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生物多様性とは?年平均33兆ドルとされる生態系サービスの経済的価値

生物多様性とは?年平均33兆ドルとされる生態系サービスの経済的価値

SDGsの目標14.海の豊かさを守ろう、目標15.陸の豊かさも守ろう、とも関係が深い「生物多様性」ですが、現代の生物多様性の喪失は「第6次大量絶滅」と呼ばれています。

絶滅した生物を復活させることはできないため、「プラネタリーバウンダリー(地球の限界)」においても、他の8つのプロセスとは異なり、取り返しがつかない点が特徴とされています。

生物多様性とは

地球上には動物や植物、微生物などの多種多様な生きものが生息しています。それらの生物は食物連鎖などの相互作用によって存続することが可能になっています。現在、人類の存続のために不可欠な「生物の多様性」(Biological diversity,またはBio diversity)が危機的状況に陥っています。

この生物多様性を維持するための国際的な条約である「生物多様性条約」では、以下の3つのレベルに多様性を分類しています。

【生物多様性の3分類】
(1)生態系の多様性
動物・植物などの様々な生きものと、森林・河川・湿原・干潟などのさまざまな非生物の要素がお互いに関わりながら1つの閉じたシステム(系)として機能している区域のことを生態系と呼びます。この生態系が多様に存在している様子のことを意味しています。
(2)種の多様性(species diversity)
動物や植物、細菌などの様々な生物種が共存している様子を意味しています。地球上の生物は約175万種が認知されており、未確認のものも含めると3,000万種の生物が存在していると考えられています。
(3)遺伝子の多様性
同じ種であっても個体や個体群の間で異なる遺伝子があることを意味しています。遺伝子の多様性は、環境への適応や種の分化などの生物の進化に関わっており、多様性の低下によって種の絶滅の危険性が高まります。

生物多様性の現状

生物の生息環境の悪化や生態系の破壊によって生物の種の絶滅が急速度で進行しています。国際連合の提唱によって2001年〜2005年に行われた「ミレニアム生態系評価」によると、過去100年間で絶滅した哺乳類・鳥類・両生類は1万種当たり約100種であり、それ以前の1,000倍以上の絶滅スピードと評価されています。

「国際自然保護連合(略称:IUCN)では、絶滅のおそれのある「絶滅危惧種」を選定して「レッドリスト」として公表していますが、評価済みの約142,577種のうち40,000種以上の生物に絶滅の危惧があると警告しています。これは全評価種の27%以上に相当します。(2021年12月12日現在。IUCNのWebサイトより)

また、WWFが2020年9月10日に発表した『生きている地球レポート2020』によると、世界の生物多様性は1970年から2016年までの過去46年の間に、哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・魚類が平均68%喪失したと報告されています。

生物多様性が失われる原因としては、森林伐採などの生息地の消失、過剰な捕獲、気候変動による環境変化、環境汚染、外来種の持ち込みなどが指摘されています。

なぜ生物多様性が大事なのか?

それでは、なぜ生物多様性を維持することが大切なのでしょうか?ここでは人類が生物多様性から得ているものや、生物多様性を失うことによる損失という視点から紹介します。

生物多様性から得ているもの

人類は生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みによって支えられていますが、生物・生態系に由来するもので人類の利益になる機能のことを「生態系サービス」(Ecosystem services)と呼びます。1997年に雑誌『Nature』で発表された論文によると、その経済的価値は年平均33兆ドル(振れ幅は16-54兆ドル)と見積もられています。

上述した「ミレニアム生態系評価」によると、生態系サービスは「供給」「調整」「文化」「基盤」の4つに分類されます。

【生態系サービスの4分類】
①供給サービス(Provisioning Services)
人類の生活に必要な、食料・燃料・水・木材・鉱物といった資源を供給する機能を指します。また、生物の現象を元に着想された技術や製品は数多く、間接的にも人間の生活に必要な資源の元になっています。ある生物を失うことは、現在は発見されていないものの、将来発見される可能性があるその生物の資源としての利用価値も失うことにつながります。
②調整サービス(Regulating Services)
例えば、森林が大気中の二酸化炭素を吸収したり、地すべりを防いだり水が浄化されたりといったような環境を制御する機能を指します。これらを人工的に構築するとなると膨大なコストがかかります。生物多様性は、気象変化等の不測の事態に対する安定性や回復性の高さに関係しています。
③文化的サービス(Cultural Services)
魚釣り・海水浴・登山・紅葉狩りなどのレクリエーションの機会を提供する機能を指します。多様な自然環境によって、精神的充足や豊かな感性、美意識の醸成が可能になります。地域固有の生態系や生物相が基盤となって、地域に固有の文化や宗教が形成されます。
④基盤サービス(Supporting Services)
上記3つを支える土台となる機能を指します。例えば、光合成による酸素の生成、動植物の死骸をバクテリアが分解することによる土壌形成、栄養循環、水循環などの、全ての生物の生存基盤である環境が提供されることをいいます。

生物多様性の喪失による損失

生物多様性を喪失することで、人類がどのような損失を被るかについての例をいくつか紹介します。

ハチの減少と農業の危機

世界中でハチの数が減少傾向にあります。「国際連合食糧農業機関(略称:FAO)」によると、花粉を媒介する動物の絶滅速は100~1,000倍になっており、花粉を媒介する無脊椎動物の約40%が絶滅の危機にあります。

米国の食糧生産の15〜30%はハチによる作物への送粉が必要とのことです。ハチがいなくなると、ベリー、リンゴ、アーモンド、キュウリ、コショウなどの様々な栄養価の高い食物が食べられなくなってしまう可能性があります。

ニホンオオカミの絶滅と農家の鳥獣被害

日本の里山エリアでは、多くの農家が鹿や猪を中心とした野生鳥獣による農作物の被害が問題となっています。大きな要因の一つとして、野生の鹿や猪の増加が挙げられます。野生の鹿や猪を捕食していたニホンオオカミが絶滅してしまったことが、その背景にあると言われています。

また、鹿の食害によって高山植物の減少が問題となるなど、生態系のバランスはドミノ倒しのように影響範囲が広がっています。

マングローブの伐採による津波被害

インドネシアの島々では、マングローブの林を伐採してエビの養殖池を造成する動きが活発です。2004年12月に発生したスマトラ沖の巨大地震では、津波によって多数の人命が失われましたが、その後の調査で、海岸にマングローブの林があったところでは津波被害が軽減されていることが判明しました。また、暴風や高波といった悪天候による被害も、マングローブの減少に伴い深刻化しています。

生物多様性をめぐる国際動向

生物多様性条約とは?

動植物やその生息環境の保護をめぐる国際的な動きとしては、1971年に特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する「ラムサール条約」、1973年には絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する「ワシントン条約」、そして1992年に生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組み作りのための「生物多様性条約(略称:CBD)」(Convention on Biological Diversity)が採択されるという形で進められてきました。

CBDには2018年12月時点で194か国が署名しています。直近の動きとしては、1994年に始まった生物多様性条約の締約国会議の15回目となるCOP15(第1部)が2021年10月に中国・昆明でオンラインを中心に開かれ、「少なくとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる」とする昆明宣言が採択されました。第2部は2022年4月25日から5月8日で開催され、「2030年までのグローバル生物多様性枠組み(略称:GBF)」(Global Biodiversity Framework) が決定される予定となっています。

生物多様性に関する日本の動向

日本は生物多様性条約発効以来、拠出額は第1位で全体の13.5%を占めています。2010年10月には第10回締約国会議が愛知県名古屋市で開催されました。

1995年10月に最初の「生物多様性国家戦略」が決定された後、2002年3月に「新・生物多様性国家戦略」、2007年11月に「第3次生物多様性国家戦略」が策定されました。2008年6月には「生物多様性基本法」が施行され、生物多様性国家戦略の策定が国の責務として規定され、2010年3月に「生物多様性国家戦略2010」、2012年9月に「生物多様性国家戦略2012-2020」が決定されるという形で進められています。

おわりに|生物多様性とは

本稿の「生態系サービス」を読めば、生物多様性が人類の存続に欠かせない機能を担っており、経済的価値も年平均33兆ドルと巨額であることから、その価値は明らかなように思われます。

しかし、生物多様性を維持するための対策は十分になされているとは言い難い状況にあります。その背景には、一つの生物の生態系や生物種が失われることによる影響が直ちには現れないことや影響範囲が測りきれないこと、そして、破壊する人と被害を受ける人が異なるといったことが一例ととして挙げられます。

ニホンオオカミが絶滅すると、鹿や猪が増えて農作物が被害を受けるといった直接的な問題が生まれます。しかし、それに留まらず、食害によって森林の植物の一部が絶滅し、それによって新たな問題が生じて…といったように、「バタフライ効果」が静かに広がっていきます。そして、誰の目にも明らかになる頃には元に戻すことができない状況(ポイントオブノーリターン)に陥ってしまいます。

気候変動問題と同様、早急に強い対策を打たなければならない重要課題であることは間違いないでしょう。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」の現状(世界と日本)

SDGs15「陸の豊かさも守ろう」の現状(世界と日本)

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