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バリアフリーeスポーツを通じて誰もが自分らしく生きられる社会へ|加藤大貴氏

バリアフリーeスポーツを通じて誰もが自分らしく生きられる社会へ|加藤大貴氏

障害者雇用促進法の改正によって、2021年3月1日から障がい者の法定雇用率が引き上げられました。この改正によって、従業員を43.5人雇用している企業は障がい者を1人は採用しなければなりません。しかし、法定雇用率を達成している民間企業の割合は増えてきているとはいえ、半数以下(48.6%)にとどまっています。

そのようななか、「eスポーツ」と「障がい者の就労支援」という一見すると関係の薄そうな2つの事柄を結びつける斬新なアプローチで、この問題に挑む株式会社ePARAの加藤氏に話を伺いました。

加藤氏のプロフィール

裁判所書記官として8年間、社会福祉協議会で2年間働いたのちに、eスポーツを通じて障がい者が生き生きと働ける機会をつくる「バリアフリーeスポーツ」事業を行う株式会社ePARA(本社:埼玉県戸田市)を設立。

バリアフリーのeスポーツイベント「ePARA」の開催や、障害者の方々にeスポーツ大会の運営業務等に関わってもらうことで各人のキャリアアップを促進し、就労をサポートする事業を行っています。

最近(2021年9月下旬)は、株式投資型クラウドファンディングで資金調達を実施し、わずか9分で目標調達額を達成しています。

ePARAを立ち上げるまで

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ソーシャルグッドCatalyst編集部(以下、SGC):なぜ、裁判所書記官になったのですか?

元々は自分の仲間に起業家が多かったこともあり、弁護士になって彼らをサポートしたいと考えていました。司法試験浪人をしていたんですが、当時の試験回数制度の上限に達してしまい、どうしようか悩んでいたときに役所に拾ってもらったという感じです(笑)

SGC:元々、起業志向はあったのですか?

はい、大学生の頃からありました。裁判所で働き始めてからも起業は意識してました。会社法の専門部門にいたので、いろいろな会社の訴訟問題とかをみながら「こういうところに落とし穴があるんだ。自分が起業する時は気をつけよう」といったことを考えたりもしてました。

SGC:起業志向がある人が弁護士を目指すのは珍しいですね。

人でもないのに「法人」という人格を生み出して人のように機能させる、世界最古の会社である東インド会社に代表されるような「法人」は法律の最大の発明と言われていますが、そういった法律が持つ「仕組み」というものに興味を持ったのだと思います。

現在の事業でも、eスポーツ関連3法と呼ばれる「刑法」「景表法」「風営法」を理解していないと事業運営はできませんので、法律を学んだことが役に立っています。

また、法律ではありませんが、最近では「クラウドファンディング」のような新しい金融の仕組みが新しく普及していますが、そういう仕組みを理解していると、新しいチャレンジができるところに面白さを感じます。

SGC:どういうきかっけで裁判所書記官を退職したのですか?

自分の祖母がアルコール中毒と認知症を併発して家族が大変な思いをした経験から、「成年後見制度」の重要性を痛感しました。これを普及させるためにNPOを立ち上げようと動いていたのですが裁判所の中では限界を感じていました。

裁判所書記官を続けていくかも悩んでいたこともあり、退職してNPOを立ち上げることにしました。社会福祉協議会で仕事をすることになり、障がい者の人たちとも接するようになり、障がい者と社会との接点を増やすための手段としてeスポーツに着目してePARAを立ち上げるに至りました。

SGC:なぜ、eスポーツに着目したのですか?

自分がゲームが好きだったということはあります。子供とゲームをして遊ぶことを仕事として嫁に認めてもらうためと言っても過言ではありません(笑)。

自分の子供に小さい頃から色々な経験をさせてあげたいと考えていたこともあり、障がい者の方と接する機会を作ろうと考えました。ゲームを通じてなら自然にコミュニケーションできるのではないかと思い、乙武さんと一緒にゲームをする機会を作ったところ、とても自然に交流することができました。

自分の子供ドリブンな感じですが(笑)、そういったことや、時流にも載っていたおかげで興味を持って話を聞いてくださる方が多かったこともあり、本腰を入れてeスポーツをやろうと決めました。

ePARAの現状と今後について

ePARAの事業モデルSGC:事業内容について教えてください。

就労移行支援事業所と連携して、転職を希望する障がい者と、障がい者を雇用して法定雇用率を達成しようとする企業をつなぐ、ハブとなる立場です。100以上の就労移行支援事業所とネットワークを構築しており、障害者人材の適性把握を行うことで企業との最適なマッチングを提案しています。

近年では、eスポーツに特化した就労移行支援事業所なども出てきており、そういった事業所から弊社に障害者人材を紹介いただくケースが増えてきています。また、就労移行支援事業所と一緒に実習の機会を作るといったことにも取り組んでいます。

弊社ではバリアフリーeスポーツイベントを2019年から毎年開催しています。また、企業交流戦を開催するなどして、企業と障がい者の接点が持てる機会を数多く創出しています。こうしたeスポーツ大会の開催実績を通じて、民間や自治体からイベントを受託するようにもなっており、人材紹介と合わせて事業の柱となっています。

SGC:ゲームが好きな障がい者の方を集めているのでしょうか?障がい者にゲームを勧めるのでしょうか?

両方です。必ずしもゲームが好きな人だけが集まっているわけではありません。

ただし、ゲームを通してコミュニケーションすることで我々も人となりを把握できますし、大会を運営したり、ウェブの記事を書いたり、ウェブを製作したりといったような、eスポーツ周辺事業の実習の機会がたくさんあるので、お勧めはしています。

SGC:これまで事業を運営されてきてどのような手応えを感じていますか?

2年前に事業を開始した時には、eスポーツと就労支援がどう結びつくのかよく分からないという反応が多かったのですが、メディアでとりあげて頂き、第三者に噛み砕いて説明して頂くことで、理解して頂ける方が増えていったように思います。そして昨年、NHKの「おはよう日本」で紹介して頂いたころを境に、やりたいことを理解して頂けるようになりました。

先日(2021年9月26日)、当社としては3回目となるクラウドファンディングにチャレンジしたのでが、今回は株式投資型で500万円を目標に実施しました。銀行に勤める友人は無理なんじゃないかという意見でしたが、蓋を開けてみれば、開始9分で500万円、39分で上限の1000万円に到達し、キャンセル待ちの人が29人という結果になりました。

我々の活動を見ていて、期待してくださっている人がこれだけいたということに驚きました。今後は、こうした方々の輪を大きくしていきたいと考えています。

SGC:どんな課題を感じていますか?

求職者は集まりやすい状況になってきましたが、採用側の企業がコロナ禍の影響もあって採用に慎重になっているというのがあります。特に精神障がい者はどう接したら良いか分からないので今は難しい、という企業が多いですね。

時短勤務やテレワークを活用したりすれば十分に御社に貢献できます、という話をしてもなかなか聞き入れてもらえないケースも多くあります。このあたりはまだ時間がかかりそうだなという気がしています。

加藤氏から読者へのメッセージ

SGC:最後に読者にお伝えしたいことはありますか?

eスポーツをやらない人や障がい者との接点がない人にとっては自分ごととして考えられないかもしれませんが、親が高齢になったり、皆さんも歳を取れば、目が見えずらくなったり耳が聞こえずらくなったりして、いづれは障がい者なるんですよ、ということをお伝えしたいですね。その時のためにも、皆んなが過ごしやすい世界を一緒に作りませんか?と。

あと、「もっと対話をして欲しい」ということがあります。全盲だから、聴覚障害だからこれはできないだろうという思い込みや、これを聞いたら失礼なんじゃないかという気遣いで話を躊躇する人が多くいると思います。

しかし、障がい者からすると、できないと勝手に決められてしまっている、ということになります。実際に聞いてみると「やれますよ」という返事が返ってきて、実はこちらの勝手な思い込みにすぎなかったということも多々あります。

先入観を持たずに勇気を持って声をかけることが大事だと思います。

障がい者の方と多く接している私でも、バイアスのせいで失敗することがよくあるので、自戒を込めてお伝えしたいですね(笑)

編集後記

「みんないずれは障害者なるんですよ」「できないと勝手に決めてしまっている」など、加藤氏の言葉にハッとさせられる瞬間が多くありました。

裁判所、社会福祉協議会勤務という経歴から、硬くて真面目な人ではないかという私の勝手な「先入観」は見事に裏切られました。

「多動」「仕組みに興味がある」「パズルのピースをつないでいく感覚」「いろいろなピースを育てておくと後々面白いことができる」といった言葉がポンポンと飛び出し、現場での軽快な行動力と、俯瞰的に事業作りを楽しんでいるという雰囲気が伝わってきました。

「障がい者福祉」という、世間一般の人が少し距離を置いてしまいがちな領域だからこそ、加藤氏のような、軽やかさを身にまとった起業家が活躍してくれることには大きな価値があると感じました。

【参考】 株式会社ePARA

障がい者福祉分野の注目ソーシャルビジネスまとめ

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