気候変動の影響によって持続可能性の危機に直面しているコーヒー産業では、「サステナブルコーヒー」の普及拡大でコーヒー産業を持続可能(サステナブル)にしようという取り組みが行われています。
この記事では、サステナブルコーヒーとは何かについて紹介するとともに、コーヒー産業をサステナブルにするための様々な活動を紹介します。
目次
サステナブルコーヒーとは
自然環境や生産者の生活など、コーヒー産業のサステナビリティ(持続可能性)に配慮して生産されているコーヒーを総称して「サステナブルコーヒー」といいます。
世界で最も早く設立されたコーヒー団体であるSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が2001年に発表したレポートでは、サステナブルコーヒーとして「オーガニックコーヒー」「フェアトレードコーヒー」「シェイドツリーコーヒー」の3つを取り上げ、それぞれ以下のように定義しました。
・オーガニックコーヒー: 土壌を保全し、化学薬品の使用を禁じた手法で生産されている。
・フェアトレードコーヒー: 最低販売価格が保障された小農家からなる農協を通じて供給されている。
・シェイドツリーコーヒー: 森林で覆われた土地で、多様な生態系の保全や渡り鳥の保護に配慮して生産されている。
サステナブルコーヒーのための生産国の取り組み課題
自然環境と生産者の生活に配慮しながらコーヒー産業を持続可能にするために必要な生産国の取り組み課題を紹介します。
公平な取引価格
コーヒー産業を持続可能にするためには、作り手である生産者の社会的・経済的な暮らしを向上させる必要があります。その点で、生産者達にとって最優先事項として考慮されなければならないのは「公平な取引価格」です。
コーヒー生産者の多くは小規模で資金不足のため、生産性が低い上、複数の仲介・輸出業者を経由するために安値で販売せざるをえず、コーヒー栽培のみでは生活に必要な収入が得られずに離農する農家が増えています。
フェアトレードコーヒーの販売を行う一般社団法人トランシード・グループのレポートによると、世界第5位のコーヒー生産国であるエチオピアのコーヒー農家は、ニューヨークのコーヒーの市場価格の約22分の1の報酬しか受け取っていないとのことです。
投機資金の排除
コーヒー豆は巨大な先物市場で取引されており価格は常に変動していますが、8〜9年に1回くらいの頻度で高騰しています。主な原因としては、世界のコーヒーの3割以上を生産している世界第1位のコーヒー輸出国であるブラジルの不作にあります。
しかし、1997年にはブラジルではコーヒーの不作が起きていなかったにも関わらず価格が高騰しました。それによって新しくコーヒー栽培に参入する農家が増えて供給過多の状況に陥り、2001年の10月には国際価格が暴落して、新規参入した農家は大きな損害を被る結果となりました。
投機資金によって価格が操作された可能性が疑われており、こうしたマネーゲームによる価格変動は、コーヒー栽培の収益性を不安定な状況にしています。
生物多様性の保全
自然環境に対する配慮として、農場とその周辺地域に生息する動植物の多様性と生態系を維持する必要があります。
そのために、「原生林に手を入れない」ことが求められています。
「シェイドツリー」を保全するという方法もあります。シェイドツリーとは、森林で覆われた木陰で生産されるもので、森林伐採を防ぎ、豊かな自然環境を守ります。
シェイドツリーのように、畑に樹木を植える方法は「アグロフォレストリー」と呼ばれており、樹木があることで動植物の生息地ができて多様性が豊かになり、生態系が持つ自然の相互機能を利用することで自然への負荷を軽減し、かつ有機肥料、窒素固定効果で土壌の肥沃度が維持されて生産性が向上する、といった利点が指摘されています。
水資源の保全と保護
コーヒーの精選(果肉やぬめりを取り除く工程)には、非水洗処理方法(ナチュラル)と水洗処理方式(ウォッシュド)がありますが、水洗処理方式で精選する場合は特に大量の水を消費します。
貴重な水資源を消費するだけでなく、時には排水をそのまま川に流すなどして河川の汚染が引き起こされる場合もあります。
コーヒー産業の持続可能性を高めるために、使用する水の総量を減らす、汚水の量を減らす、汚水を浄化するための装置の開発や、水の再利用といった取り組みがされています。
廃棄物の管理と活用
コーヒーは加工が前提の農作物であるため、製造過程で大量の廃棄物が排出されます。
精選過程でコーヒーチェリーから取り除かれた果皮は、ジャムやカスカラティーなどとして利用されることもありますが、それはほんの一部にすぎず、ほとんどは廃棄されてしまいます。
この大量に出る果皮の廃棄物を有効利用するための取り組みも世界中で行われています。堆肥化して畑で使用したり、栄養価の高い果皮をミミズに食べさせて糞土を作ったりといった取り組みがあります。
また、果皮と同様に廃棄されてきたパーチメントを燃料として利用したり、脱穀後のコーヒーの殻をコーヒーフラワーとして小麦粉代替品として利用したりといった取り組みもあります。
病害虫への対策
コーヒーは、雨、日当たり、温度、土質の4つの条件が全て揃った地域でしか栽培することができない、非常に栽培が難しい植物です。そのため、多くの農作物の中でも特に気候変動による影響を受けやすい作物です。
コーヒーの栽培には、雨季と乾季がある環境が必須とされていますが、気候変動によって雨季と乾季の境目がなくなった地域では栽培が困難になります。また、湿度が上昇することで、コーヒー栽培において最も恐れられている深刻な病害である「サビ病」の発生につながります。
こうした病気に耐性のある栽培種の開発が行われています。
サステナブルコーヒーの認証機関
環境保護団体を含めたさまざまなNGOが、サステナブルコーヒーを推進するための活動をおこなっています。
それらの機関では、それぞれの理念のもとに設けた独自の基準によってコーヒー生産者や流通業者をチェックし、基準をクリアしたら認証を与えます。
レインフォレスト・アライアンス認証
熱帯林の環境・生態系を保全するとともに、労働者に適切な労働条件を与えている農園を認証します。環境保護、社会的公正、経済的競争力のすべてに働きかけています。
バードフレンドリー®
熱帯の森林を守りながら木陰栽培かつ有機栽培しているコーヒー農園を認証します。生産者を支えるとともに、森林で休む渡り鳥を守ることを目的とし、収益の一部は世界中の渡り鳥保護のために還元されています。
国際フェアトレード認証
生産者への適正な価格と長期的な取引や、安全な労働環境、生産地の環境保全を認証するとともに、商品代とは別に渡される奨励金によって学校や病院建設などの地域の社会発展に取り組んでいます。
サステナブルコーヒーに関する様々な活動
認証機関以外にも、コーヒー産業を持続可能にすることを目指す世界的なイニシアティブや、各企業の取り組みがあります。ここでは、「サステナブル・コーヒー・チャレンジ」というイニシアティブと日本企業の取り組みを紹介します。
サステナブル・コーヒー・チャレンジ
「サステナブル・コーヒー・チャレンジ(Sustainable Coffee Challenge」は、コーヒーを真に持続可能な農産物とするために立ち上がったイニシアティブで、国際NGOコンサベーション・インターナショナルとスターバックスコーヒーが共同で立ち上げました。
環境に配慮した栽培方法や労働環境の改善、コミュニティ開発などによって、農民が収益を上げ、環境や地域社会が持続可能な状態を維持できるよう支援することを目指して、生産者、小売業者、焙煎業者、貿易業者、認証機関、政府など、多様な関係者が集まった連合です。
スターバックスコーヒー以外にもマクドナルドやネスカフェなどといった世界規模の企業をはじめとする多くの組織や政府が加盟しています。
日本企業の取り組み
コーヒー産業をサステナブルなものにするための活動を積極的に行っている日本企業を紹介します。
ミカフェート
ミカフェートでは、豆からドリップコーヒーまでの一貫した製造・販売を行っています。
高品質なコーヒーを提供するために、農園から加工工場、販売店までの一貫した管理を行っています。農民の人権や環境保護に配慮した取り組みを行っており、サステナブルなコーヒー産業の確立のために様々な活動に取り組んでおり、日本企業として初めてサステナブル・コーヒー・チャレンジにも参画しました。
GOOD COFFEE FARMS
グアテマラのコーヒー生産者の多くは小規模で資金不足のため、生産性が低い上、複数の仲介・輸出業者を経由するために安値で販売せざるをえず、コーヒー栽培のみでは生活に必要な収入が得られずに離農する農家が増えています。
グアテマラ出身のラミレス・メレンデス・カルロス・ロベルト氏は、自転車を使用した独自の精製処理の仕組みでそのような状況を変えるべく2017年にGOOD COFFEE FARMSを設立。環境負荷を減らし、トレーサビリティが確保された高品質のコーヒー豆を適正な価格で販売することでコーヒー農家の収入向上に取り組んでいます。
世界の小規模なコーヒー農家においては、精製に必要な設備資金もノウハウもなく精製処理をすることができず、そのためコーヒーチェリーの実のままで販売するしかなく、低価格で取り引きされるため彼らが儲からない構造になってしまっています。そこでGOOD COFFEE FARMSは、小規模コーヒー農家が収穫後の精製処理を行えるように、自転車の動力を利用した脱穀機(ドライ・バイシクル・パルピング・システム)を開発しました。
この脱穀機は水を使用しないため、コーヒーチェリーの糖分が水で流されず、通常より長い時間糖分が豆に吸収されます。その結果、コーヒーチェリー本来の甘みを感じることができるフルーティーなコーヒーに仕上がります。さらに、水・燃料・電気も使わずに果肉を除去することができるため、低コストで導入できることに加えて、環境負荷も減らすことができます。
これによって、従来より課題となっていた大規模な精製手段の壁を打ち破り、環境問題の解決と小規模農家が参入できる枠組みを構築しました。
コル(UP COFFEE CHALLENGE)
ソーシャルビジネスを展開する株式会社コルが運営する、アップサイクルでコーヒー産業のサステナビリティ向上を目指す共創の取り組みです。
インテリア雑貨やバスグッズなど、コーヒーかすを使った様々なアップサイクル商品の開発に取り組んでいます。2024年1月から、Cafeや消費者をサポーターとして巻き込んでコーヒー豆かすの循環モデル作りへの挑戦を開始しています。
コーヒー産業をサステナブルにするために消費者ができること
ここまでは、生産者や、各種機関(政府やNGO、企業など)の取り組みを見てきましたが、最大のステイクホルダーは消費者であるといっても過言ではないでしょう。
消費者がサステナブルコーヒーの消費拡大に貢献すれば、生産者や各種機関のサステナブルな取り組みを後押しし、コーヒー産業の持続可能性が高まるという好循環につながります。
コーヒー産業をサステナブルにするために消費者ができることの具体例を例示します。できることから、できる範囲で行動していきましょう。
認証のあるコーヒー豆を買うこと
レインフォレスト・アライアンスやバードフレンドリー、フェアトレードといった認証を取得したコーヒー豆を購入したり、そうしたコーヒー豆を使用しているカフェでコーヒーを飲むことは、サステナブルなコーヒー栽培に取り組む生産者を直接的に応援することにつながります。
サステナブルにつながる消費行動を実践すること
マイタンブラー(カップ)を使う
コンビニやカフェでコーヒーを含めた飲料用のカップは毎年39.1億杯消費されていると推計され、そのほとんどが再利用されず廃棄や熱回収されていると考えられています。
マイタンブラーを使うことで、そうした使い捨て(シングルユース)の飲料用カップの削減に貢献することができます。
缶コーヒーや自販機での購入は控える
缶コーヒーは、製造や販売の過程において、多大なエネルギーを使用しています。京都大学の研究では、資材としてスチール缶を使い、寒い時には温め、暑い時には冷やした状態で自動販売機で販売されるコーヒーは、コーヒーメーカーで淹れるコーヒーと比べて抽出量(1ml)あたりのエネルギー使用量が4倍になるとのことです。
同じく、日本のコーヒー市場での缶コーヒーのシェアは約17%であるのに対し、温室効果ガス排出量はコーヒー消費市場全体の約半分を占めているとのことです。
コーヒーかすを捨てない
日本は世界で第4位のコーヒー消費国であり、コーヒーを抽出した後に残るかすが大量に発生し、捨てられているという問題もあります。
一ヶ所で大量のコーヒーかすが出る工場や、配送システムを持つカフェチェーンなどでは、飼料や肥料の材料として利用されているケースがありますが、カフェや家庭などではごみとして捨てられているのが大半です。
日本は生ゴミを世界一燃やしている国であり、最終処分場の受け入れ可能な容量が逼迫している状況でもあります。コーヒーかすを堆肥化したり、個人で再利用できる方法もありますので、捨てずに再利用してみては如何でしょうか?
References :
●「コーヒーで読み解くSDGs」(José.川島良彰・池本幸生・山下加夏)ポプラ社
● Rainforest Alliance
● FAIRTRADE JAPAN
● バードフレンドリー®︎コーヒー
● 伊藤忠紙パルプ株式会社「脱石油由来プラスチックに向けた紙製品のクローズドループモデル実証事業 実施報告書