2019年5月31日に経済産業省から発表された「SDGs経営ガイド」は多くのSDGsに取り組む企業人の参考書となっています。
ここでは、「SDGs経営ガイド」とは何か?そして特徴とポイントについて解説しています。
SDGs経営ガイドとは何か?
経済産業省が2018年11月に立ち上げた「SDGs経営/ESG投資研究会」において、SDGs経営とESG投資について6回にわたり議論した結果をまとめた資料です。
この研究会には、一橋大学大学院の伊藤教授を座長として、大手企業(オムロン/住友化学/花王など)やベンチャー企業(ユーグレナ)のCEO、機関投資家(ブラックロックジャパン/野村アセットマネジメント)、大学(東京大学)長といった幅広いステークホルダーが委員として参加しました。
SDGsに関する現状認識を多様な観点から示し、企業が「SDGs経営」を実践する際に有用な視点を整理した資料で、SDGsの経営への取込みを模索する世界中の企業と国内外の投資家、関係機関あるいは各国政府によって羅針盤として活用されることを目的として発行されました。
日本の大企業におけるSDGs経営ガイドの利用状況
2020年5月8日、GPIF(年金積立金管理運用独立法人)によって発表された「第5回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」によれば、東証1部上場企業がSDGsの取組みを始めている割合は61.6%となっています。
そして、それらの大企業がSDGsへの取組みの際に「SDGs経営ガイド(経済産業省)」は最も参考にされる情報となっています。
【出典】GPIF2020年「機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」
SDGs経営ガイドの特徴とポイント
SDGs経営ガイドの特徴
日本国内のステークホルダーによる議論が中心となっていることから、日本の文化・歴史背景に対する洞察が色濃く反映されています。また、日本企業のSDGsへの取組事例も随所に盛り込まれているため、海外の機関が作成したものを和訳した「SDG Compass」と比べると、読みやすいと感じる人が多いでしょう。
そのため、SDGsとは何か?何故取り組む必要があるのか?そして、日本の大企業がどのような取り組みをしているのか?といったことを概ね理解するための入門書にふさわしい資料といえます。
一方、実際に分析したり、戦略を策定するための実務的な手引書としては「SDG Compass」が適しているでしょう。
SDGs経営ガイドのポイント
①SDGsと日本社会の価値観の親和性
会社が世のため人のために存在するという考え方は、日本では、「三方よし」の精神や渋沢栄一の道徳経済合一説においてみて取れる。日本企業は古くから社会課題を捉えて成長を実現してきた。
というように、SDGsの考え方は日本人が従来から持っている価値観と近しいものであって目新しい特別なものではないという考え方で一致しています。
②バックキャスティング思考
SDGsが2030年までの世界の「あるべき姿」を示しているように、将来のあるべき姿から逆算して今何をすべきかを考えるバックキャスティング思考の必要性が説かれています。
既存事業にSDGsのラベルを貼ることによる現状肯定(SDGsウォッシュと呼ばれています)ではなく、SDGsという未来志向のツールを活用して、自社の戦略をより一層磨き上げることが求められています。
③SDGs経営とCSV
経済合理性がないとして取り残されてきた社会課題を、テクノロジーや他の企業との連携によって経済合理性を創出していくことで、課題解決とビジネスを両立させることが「SDGs経営」の体現であるとしています。
この考え方は、SDGs経営がすなわちCSVと同義であることを示しています。
④オープンイノベーションの重要性
社会課題を解決するためには、自社の技術だけにこだわらない、オープンイノベーションの重要性が鍵であることが説かれてます。
また、非連続的なイノベーションを生み出すためには、経営者自身がコミットすることと、長期的視座に立つことが重要であると強調されています。
⑤日本企業は発信・対話が苦手
日本企業は自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な面があったが、SDGsという世界共通のフレームワークを用いて内外のステークホルダーとの対話を増やし、フィードバックを基に更なる価値創造へ臨むことの必要性が説かれています。
まとめ
SDGs経営ガイドでは、SDGsを「既存事業へのSDGsラベル貼り」程度に誤解することなく、本質を捉えて、社会課題解決を本業に組み込み、イノベーションを起こして企業の持続可能性を高めていくための啓蒙書です。
読みやすい内容と量(44P)なので、一度さっと目を通してみることをお勧めします。