ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

野生鳥獣被害の解決に挑むジビエビジネスまとめ

野生鳥獣被害の解決に挑むジビエビジネスまとめ

野生鳥獣による被害は、農林漁業を中心に深刻な影響を及ぼしており、更なる事業継続意欲の減退や耕作放棄地の増加等をもたらすなど、被害額として数字に現れる以上の問題となっています。

ここでは、野生鳥獣被害の問題点や原因について解説すると共に、野生鳥獣被害の解決に挑むビジネスを紹介します。

野生鳥獣被害の問題点

農業における問題としては、鳥獣被害によって営農意欲が低下して離農が増加し耕作放棄地が増加、それによって更なる鳥獣被害が発生するという悪循環を産んでいます。

森林においては、森林の下層植生の消失等による土壌流出と希少植物の食害といった問題があり、被害面積は全国で年間約5千ha(2019年度)となっており、シカによる被害が約7割を占めています。

水産業においても、河川・湖沼ではカワウによるアユ等の捕食、海面ではトドによる漁具の破損といった問題があります。

また、こうした産業や資源に与える影響の他にも、地方部を中心に、住宅への侵入による家屋の破壊や糞尿被害や車両との衝突事故等といった一般社会における問題の増加にもつながっており、地方農村部の人口減少につながってしまう可能性もあります。

このように被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。

野生鳥獣による農作物被害額の推移

野生鳥獣による農作物の被害額は、平成22年度(2010年度)の239億円から令和元年度(2019年度)には158億円へと減少傾向にありますが、下げ止まりの傾向にあります。

被害の内訳は、シカが53億円(34%)と最大になっており、イノシシが46億円(29%)で続いています、シカ・イノシシにサルとその他含めた「獣類」による被害が127億円で全体の8割を占めており、残りの2割がカラスを中心とした「鳥類」によるものとなっています。

農作物被害推移
【出典】農林水産省「捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況(令和3年10月)」

シカとイノシシの捕獲頭数の推移

イノシシとシカの捕獲を強化した結果、捕獲頭数は年々増えており、令和2年度(2020年度)は、シカ67万頭、イノシシ68万頭となっています。

捕獲頭数推移
【出典】農林水産省「捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況(令和3年10月)」

野生鳥獣被害の原因

本州以南のニホンジカの個体数は1989年度の28万頭から2017年度には244万頭、イノシシは1989年度の25万頭から88万頭と大幅に増えました。

野生のシカやイノシシが増えた原因はいくつも考えられますが、「林業の衰退」「里山地域の人口減少・高齢化」「狩猟者の減少による捕獲圧の低下」といった要因が挙げられます。

林業が盛んだった時代は里山地域の人口は増加傾向にあり、土地の開発も進んでいったためにシカやイノシシの生息地域が狭くなっていました。また、食料として流通していたため、狩猟を生業とする人達も多く存在していました。その歯車が逆回転していることで、野生の鳥獣が増加していると考えられます。

具体的な数値で見てみると、狩猟免許所持者は減少傾向にあり、環境省によると、全国の狩猟免許所持者数は1975年度の51.8万人から2016年度の20万人へと6割以上減少しています。また、免許所持者の半数以上が60歳以上となっており、高齢化も進んでいます。近年では、比較的若い人を中心に新規の狩猟免許取得者数が増えてきています。

狩猟免許所持者数推移
【出典】環境省「全国における狩猟免許所持者数(年齢別)の推移(1975~2016)」

シカ・イノシシの食肉市場規模

農林水産省の「捕獲鳥獣のジビエ利用をめぐる最近の状況(平成30年6月)」によると、捕獲した野生鳥獣は専ら埋設・焼却によって廃棄処分されており、2016年度に食肉処理施設で処理した食肉の販売によって得られた金額は28億9,300万円(シカが14.8億円、イノシシが13億.7億円)とのことでした。

捕獲頭数に対する処理頭数はシカ9%、イノシシ5%に留まっていることから、100%処理されたとすると439億円の販売金額の潜在販売金額と推定されます。

従って、シカ・イノシシ肉の食肉市場規模(2016年度)は、顕在化している分が38.9億円となっていますが、顕在化している分を合わせると439億円のポテンシャルがあるとみなせます。

野生鳥獣被害の解決に挑むジビエビジネス

農林水産省と環境省が中心になって、野生鳥獣被害の問題解決を狙いつつ、地方振興にもつなげていくことを狙いとした「ジビエ振興」という動きがあります。そうした、ジビエ振興の動きを中心とした、野生鳥獣被害という社会問題の解決に挑むビジネス事例を紹介します。

カリラボ

カリラボ▼運営サイト: カリラボ

2019年10月創業。地元のベテラン猟師たちと一緒に狩りをする「カリナビ」、動物を捕獲するわなを共同で仕掛ける「ワナシェア」、シカやイノシシ肉のバーベキューなどを楽しみながら狩猟を身近に感じてもらうイベントの開催を主な事業内容としています。

日本全国の鳥獣害被害問題を解決し、同時に日本人にとっての「ジビエ」をもっと身近なものにするために、「もっと興味を持ってくれる人を増やす」「興味を持った人が参加しやすくする」「ジビエを観光資源にする」仕組みをビジネスとして成り立たせ、結果それが地域活性化につながるようなエコシステムを構築することを目指して事業を運営しています。

ALSOK千葉株式会社

ALSOK千葉▼運営サイト: ALSOK千葉株式会社

警備保障会社大手のALSOKのグループ会社。千葉県内では、有害鳥獣によって毎年約4憶円に上る農作物への被害が出ており、捕獲従事者の高齢化・担い手不足も相まって、深刻な状況が続いています。

捕獲従事者からは個体(イノシシ等)の処理や書類作成など報奨金の受領に必要な事務手続きを代行する代わりに、捕獲した個体(イノシシ等)を譲り受け、食肉へ加工する施設「ジビエ工房茂原」を2020年7月に開設し、販売事業を開始しています。

一般社団法人日本ジビエ振興協会

ジビエ振興協会▼運営サイト: 一般社団法人日本ジビエ振興協会

日本国内で適正に捕獲された野生鳥獣を、衛生的に処理・加工し、流通規格に則った安心・安全な流通を経て、美味しく価値ある食の資源として活用するために、ジビエの衛生管理や取り扱いについての正しい知識を普及させ、健全で成熟したジビエのマーケットを創出することを目指して創設された協会です。

当協会では、ジビエの捕獲・流通・加工・販売・調理等に関する情報発信や講習会等を実施しています。

また、消費者がジビエを安全・安心に食すことができるように、2018年に農林水産省によって「国産ジビエ認証制度」が制定されましたが、認証機関として国産ジビエ認証委員会(農林水産省指定)により登録されています。当協会のウェブサイトでは、認証された施設の一覧をみることができます。

祖谷の地美栄

祖谷の地美栄▼運営サイト: 祖谷の地美栄

徳島県の観光名所としても有名な祖谷地域で、2014年8月に開業した野生鳥獣(ジビエ)専用の食肉処理加工施設です。国産ジビエ認証制度の2番目の認証施設となっています。

運営は地元東祖谷地区猟友会を中心として設立された「三好市鳥獣被害防止対策協議会」が担っており、Web発注システムの開発にも取り組むなど、トレーサビリティ情報の蓄積を活かした在庫量のリアルタイム公開も実施しており、価格面でネックになりやすいジビエにおいて、求めやすい価格でのご提供も可能とするといった経営努力に取り組んでいます。

ジビエト

ジビエト▼運営サイト: ジビエト

株式会社テレビ東京コミュニケーションズが運営。

全国のジビエを提供するレストラン・ショップ情報を始め、ジビエに関する情報やイベント情報を発信するジビエポータルサイトです。

DIYA

diya▼運営サイト: DIYA

ジビエとは異なるものの、鹿や猪の肉と一緒にとれる皮についても商品化する動きがありますので紹介します。

上述の「祖谷の地美栄」がある、徳島県の祖谷で駆除された鹿の革を材料に、徳島で約600年続く伝統製法で生み出される天然染料「すくも」を使用し、伝統技法「天然灰汁発酵建て本藍染め」で染め上げた鹿革の製品(財布・カバン・名刺入れなど)を製造販売しています。

映画監督の蔦哲一朗氏が、2013年に地元・徳島の祖谷地方を舞台にした映画「祖谷物語-おくのひと-」を製作していた際、地元の住民と獣たちの戦いを目の当たりにし、深刻な鳥獣被害、里山の現状を知るきっかけとなれるように立ち上げたプロジェクトです。

おわりに|野生鳥獣被害の解決に挑むジビエビジネス

タンパク質危機や畜産業の環境問題がとりざたされる一方で、農林水産業に被害をもたらしている天然の良質なタンパク源が放置、または捕獲してもお金と手間をかけて廃棄されているという矛盾が生じています。

いくつもの社会問題を同時に解決できる可能性を秘めたジビエビジネスの可能性を感じて頂き、積極的に消費して応援するか、狩猟者や加工者としてアクションを検討してみては如何でしょうか?

Return Top