2021年6月、ユーグレナ社がバイオジェット燃料を導入したフライトを成功させたことがニュースとなりました。
2025年のカーボンニュートラル実現に向けて、温室効果ガス排出の主要因となっている化石燃料の代替として、バイオ燃料に対する注目が高まっています。
目次
バイオ燃料とは?
バイオ燃料とは生物体(バイオ)から作る燃料のことを意味しています。ペレットなどの固体燃料、バイオエタノールやバイオディーゼルなどの液体燃料、そして気体燃料といったものがあります。
石油や石炭といった化石燃料は、燃焼させることで二酸化炭素を大気中に一方的に増加させるのに対し、バイオ燃料は、原料である植物が成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収することから、燃焼させて二酸化炭素を排出したとしても、大気中の二酸化炭素の総量はプラスマイナスゼロ(カーボンニュートラル)となるため、再生可能エネルギーに位置づけられており、自動車や航空機を動かす石油燃料の代替物として注目されています。
ここでは主に輸送に利用されている「バイオエタノール」「バイオディーゼル」「バイオジェット」の3種類について見ていきます。
バイオエタノール
材料は、トウモロコシ、サトウキビ、食用油、竹、木材、おがくずやトウモロコシの茎といった有機廃棄物まで多岐にわたります。糖質又はデンプン質作物を発酵させて濃度99.5%以上の無水エタノールにまで蒸留して作られます。
世界のバイオエタノールの生産量は2014年には1,159億リットルとなっています。2014年現在、世界最大のバイオエタノール生産国はアメリカで、世界のバイオエタノール生産量の50%、次いでブラジルが26%を占めており、この2ヶ国で世界の75%を占めています。
アメリカでは主としてとうもろこし、ブラジルではサトウキビを原料として生産しています。
バイオディーゼル
生物由来油から作られるディーゼルエンジン用燃料のことをバイオディーゼルと言います。”Bio Diesel Fuel” の頭文字をとってBDFと略されることもあります。
2016年に世界最大の生産量を占めているのはEUです。世界全体の39%を占めており、次いでアメリカ、ブラジルの順になっています。ただし、増加率については2006年から2016年にかけて、EUの年平均9.8%の増加に対して、アメリカは21.2%、ブラジルは45.5%の増加となっており、EUを上回っています。
2016年における原料構成比は、菜種油が47.2%、廃食油が19.2%、パーム油が20%、大豆油が4.8%、その他が8.8%となっています。
アメリカやブラジル、アルゼンチンでは大豆油が中心となっており、2016年の大豆油需要量に占めるバイオディーゼル向け使用量はアメリカ31.2%、ブラジル41.3%、アルゼンチン81.7%となっています。
バイオジェット燃料
バイオジェット燃料とは、微細藻類や木質系セルロース(木材チップ、製材廃材や林地残渣)などといったバイオマス原料をもとに製造される航空燃料のことを言います。
航空輸送分野では、国際民間航空機関(ICAO)が、航空輸送分野における2021年以降のCO2排出量は2019年から2020の平均CO2排出量に抑えることが合意されており、持続可能な航空燃料としてバイオジェット燃料が注目を集めています。
日本では、冒頭で紹介したように、2021年6月にユーグレナ社がバイオジェット燃料を導入したフライトを成功させています。
バイオ燃料の問題
バイオ燃料を巡ってはいくつかの問題も指摘されています。
ただし、これらの問題は主に、穀物や森林木材を原料としたバイオ燃料に関する問題であり、上述したユーグレナのような藻類の大量培養や、廃棄物を利用するようなバイオ燃料の場合は該当しません。
論点は3つあります。1つ目は「ライフサイクル全体の二酸化炭素排出量の問題」で、2つ目は「土地の利用と森林破壊の問題」、3つ目は「食糧生産に対する影響の問題」です。
それでは、3つの問題を順番に見ていきます。
ライフサイクル全体の二酸化炭素排出量の問題
現在、バイオマス燃料の多くは、トウモロコシやサトウキビ、大豆などの一年生植物となっているため、生産時に水資源を大量に使用したり、農薬や化学肥料の投入、収穫時に使用する農業機械の使用、輸送、貯蔵、エタノール製造時にエネルギーを投入していることから、その際に発生する二酸化炭素排出量を加えるとカーボンニュートラルではない、という問題があります。
土地の利用と森林破壊の問題
植物のエネルギー密度は低いため、バイオ燃料の原料となる植物を育てるのに広大な土地が必要になります。同じ量のエネルギーを得るために必要な土地面積を比較した場合、風力発電や太陽光発電の方が必要とする土地面積が少なくなります。
また、バイオ燃料を製造するために必要な原料を収穫するために森林破壊が起きるといった懸念もあります。例えば、原料として日本が大量に輸入するパーム椰子の原産国であるマレーシアやインドネシアでは、ヤシ畑開発のために森林破壊が進行してしまうといったことが懸念されています。
食糧生産に対する影響の問題
温室効果ガスの排出削減という目的だけを考えた場合、穀物を燃料として利用することには意味がありますが、一方で世界は人口増加に伴って将来的な食糧不足が懸念されている状況であることから、農業に適した土地を燃料用の植物の生産に充てることは問題があります。
例えば、ブラジルなどではより収益率の高いバイオ燃料生産のために、オレンジ生産などが転換され、それによって果実、穀物の供給不足・価格高騰が起こり、批判されています。
バイオ燃料の問題への対策
上述の問題への対策として、多年生作物を利用するという方法があります。
多年生のバイオエネルギー作物を適切に栽培すれば、トウモロコシ由来のエタノールと比較して二酸化炭素排出量を85%削減できる可能性があると言われています。
2006年12月に発行された学術誌の『サイエンス』に掲載された、ミネソタ大学のDavid Tilman 氏のグループが行った研究結果によると、トウモロコシ由来のエタノールや大豆を原料とするバイオディーゼルよりも、様々な多年生草本や顕花植物の方が、単位面積あたりのエネルギーを多く得ることができ、環境への影響も遙かに少なくて済むとのことです。
また、不毛な土地で育った植物で、世界のエネルギー供給需要の相当部分を賄うことが可能とも報告されました。
荒廃農地で多様な草原植物を栽培してバイオ燃料を作れば、エネルギーを安定的に生産できるようになります。加えて、土壌の肥沃度を回復させ、水の利用を減らし、野生動物の生息環境を作り出すことで生物多様性にも効果があるといった利点もあります。
ポプラ、ヤナギ、ユーカリ、ニセアカシアなど、短伐期の木質作物や、ファウンテングラス、巨大ススキのジャイアント・ミスカンサスなど、様々な多年生作物が注目されています。
終わりに|バイオ燃料とは?
世界中で活用が進みつつあるバイオ燃料ですが、上述したようにいくつかの重要な問題を抱えています。
特に、穀物や森林木材のバイオ燃料としての利用に関しては、石炭や石油などの化石燃料を使い続けるよりはマシですが、持続可能ではないかもしれません。
藻類の大量培養や、廃棄物の利用、多年生作物への転換といった方向が、バイオ燃料が進むべき正しい方向性のように思います。
【参考】農林水産省
【参考】報告論文「世界のバイオディーゼル生産が世界の大豆・大豆製品需要に与える影響」
【参考】NEDO海外レポート NO.992, 2007.1.10