アディダスが海洋プラスチック廃棄物からトレーニングウェアを作るなど、世界中の企業がアップサイクルビジネスに乗り出しています。
世界の潮流となりつつあるサーキュラー・エコノミーへの移行のなかで、捨てられるものから新たな価値を生み出す「アップサイクル」がその一角として注目されています。
目次
アップサイクルとは?
「アップサイクル」(英語: Upcycling)とは、循環型社会を目指すモノづくりの方法の一つです。捨てられるものに価値を付加して新しく別のものに生まれ変わらせます。「創造的再利用」とも呼ばれ、アイデアやデザインが重要な役割を果たすといわれています。
ドイツの『Salvo NEWS』という建築物のリユースに関するメディアで、ソーントン・ケイ氏が1994年に「ダウンサイクル」(英語: Downcycling)という言葉とセットで紹介したことが始まりとされています。
リサイクルとの違いについては、リサイクルは使い終わった製品を原料に戻すなどして再び製品を作るプロセスを指します。例えばペットボトルを粉砕、融解して繊維を作り、その繊維で洋服を作るといった工程となります。
それに対してアップサイクルは原料に戻すことなく、もとの物質の特徴をなるべく生かしながら新しい価値を付加します。例えば、海洋プラスチックを材料として使ってアクセサリーに生まれ変わらせるといったような工程となります。
サーキュラーエコノミーとアップサイクルの市場規模
アップサイクルを包括する、より大きな概念である「サーキュラー・エコノミー」について紹介します。
当サイトが2021年8月に実施した調査では言葉の認知度は26%で、「SDGs」の認知度73%と比べると大変低い数値となっています。
一方で、サステナブル先進地の欧州では雇用を生み出す成長市場ととらえており、欧州委員会が「ニューサーキュラー・エコノミー・アクションプラン」を2020年3月に公表して、国をあげて取り組んでいます。
コンサルティング会社のアクセンチュアが2015年に公表したレポートでは、サーキュラー・エコノミーの市場規模は2030年には4.5兆USドル(約540兆円)に達すると予測されています。
製品のライフサイクルの川上から川下までを以下の4つの市場に区切り、それぞれの市場規模を合計すると約540兆円となります。
②使われていない遊休資産の活用(シェア)約72兆円
③まだ使える製品の活用(中古品市場)約108兆円
④捨てられている素材価値の回収(アップサイクル等)約156兆円
アップサイクルはその4番目に含まれます。リサイクルや製品回収、エネルギー回収までを含めると約156兆円の市場規模とみられています。
アップサイクルは食の分野にも広がっています。米国のアップサイクル食品市場規模(2019年時点)は5兆1000億円と推定されており、年率5%以上のスピードで成長しています。
アップサイクルビジネス事例
アップサイクルビジネスの事例を紹介します。
UP FOOD PROJECT
▼運営サイト: UP FOOD PROJECT
規格外の野菜・果物といった農産物と水産物に加え、食品工場から出る副産物(バイプロダクト)などの食に関連する未利用資源を、食品・化粧品・紙製品・アパレル製品・新素材といった製品にアップサイクルする企業が集まった共創プロジェクト。
規格外の果物や未利用魚、生産国で捨てられているコーヒーの果皮の部分(”Cascara”といいます)などをアップサイクルして有効活用することによって、「フードロスの削減」・「廃棄物の削減」・「環境汚染の抑制」・「海洋生態系の保護」・「一次生産者の所得向上」といった食の社会問題解決に取り組んでいます。
循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界から募集するアワード「crQlr Awards」で「Best Bridge Builder Prize (ベストな橋渡し役賞)」と「MMHG Upcycle Prize(MMHG アップサイクル賞)」をダブル受賞するなど、注目が高まっています。
カエルデザイン
▼運営サイト: カエルデザイン
クリエイティブユニットの「カエルデザイン」と、リハビリ型就労スペース「リハス」を利用する様々な障がいを持つ人たちがパートナーとなって、マイクロプラスチックなどの海洋プラスチックを回収して、それらをアクセサリーに加工する、アップサイクルの商品開発・生産を行っています。
「海洋プラスチック」という環境問題と、「障害を持つ人が活躍できる仕事」という福祉問題を同時に解決する取り組みで、ソーシャルプロダクツ・アワード2021でソーシャルプロダクツ賞を受賞するなど、注目を集めています。
UPCYCLE LAB
▼運営サイト: UPCYCLE LAB
UPCYCLE LAB(アップサイクルラボ)では廃棄消防ホースからバッグを作っています。
ビルや公共施設などに備え付けられた消防ホースの9割は作られたまま一度も使われることなく新品同然のまま廃棄されている現状に目をつけ、これら未使用のまま廃棄される消防ホースを使って商品を作っています。
引き取った消防ホースは洗浄・乾燥させた上で縫製工場へ。熟練の職人が手作業で裁断・縫製し1つ1つ丁寧に作り上げています。
UP FIRE
▼運営サイト: UP FIRE
UP FIRE(アップファイヤー)では、神奈川県茅ヶ崎市の廃棄される予定だった消防服を使って、バッグなどの商品を作っています。
茅ヶ崎市消防本部と、消防服の素材大手の帝人株式会社、食領域でのアップサイクルに取り組むソーシャルビジネス企業の株式会社コルの3者の共創によって推進されています。
また、引き取った消防服は地域の社会就労施設で洗浄・乾燥・縫製されており、地域循環、障がい者福祉支援も同時に実現しています。
Upcycle by Oisix
▼運営サイト: オイシックス・ラ・大地
Upcycle by Oisixでは、見栄えや食感の悪さなどから、これまで使われてこなかった食材をアップサイクルした商品を販売しています。なすのヘタを使った黒糖味の新感覚スナックや、有機バナナの皮を使用したジャムなどの商品があります。
ファーメンステーション
▼運営サイト: ファーメンステーション
独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環型社会の構築を目指す研究開発型スタートアップ。
ANAグループが取り扱う流通過程で汚れや傷みなどにより規格外となるバナナや、カルビー株式会社が契約農家からの調達の際に、大きさや形状の面で規格外となる小玉のじゃがいもを発酵させてエタノールを作り、除菌ウェットティッシュとしてノベルティグッズを製造するといったアップサイクルの取り組みをしています。
おわりに|アップサイクルとは?
アップサイクルは誰でも参加可能なエコ・アクションです。
アップサイクルのワークショップもたくさんあり、身近なものを使って自分でアップサイクル作品を作るといった体験ができますので、参加してみるのも良いでしょう。
フリマアプリで自分が作ったアップサイクル作品を販売したり、自分でワークショップを開催するなどして、アップサイクルを世の中に広めながらお金を得ることができれば一石二鳥ですね。小さくても「CSV」と呼ばれる、”社会的価値の創造と経済的価値の創造”の達成につながります。
近年では、食品分野におけるアップサイクルの取り組みが活発化しており、「アップサイクル食品」と呼ばれる市場も生まれてきています。アップサイクル食品の定義や市場規模についての情報と、食に関するアップサイクルの国内外の動向と事例について紹介されている記事も参考にしてください。