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スマートシティの動向|CaaS(City-as-a-Service)の時代へ

スマートシティの動向|CaaS(City-as-a-Service)の時代へ

2020年1月にトヨタが静岡県裾野市に「Woven City」という実験都市を作ることを発表したため、スマートシティに改めて注目が集まっています。

スマートシティとは?

『スマートシティ』の定義は発信主体によって異なる部分もあり、明快に確立はされていません。例えば、

  • 【国土交通省】
    都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区
  • 【経済産業省】
    家庭やビル、交通システムをITネットワークでつなげ、地域でエネルギーを有効活用する次世代の社会システム
  • 【総務省】
    都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、生活の利便性や快適性を向上させるとともに、人々が安心・安全に暮らせる街

というように、国土交通省・経済産業省、総務省でそれぞれ定義が異なります。ただ、「先端技術を駆使して都市の課題解決に注力する」という方向性は共通しています

一般的には「ITや環境技術などの先端技術を駆使してまち全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型都市」といったように「環境」面が注目されてきましたが、近年では「モビリティ(交通)」「ウェルネス(健康)」「セキュリティ(安全)」といったように、都市に暮らす人々のハード・ソフトを含めたインフラ全般にまで範囲が広がっています。

まさに、CaaS(City-as-a-Service)の時代が始まろうとしています。

Googleがカナダでスマートシティ開発

人口増加による交通渋滞や環境汚染、住宅価格の上昇や貧富の差の拡大を問題視したカナダ最大の都市トロントでは、2001年にトロント市・オンタリオ州・カナダ政府がWaterfront Toronto社を共同で設立。

2017年にはインターネット検索世界最大手のGoogleの親会社であるAlphabet社傘下のSidewalk Labsを資金調達とイノベーションを行うパートナーとして選定し、同年10月にウォーターフロントエリアをスマートシティとして再開発する「Sidewalk Toronto」プロジェクトを発表しました。

「Sidewalk Toronto」では住民の行動データをはじめとするさまざまなデータを収集し、それらのデータをもとに住民や環境にとってより良い暮らしをつくり上げていくとされています。

国内スマートシティの動向

日本政府においても、内閣府が掲げる「Society5.0」においてスマートシティを目指す都市像と位置づけています。

内閣府、文部科学省、経済産業省、国土交通省などを中心としてスマートシティ推進における基本方針や各府省の連携体制を決定していくための体制作りが進められています。

また、取り組みを官民連携で加速するために、企業・大学・研究機関、地方公共団体、関係府省などを会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を発足しました。

民間企業では、日本を代表する企業であるトヨタが、2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES 2020」で、静岡県裾野市に「ウーブン・シティ(Woven City)」と呼ばれる実験都市を開発するプロジェクト「コネクティッド・シティ」を発表しました。

このプロジェクトは、自動運転やロボット技術などの人々の暮らしを支える新しい技術を導入・検証できる実証都市を作ることを目的としています。

MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という言葉が認知されてきて、自動車がコモディティ化してサービスの一部に組み込まれてしまう社会が予見されるなか、街にもCity as a Serviceという言葉が現れ、単なる建物の集合体ではなく、そこから得られる便益(サービス)に価値が置かれるような未来社会を見据えての動きと思われます。

国内のスマートシティ事例

Fujisawa SST(神奈川県藤沢市)

『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』は、2014年から、パナソニックグループ(パナソニックとパナソニックホームズを合わせて出資比率50%)を中心に、三井不動産レジデンシャルや三井物産などの民間大手企業と藤沢市による官民一体の共同プロジェクトです。

単に最先端のスマートタウンをつくるのではなく、究極の理想を追い求めた街作りをすることを掲げています。「インフラ構築→空間設計→住人サービス」という開発順序を辿る技術中心に進化したきたスマートタウン作りとは一線を画すことを強調しています。

ゾーニングやインフラ設計に偏重せず、最初にエネルギー・セキュリティ・モビリティ・ウェルネスなどの様々な角度から住人の快適性、地域特性や未来のくらしを考えてスマート・コミュニティライフを提案。次にそれらに最適な家や施設など街全体をスマート空間として設計し、最後に新しいくらしを支えるスマートインフラを最適構築していくとのことです。

▶︎『Fujisawa SST』ホームページ

Tsunashima SST(神奈川県横浜市)

2018年にFujisawa SSTに続く第二弾として『Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン(Tsunashima SST)』が神奈川県の横浜市港北区綱島エリアで街びらきされました。

野村不動産や東京ガス、Apple等の複数異業種で共創し、横浜市等の行政の協力を得ながら、タウン内に加えて周辺地域と繋がる次世代都市型スマートシティを目指しています。

まち全体の環境目標等について以下の数値目標を設定しています。

  • 環境目標:CO2排出量40%削減、生活用水使用量30%削減、新エネルギー等利用率30%以上
  • 安心・安全目標:災害発生時のライフライン確保についての計画であるCCP(Community Continuity Plan)3日間。
  • セキュリティ目標:セキュリティカメラが 100 台設置されており、まちの見守り(主要出入り口での映像取得率)100%、タウン内への駆けつけ(発報からの駆けつけ時間)15分
  • 環境認証評価:まち全体でグローバルな環境性能評価である LEED ND(まちづくり部門)の認証取得

▶︎『Tsunashima SST』ホームページ

2019年9月には第三弾となる『Suita サスティナブル・スマートタウン(Suita SST)』のまちづくり構想を発表しました。パナソニックを中心とした13社が連携して分野横断な取り組みを進めていくとともに、タウンデータを活用した新しいサービスづくりに挑戦します。

吹田市は、Suita SSTのまちづくりを契機に、近隣で進める北大阪健康医療都市を中心とした健康・医療のまちづくりや環境先進都市の取り組み等をさらに推進し、街の魅力向上を目指していくとしています。

エネルギー分野ではエリア一括受電と卒FIT電気を活用して、街区全体の消費電力を実質再生可能エネルギー100%で賄う日本初の「再エネ100タウン」を目指しています。

▶︎Panasonicホームページ「一人ひとりの最適に変化し続ける、多世代居住型健康スマートタウン『Suita SST』の構想を策定

柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)

UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター。東京大学、千葉大学、柏市、三井不動産、柏商工会議所、田中地域ふるさと協議会、首都圏新都市鉄道の7つの構成団体による共同運営)、三井不動産、柏市が幹事を務める「柏の葉スマートシティコンソーシアム」によって推進されています。

その下に民間型と公共型から成る2つのデータプラットフォームを配し、さらに4つ(「モビリティ」「エネルギー」「パブリックスペース」「ウェルネス」)のモデル事業対象分野別実施体制から構成されています。

以下の3つのテーマの最適解を求めてオープンなデータプラットフォームづくりを目指しています。

  1. 環境共生都市
  2. 新産業創造都市
  3. 健康長寿都市

柏の葉キャンパス駅を中心とする半径2km圏に大学や病院、商業施設などを集めて、人・モノ・情報を集中させ、駅周辺に集まるデータの収集と連携を強化し、収集したデータを、公・民・学が連携してデータ駆動型の地域運営に活用していくことを狙いとしています。

▶︎『柏の葉スマートシティ』ホームページ

Woven City(静岡県裾野市)

トヨタが、2020年1月、アメリカ・ラスベガス開催のエレクトロニクス見本市「CES 2020」で、静岡県裾野市に実験都市を開発するプロジェクト「コネクティッド・シティ」を発表しました。

網の目のように道が織り込まれあう街の姿のイメージから、都市の名称は『ウーブン・シティ(Woven City)』と名付けられました。

2020年末に閉鎖する子会社のトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地に2021年の着工する予定としています。また、5年以内にトヨタの従業員や研究者など2000名程度が実際に暮らすとのことを想定しているとのことです。

トヨタはこの街をコネクテッド・ビークル・テクノロジー(自動運転車などネットに接続された自動車技術)の実証試験用プラットフォームと位置づけています。

Woven Cityの主な構想

  • 街を通る道を3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作ります。
    1) スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
    2) 歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
    3) 歩行者専用の公園内歩道のような道
  • 街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で作り、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街作りを行います。
  • 暮らしを支える燃料電池発電も含めて、この街のインフラはすべて地下に設置します。
  • 住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、センサーのデータを活用するAIにより、健康状態をチェックしたり、日々の暮らしに役立てたりするなど、生活の質を向上させることができます。
  • e-Paletteは人の輸送やモノの配達に加えて、移動用店舗としても使われるなど、街の様々な場所で活躍します。
  • 街の中心や各ブロックには、人々の集いの場として様々な公園・広場を作り、住民同士もつながり合うことでコミュニティが形成されることも目指しています。

<出典> TOYOTAホームページ「トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表

DATA-SMART CITY SAPPORO(北海道札幌市)

札幌が抱える都市課題を解決し、目指すべき都市像及び未来の札幌の姿を実現するため、情報通信の仕組みやコミュニケーションの形態が大きく変化している時代に対応したICT活用を進めるに当たっての指針とするもの

として2017年に策定した「 ICT活用戦略」において、イノベーション・プロジェクトに取り組んでいます。

このプロジェクトの中核となるのが、札幌市の行政データと民間が保有するデータを協調利用するためのデータ連携基盤『DATA-SMART CITY SAPPORO』です。データ利活用の普及促進を図るためのダッシュボード機能やアカウント管理機能を備えており、地域課題の解決に向けた活用を目指しています。

また、以下のような、観光・交通・インフラ健康・分野での各種実証にも取り組んでいます。

  • 訪日外国人の動態把握と消費行動促進
  • 交通情報一元提供
  • スマート除排雪のための IoT によるセンシング
  • 冬期路面情報の市民参加型収集
  • 健康促進アプリと電子マネーの連携による行動促進と購買把握

▶︎『DATA-SMART CITY SAPPORO』ホームページ

ハイテクだけがスマートシティではない

ドイツ北部にあるハノーファー(人口約50万人)は、CeBITをはじめ、さまざまな見本市が開かれることで知られています。インダストリー4.0で言及されることの多い都市でもあります。それらのことからハイテク都市が想像されるかもしれませんが、再建された旧市街には、ハーフティンバー様式の街並みに混じって、ゴシック様式の赤レンガ造りのマルクト教会や、旧市庁舎が建つなど、落ち着いた街並みとなっています。

都市の中心部からは完全に自動車が排除され、歩行者だけが歩いて楽しめるようになっていて、様々な世代、車椅子の人、ベビーカーを押す人などがゆっくりと過ごしています。もっぱら経済の効率化や省エネといった視点でのスマートシティ開発に偏ることなく、人間の顔をしたスマートシティと言えるでしょう。

ドイツも日本と同様に人口減少・高齢化が進んでいますが、日本と比べて地方都市の空洞化やシャッター通り化、農村の過疎化は進んでいません。

これらは人口減少社会それ自体が原因なのではなく、街づくりを始めとした構想の問題だということが分かります。

終わりに|地方には「改修型スマートシティ」が必須

日本では人口減少と少子高齢化によって、特に地方では空き家問題や、人口減少による上下水道や都市ガス、廃棄物処理等のインフラのコスト効率の悪化問題が顕在化しています。また、インフラ老朽化問題も指摘されています。

それらに対し、スマートシティ化によるエネルギー利用効率の向上や、市街地再編によるエネルギーや二酸化炭素の排出量を減らしたり、自然災害や気象災害に強い都市への再編成が必要になってきます。

トヨタやパナソニックなどの日本を代表する企業が、工場跡地等を利用した「都市開発型」に取り組んでいますが、地方の課題解決のためには、既存の市街地等やまちの構造をそのまま活かした「改修型」への取り組みに力を入れる必要があるでしょう。

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