ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

マッシュルームレザーの量産化に挑む MYCL Japan(マイセルジャパン)

マッシュルームレザーの量産化に挑む MYCL Japan(マイセルジャパン)

ヨーロッパを中心に、動物性の素材を使わない「アニマルフリー」のヴィーガンレザーが注目を集めており、英ブランドのStella McCartney(ステラ・マッカートニー)をはじめ、ハイブランドが続々とヴィーガンレザーを取り入れています。

バナナの皮や、リンゴの皮、ぶどうの搾りかすなど、様々な植物由来のヴィーガンレザーが生まれていますが、合成樹脂と混ぜ合わせて作られているものが多く、「脱石油由来プラスチック」の文脈ではエシカルとは言い切れない部分もあります。

そのような中、日本において、きのこの菌糸を主原料とする植物由来成分100%のマッシュルームレザーの製造販売に挑む、MYCL Japan(マイセルジャパン)をご紹介します。

マッシュルームレザーとは?

マッシュルームレザーとは、真菌を使って作られる人工皮革のことです。真菌を培養し、その繊維を組み合わせて皮革を作ります。環境に優しく、動物性レザーに比べて低炭素で製造できるといわれています。また、動物の苦しみを伴わないません。

きのこ栽培には「原木栽培」と「菌床栽培」の2つがありますが、マイセルジャパンでは菌床によって栽培した菌糸体を集めて特殊技術で加工し、動物性レザーに近い風合いの生地の製造に取り組んでいます。

既存の動物性レザーと比較した際の、マッシュルームレザーの良い点としては、以下の3つが挙げられます。

環境負荷の削減

動物性レザーは、腐敗や劣化を防ぐために施される「なめし」と呼ばれる工程で大量の水を消費します。さらに、薬品や獣毛、石炭などが混ざった排水によって深刻な水質汚染が問題となっている地域もあります。

1平方フィートのマッシュルームレザーのなめし工程に必要な水は約4.6リットルで、動物性レザーの約3分の1にあたります。

動物保護に貢献

一般的には食肉用の家畜の副産物であることが多い動物性レザーですが、世界の一部の地域では、動物皮革のために密猟が行われています。マッシュルームレザーが広まることで、そのために殺されてしまう動物たちを守ることにつながります。

生産コストの削減

マッシュルームレザーは、動物性レザーに比べて、少ない時間や費用で生産が可能です。日本のきのこ産業の量産技術を用いて生産コストの抑制に取り組むとのことです。

他にも、家庭用コンポストでの堆肥化までの日数が10分の1以下など、優れた点が複数あるほか、マッシュルームレザーを作る工程で出る副産物(液体と個体)に関しても、個体廃棄物を建材に、液体廃棄物をバイオプラスチック製造に用いる予定となっています。

日本の自動化技術でマッシュルームレザーの量産を目指す

Mycotech Labは2015年にインドネシアで創業し、きのこの菌糸体を用いたマッシュルームレザーである「Mylea(マイリー)」を開発しました。同社が開発したマッシュルームレザーは、東京のデザイナーズブランド「DOUBLET(ダブレット)」が起用し、2022年から発売されています。

そのインドネシアのMycotech Labと、日本企業のSALAI International Japan、千曲化成、サカト産業が出資して2022年にMYCL Japanを設立しました。

MYCL Japanの代表を務める乾氏が経営するSALAI International Japanは、海外の顧客ニーズに合わせてきのこ栽培プラントをカスタム設計し、コンサルティングを行っている会社であり、千曲化成とサカト産業も、きのこ栽培の資材・装置を製造販売する、きのこ業界のエキスパート企業でチーム構成されています。

インドネシアでマッシュルームレザーの研究に取り組んできた、Mycotech Lab社の基礎技術の成果を、日本のきのこ産業が持つ自動化技術を用いて量産体制を構築することを目的としています。

常にインドネシアから研究者が2、3名は日本に常駐して共同で研究にあたっているとのことです。

今後の事業展開について

まずは、自社でのきのこ栽培と生地製造技術の開発に注力しており、2023年8月くらいから販売を開始する予定となっているとのことです。

マッシュルームレザーの企業向けの供給や、マッシュルームレザーを使った製品の自社開発の両面展開を考えているが、既に、多数の問い合わせと共創依頼が入っているため、どの企業とコラボレーションすることが良いかを検討している状況とのことです。

来年以降は、さらなる量産に向けて、既にきのこに関する知識と栽培設備を持っている国内きのこ農家に生地製造技術を提供してマッシュルームレザーの製造を委託する形でのフランチャイズ展開を想定しているとのことです。

また、技術と量産体制の構築ノウハウを確立した後に、既に引き合いの多い海外各国への展開も視野に入れているとのことです。

おわりに

MYCL Japanの代表を務める乾氏は、オーストラリアで大学を出て働きながら、日本の素晴らしい技術を海外に広める仕事をしようと志し、SALAI International Japan を設立し、日本のきのこの栽培技術を海外に広めてきました。

発展途上国に日本のきのこ栽培技術を広め、社会問題解決に寄与する事をミッションとして掲げており、インドでもJICAと協力してきのこ栽培の普及に務めています。

インドネシアの研究者達の知見と、日本の優れた自動化技術の組み合わせで、サステナブルな製品を世界中に展開することを目指す同社の取り組みは、これからの日本のサステナブルビジネス構築のお手本となるかもしれません。

References :
MYCL Japan

ヴィーガンレザーとは?ハイブランドが植物由来のものを続々と採用

Return Top