストレプトマイセス菌は土壌に生息するバクテリアで、一般的には抗生物質の製造に使用されることで知られています。このバクテリアはシルクなどのタンパク質繊維に付着し化学薬品を使用せずに成長し、従来の染色プロセスよりもはるかに少ない水(最大500分の1)の消費量で顔料を生成しテキスタイルを染色します。バクテリア自体の色は青ですが、環境の酸性度によって色が変わるため、実験室で赤、ピンク、または紫の色を生成するように設計することができます。

おわりに

近年、ラグジュアリーブランドを含むファッション業界から持続可能な取り組みへの需要が高まっています。ここ10年ほど、特に菌糸体による結合と成長をベースにした生分解性の素材開発が進んでいるとの印象を受けました。

他にもバクテリアの性質を利用した染色など、自然が持つ本来の機能を活用する技術の発達には大きな可能性を感じると同時に、何十億年もかけて育まれた自然界のシステムに感慨を覚えます。

ただ、人間が自然の力を借りて設計したバイオファブリケーションを製品として市場に出すためには、安定した品質で大量生産を可能にする、触感や質感をコントロールするなど、さらに多くの研究開発が必要です。

おそらく長い道のりとなるこういった製品の開発や製品化に向けては、わたしたち消費者の意識の変化、市場からの期待がサポートとなることは間違いありません。

References :
•Aa. (2021, April 7). London based biotech firm utilizes bacteria to dye textiles – Traceitlab uncategorized. Traceitlab. Retrieved February 27, 2022
•Biomason grows bricks without using any heat. Design Indaba. (n.d.). Retrieved February 27, 2022
•Biomason to advance the future of sustainable retail … (n.d.). Retrieved February 27, 2022
•Biomaterials, biomimicry, and reversing global warming through education and Empowerment. YouTube. (2019, July 23). Retrieved February 27, 2022
•Fashion has a pollution problem — can biology fix it?: Natsai Audrey Chieza. YouTube. (2017, December 20). Retrieved February 27, 2022
•News. Biomason. (n.d.). Retrieved February 27, 2022
•Nicole Axworthy is the News Editor at VegNews and author of the cookbook DIY Vegan. (2022, January 19). Why South Carolina is the new hub of Sustainable Vegan Mushroom Leather. VegNews.com. Retrieved February 27, 2022

寄稿者

黒坂 麻衣子
東京外国語大学卒、Institut Supérieur de Marketing du Luxe MBA修了。パリ在住。フランス系大手自動車会社勤務の傍ら、食をベースにした健康的でサステナブルな暮らしの重要性を感じ、ジュニア野菜ソムリエ、フードコーディネーター資格を取得する。独立後、レシピ本の執筆や企業のメニュー開発を経験。渡仏し見聞を広め、カルティエ主催の大学院にてラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。ハイブランドが行うサステナブルな取り組みを始め、欧州のフードテックを中心に取材・執筆を行っている。
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