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たまごの殻の廃棄問題とアップサイクル事例

たまごの殻の廃棄問題とアップサイクル事例

私たちの生活に欠かせない”たまご(鶏卵)”。日本人は1人あたりの卵の消費量が世界4位となっているくらい卵が好きな国民です。それだけに、”たまごの殻”も大量に発生しています。そして、その大半(年間17~20万トン)が廃棄されているという事実もあります。

私たちが日々恩恵を受けているたまごの”殻”の廃棄状況と、廃棄量を削減するためにアップサイクルに取り組む企業の事例を紹介します。

世界および日本でのたまご消費量の現状

現在、世界中で卵の年間消費量は約1兆個とされており、その約10%が加工食品産業で使用されているといわれています。

国際鶏卵委員会(IEC)のデータによれば、国ごとの2023年の1人当たり年間卵消費量上位5か国は以下のようになっています。

【1位】 メキシコ: 392個(2022年 392個)
【2位】 アルゼンチン: 336個(2022年 322個)
【3位】 コロンビア: 324個(2022年 317個)
【4位】 日本: 320個(2022年 339個)
【5位】 ロシア: 288個(2022年 295個)

世界1位はメキシコとなっています。日本は第4位となっており、だいたい毎日1個食べている計算になります。

日本では卵は「物価の優等生」と称されるほど価格が安定しており、消費者にとって手頃なタンパク源として親しまれています。

しかし、近年では鳥インフルエンザの影響や円安によって飼料価格が高騰していることで、卵の価格が上昇傾向にあります。例えば、2023年には鳥インフルエンザの発生により卵の供給が減少し、価格が上昇した結果、消費量が前年の339個から320個へと減少しました。

(一社)日本養鶏協会の資料(「鶏卵の需給見通し」2021年9月)によると、2022年の1人あたり消費量では「家計向け」が約6割、「業務・加工向け」が約4割という内訳になっています。

たまごの殻の廃棄の現状と課題

(一社)日本養鶏協会の推計では、2024年は全国で年間約240~250万トン生産されると見込まれています。

卵殻は総重量の10%程度を占めるため、24~25万トンが発生することになります。このうち、全廃棄量の2~3割程度が再利用されているため、残りの約7~8割となる17~20万トンが廃棄処分されると推測されます。

廃棄方法としては一般ごみとして埋め立てられることが多く、一部は焼却処理されています。

廃棄によって生じる課題として以下のようなものが挙げられます。

  • 埋め立て地の不足:
    たまごの殻は埋め立て処理が一般的ですが、非常に硬く分解しにくい特性を持つため、分解されるまでに長い時間を要し、長期間埋め立て地を占有します。
  • 環境負荷:
    焼却時には二酸化炭素などの温室効果ガスが発生します。
  • 処理コスト:
    大量の廃棄物の処理には費用がかかり、特に食品産業にとっての負担となっています。
  • 再利用率の低さ:
    現状ではたまごの殻の大半が廃棄され、再利用は2~3割にとどまっています。

たまごの殻の特性と活用分野

このように大半が廃棄されているたまごの殻ですが、実は有用な特性をもっており、それらを活用することで様々な分野で新たな価値を創出できる可能性があります。たまごの殻の主な特性と活用されている分野について紹介します。

卵の殻の成分は、約95%を占める「卵殻(らんかく)」が殻炭酸カルシウム(CaCO₃)でできており、残りの5%を占める内側の薄い「卵殻膜」がたんぱく質やコラーゲンを含む有機成分でできています。卵殻と卵殻膜は中身の卵白(白身)と卵黄(黄身)を守る役割を果たしています。

微細な構造が強度を高めており、軽量で硬いこと、多孔質構造であることから、吸着性や透過性に優れているという点が物理的な特性として挙げられます。生物的特性としては、埋め立てや堆肥化によって自然に分解可能な生分解性と、動植物の成長に必要な重要な栄養素である炭酸カルシウムを豊富に含有しているという点が挙げられます。

そうした特性を活かして、農業分野では土壌改良材や肥料として、建築・建材分野ではコンクリートの補強材や壁材・タイルの素材として利用されています。また、天然のスクラブ材として化粧品として、カルシウムサプリメントとして食用にも利用されています。

たまごの殻のアップサイクル事例

たまごの殻は様々な用途で価値を生み出しています。温室効果ガスの排出削減とサーキュラーエコノミーへの移行が求められるなか、環境負荷を軽減しつつ、資源循環を促進する素材として注目されています。

ここでは、廃棄されてきたたまごの殻を高い価値をもった新しいものへと生まれ変わらせるアップサイクルに取り組んでいる企業の事例を紹介します。

キューピー

マヨネーズの最大手メーカーであるキユーピーグループは、年間約25万t(約42億個)、日本で消費される量の約10%に相当する鶏卵を使用しており、発生するたまごの殻は年間約2万8,000tにのぼります。

1950年代から卵殻の再生利用の取り組みを始め、現在では100%再資源化しています。カルシウムが多く含まれる卵殻はカルシウム強化食品や土壌改良剤、肥料に、殻の内側にある卵殻膜は化粧品やサプリメントの原料として利用されています。

東リ

東リはたまごの殻の主成分が、ビニル床材の主原料として使用される「炭酸カルシウム」であることに着目しました。

そこで、石灰岩から採れる炭酸カルシウムの一部を卵の殻に置き換え、重量比で25%(タイル1枚=卵の殻約80個)使用した、バイオマス由来のタイル「バイオミックストーン」を開発しました。

グリーンテクノ21

佐賀県を拠点とする企業。2003年に卵殻100%グランド用白線の製造販売からスタートし、積水ハウス株式会社と施工現場で発生するプラスターボード端材と卵殻をリサイクルしたグラウンド用白線「プラタマパウダー」を共同開発するなど、卵殻の再利用に特化した事業を展開しており、現在では年間6000トンもの卵殻の再利用を行っています。

同社の主力商品である「100%卵の殻でできたグラウンド用白線」は、通常の炭酸カルシウム製ライン材に比べて、製造工程が少なく、化石燃料を使用していなため1袋(20㎏)あたり7.2kgのCO2削減に貢献。また、卵の殻には土壌pHを整える性質があるので、酸性土壌、強アルカリ土壌を中和し、弱アルカリ性にします。天然芝にとってより育ちやすい環境のため天然芝グラウンドに最適なライン材となっています。

また、無焼成卵殻有機石灰『アミノのチカラ』、発酵鶏糞と無焼成卵殻有機石灰を混合した『オーガニック肥料』などの有機肥料を製造販売しているほか、卵殻を利用した商品のメーカー向けに、卵殻を一次加工(粉砕粒度別/卵殻膜の除去の有無/赤玉・白玉の割合など)したマテリアルを製造販売しています。

サムライトレーディング

埼玉県を拠点とする企業。たまごの殻を特許製法で微粒子パウダー化し、種々な紙繊維と混合した紙素材「CaMISHELL®」や、たまごの殻60%とポリプロピレンなどのプラスチック40%を混ぜ合わせたバイオマスプラスチック「PLASHELL®」を開発しました。

石塚硝子

愛知県を拠点とする、創業203年を迎える老舗のガラスメーカー。ガラスの主な原料である、珪砂とソーダ灰(炭酸ナトリウム)、石灰石(炭酸カルシウム)とカレット(ガラス屑)のうち、石灰石の部分を卵の殻に置き換えました。

同社によると、卵殻を1トン使用することで既存の石灰石よりも約180kgのCO2を削減することができることに加えて、ガラス化する際に炭酸カルシウムから生じるCO2が、太古のサンゴ等から形成される石灰石ではなく、食物連鎖により比較的短期間にCO2を吸収・循環する卵殻由来とすることで、大気中のCO2の増加を抑制できるとのことです。

ファーマフーズ

京都府に拠点を構える機能性素材開発企業。加水分解した卵殻膜を独自技術で卵殻膜を再生セルロース繊維に10%添加したハイブリッド繊維「ovoveil®」を開発しました。

着用試験において、肌水分蒸散量を抑える「肌のバリア機能」と、角質水分量を高める「うるおい」を向上させることを実証済みとなっています。

References:
•国際鶏卵委員会(IEC)
•一般社団法人 日本鶏養鶏協会

寄稿者

UP FOOD PROJECT
「もったいない」をなくすことから食を持続可能にUPdateすることを目指す共創プラットフォーム。

食の領域でどのような「もったいない」が発生しているか。そして、「もったいない」をなくすための先進的な取り組みや、個人が毎日の生活のなかでできることについて発信していきます。
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