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磯焼け(海の砂漠化)が引き起こす問題と対策に向けた取り組み

磯焼け(海の砂漠化)が引き起こす問題と対策に向けた取り組み

「磯焼け」という言葉を聞いたことがありますか。これは、海の岩場や海底に生い茂っていた海藻が減少して荒涼とした砂漠のような状態になってしまう現象を指します。その様子から「海の砂漠化」とも呼ばれ、近年、日本を含む世界中の海で深刻な問題となっています。

本稿では、磯焼けの原因や磯焼けによって引き起こされる問題、原因や対策に向けた取り組みについて紹介します。

日本国内の現状(各地の事例)

日本の沿岸部では、磯焼けが深刻な問題となっています。特に、漁業や観光業が盛んな地域での影響が大きく、これまでの海の姿が失われつつあります。

その面積は約20万ヘクタール以上に及ぶとされています。また、環境省の調査によると、日本の沿岸域の海藻の消失率は年々増加しています。例えば、ある地域では、10年前に比べて海藻が90%近く減少したという報告もあります。

日本各地の事例

・瀬戸内海
瀬戸内海では、栄養塩の不足が磯焼けの主な原因とされています。上流域のダム建設や下水処理施設の整備により、海に流れ込む栄養塩の量が減少しました。その結果、ワカメやコンブなどの海藻が育ちにくくなり、漁業者からの悲鳴が上がっています。

・三陸地方
三陸地方は、寒流が流れ込むため、かつてはコンブやワカメの養殖が盛んな地域でした。しかし、地球温暖化による海水温の上昇や、ウニによる海藻の過剰摂食が原因で、広範囲で磯焼けが確認されています。これにより、養殖業が大きな打撃を受けています。

・日本海沿岸(北陸・山陰地方)
日本海沿岸では、温暖化の影響に加え、特定の魚(アイゴやニシキベラなど)が海藻を食べ尽くしてしまう現象が広がっています。これらの魚は温暖な海域を好むため、海水温の上昇に伴って生息域が北上し、磯焼けを引き起こしています。

磯焼けの原因

磯焼けは、複数の要因が絡み合って引き起こされます。ここでは磯焼けの主な原因を詳しく見ていきます。

【原因1】 地球温暖化による海水温の上昇
近年の地球温暖化により、海水温が上昇しています。一部の海藻は特定の温度環境でしか成長できないため、海水温が高くなるとその生育が阻害されます。また、温暖な海を好む魚やウニが増え、海藻を過剰に食べてしまうことで磯焼けが進行します。

【原因2】 ウニや魚類による過剰摂食
ウニや海藻を食べる魚(例: アイゴ、ニシキベラなど)が異常に増加することも磯焼けの大きな原因です。これらの生物が過剰に繁殖すると、海藻が食べ尽くされてしまいます。特に天敵が減少する環境では、これらの生物の増加が顕著になります。

【原因3】 沿岸開発と水質汚染
埋め立てや港湾の整備などの沿岸開発が、磯焼けを引き起こす一因です。開発により海底の地形や水流が変化し、海藻の育成に適した環境が失われることがあります。また、生活排水や工場排水による水質汚染も、海藻の成長を妨げる要因となっています。

【原因4】 栄養塩の不足
海藻が成長するには、窒素やリンなどの栄養塩が必要です。しかし、河川から流れ込む栄養塩が少なくなると、海藻が十分に育たなくなります。近年では、上下水道の整備や工場排水の規制により河川の水質が改善される一方で、海藻に必要な栄養塩が不足する「栄養塩の枯渇」が問題視されています。

【原因5】 その他の要因
磯焼けは、自然要因と人為的要因が複雑に絡み合って発生します。たとえば、台風や波浪などの自然災害によって海藻が根こそぎ流されることもあります。また、外来種の侵入による生態系の変化も、磯焼けの進行を加速させる要因です。

磯焼けが引き起こす問題

磯焼けは、海の環境だけでなく、私たちの生活や社会にも大きな影響を及ぼします。この章では、磯焼けがもたらす問題について見ていきます。

【問題1】 生態系への影響
磯焼けは、海藻が育たない環境を作り出します。海藻が減少すると、それを食料や隠れ家としていた魚や貝類も減少します。これにより、海の生態系全体が崩壊し、多様な生物が住む「海の森」が失われます。一度崩れた生態系を回復させるのは非常に難しく、磯焼けが進む地域では海洋の生物多様性が大幅に失われてしまうのです。

【問題2】 漁業への影響
磯焼けは、漁業にも深刻な打撃を与えます。アワビやサザエ、ワカメなどの海藻を餌や生息地とする生物が減少するため、これらの漁獲量が減ります。特に海藻を養殖する漁業は、磯焼けの影響を直接的に受けやすく、地域経済に大きな影響を及ぼします。磯焼けが進行している地域では、漁業者が生活の基盤を失うケースも増えています。

【問題3】 地域経済や観光への影響
漁業だけでなく、観光産業も磯焼けの影響を受けます。磯焼けによって透明度の高い海の美しい景観が損なわれ、観光客の減少につながることがあります。また、海藻を活用した地元の特産品や料理も減少するため、地域の魅力や経済的価値が低下する恐れがあります。

【問題4】 環境全体への影響
磯焼けが進むと、海藻が光合成を通じて吸収する二酸化炭素の量も減少します。これにより、地球温暖化を悪化させる可能性も指摘されています。つまり、磯焼けは地域の問題にとどまらず、地球規模の環境問題にもつながるのです。

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磯焼け対策の取り組み

磯焼けを解消するためには、多方面からのアプローチが必要です。日本では、国や自治体、漁業者、研究者が一丸となり、さまざまな対策を講じています。この章では、その取り組みの具体例を紹介します。

海藻を再生させる取り組み

・植藻活動
磯焼けで失われた海藻を再び海に植える「植藻活動」が、多くの地域で実施されています。たとえば、三陸地方ではコンブの苗を人工的に育て、沿岸に植えることで海藻の再生を図っています。

・人工漁礁の設置
海藻が根を張りやすい環境を作るために、人工的な岩場(人工漁礁)を設置する取り組みも進められています。この方法は、海藻の生育を促進し、生態系全体の回復を目指しています。

ウニや魚類の管理

・ウニの駆除と資源活用
ウニが海藻を食べ尽くすのを防ぐため、漁業者によるウニの駆除が行われています。また、駆除したウニを地域特産品として活用する動きもあります。たとえば、宮城県では「磯焼けウニ」を食用として販売することで、持続可能な漁業と海洋保全を両立させています。

・魚類の個体数管理
磯焼けの原因となる魚(アイゴやニシキベラなど)の捕獲を推進し、個体数を調整する取り組みも行われています。

栄養塩の供給

栄養塩が不足している海域では、人工的に栄養塩を供給するプロジェクトが進められています。例えば、ダムの放流水に栄養塩を含ませる工夫や、肥料の代わりになる物質を海に投入する実験が行われています。

地域コミュニティの取り組み

・漁業者と市民の協働
漁業者だけでなく、市民ボランティアも磯焼け対策に参加しています。たとえば、海藻を植える活動や、海岸清掃を通じて磯焼けの原因となるゴミや汚染物質を取り除く取り組みが進められています。

・環境教育
地域の学校やイベントを通じて、磯焼けの現状や対策を学ぶ機会が提供されています。若い世代が海洋環境に関心を持つことは、未来の海を守る大きな力となります。

科学技術の活用

・ドローンやAIによる海洋監視
ドローンやAIを活用して海底環境をモニタリングする技術が開発されています。これにより、磯焼けの進行状況を効率的に把握し、適切な対策を迅速に講じることが可能になります。

・海洋再生の研究
研究者たちは、より効果的な海藻の育成方法や磯焼けを防ぐための新技術を開発しています。例えば、新しい海藻の品種改良や、水質改善のためのシステム開発が進んでいます。

おわりに

磯焼けは、私たちが直面している深刻な海洋環境問題の一つです。このまま磯焼けが進んでしまうと、漁業が衰退し、食文化も失われてしまい、取返しがつかない状況になってしまうことが予想されます。

磯焼けの問題に対する意識は年々高まっており、地域ごとの取り組みが多様化しています。人工漁礁や植藻活動の成功事例が増え、これらの方法が他地域にも広がりつつあります。また、地域住民や漁業者、市民団体が協力し、磯焼けの解決に向けたモデルケースを作り出している地域もあります。

これらの具体的な活動を広めて成果を拡大していくために、進化するテクノロジーの活用と環境教育、地域間や国際間における連携強化が期待されています。

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