植物などの有機物を炭にして土に埋めることで、植物が大気中から取り込んだ二酸化炭素ごと田畑の土壌に閉じ込めると同時に、窒素肥料で酸性化した土壌の酸性度を和らげ、収量を増やすといった効果を発揮する「バイオ炭」が注目されています。
ここでは、バイオ炭とは何かについて、また、注目される理由や期待される効果について詳しく解説します。
バイオ炭とは
バイオ炭(英語: Biochar)とは、生物由来の有機物(いわゆるバイオマス)を炭化させたものです。バイオ炭の原料には、木や竹、もみ殻、家畜の排せつ物などがあります。
地球温暖化の原因となる二酸化炭素を土壌に長期間封じ込め、二酸化炭素排出量を削減可能です。また、大気中の二酸化炭素は植物が行う光合成により有機炭素になり、植物の中に貯蔵されるのです。それを炭化させることで化学的に安定した炭素に変え、土壌にいれるだけで土壌改良につながり、農作物の成長を促進します。
なお、気候変動に関する政府間パネル(いわゆるIPCC)ガイドラインの定義によれば、バイオ炭とは「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」とされています。
バイオ炭が注目される理由
今、バイオ炭が注目される理由はいくつかあります。主なものとして3つ挙げると、以下のようになります。
- 地球温暖化防止対策(CO2の回収・貯留)
- 農地の土壌改良
- 森林資源の再生
広い意味で生物由来の堆肥は古くから日本でも使われてきました。半世紀程度前には堆肥として、し尿や家畜の排せつ物、落ち葉、草なども使われてきました。木の炭なども土壌改良材として使っていたのです。しかし、これらの有機物により土と作物を育てる農法も、近代になると変わってきました。化学肥料の普及に伴い、これらは使われることが少なくなってきたのです。また、燃料として使われてきた薪も化石燃料に変わり、山や森の荒廃も進みました。
しかし、2019年改良版のIPCCガイドラインにおいて、CDR(Carbon Dioxide Removal)として認められたことを契機に、2020年9月には「バイオ炭の農地施用」が日本国政府が認証する制度「J-クレジット」の対象となるなど、カーボンニュートラルの実現に向けた取組の中で「バイオ炭」に対する注目が高まっています。
バイオ炭の農業利用に関する学術論文は2010年の100編程度から2021年には17,000編にも達し、英語論文を中心に、国際的な研究が急激に盛んになってきています。
バイオ炭の地球温暖化対策としての期待
人間の経済活動に伴う二酸化炭素の排出は増え続けており、地球規模の環境問題となっており、二酸化炭素排出量の削減が重要になってきました。
バイオ炭の原料となる木材や竹等に含まれる炭素は、そのままにしておくと微生物の活動等により分解され、二酸化炭素として大気中へ放出されてしまいます。しかし、木材や竹を炭化し、バイオ炭として土壌に使用することで、その炭素を土壌に閉じ込め(いわゆる「炭素貯留」)、大気中への放出を減らすことができます。
2019年度より、農地へのバイオ炭の使用は、国際的な排出・吸収報告書(温室ガスインベントリ報告)において、温室効果ガスを吸収する取り組みの1項目として認められました。また、2020年には、国が認証する二酸化炭素の削減量や排出量をクレジットとして取引する「Jクレジット制度」の対象としても認められました。
そして2022年9月には、バイオマス活用推進基本計画(第3次)が閣議決定され、カーボンニュートラルの実現に向けた取組の中で、「バイオ炭」が挙げられました。
農林水産省は脱炭素推進の中で二酸化炭素の回収や有効利用、貯留に力を入れる考えで、もみ殻・剪定枝・竹等由来のバイオ炭を農地に施用することで炭素貯留の取組を推進するとしました。また、農地に還元・施用することによる炭素の貯留効果に関する研究を更に推し進めるとのことです。
バイオ炭の土壌改良材としての効果
狭い土地で大勢の人を養っていく必要があったアジア諸国では、古来より稲作を中心とした農業に依存してきました。そこで前述の通り、し尿や家畜の排せつ物、草などを肥料として活用してきたのです。そこで木炭など炭化物も古来より、貴重な土壌改良材として使われてきました。
1990年代には日本における炭の農業利用技術がほぼ完成の域に達し、出版物を通じて普及が図られました。日本におけるバイオ炭の農業への適用は、この頃から本格的にはじまったといえます。
バイオ炭には以下の土壌改良効果が期待されます。
- 土壌の保水性・透水性の向上
- 保肥力の向上
- ミネラルの補充
- 土の保温効果
- 土壌の中和作用
- 水質浄化
- 土の断粒構造促進
- 土壌の有機微生物の繁殖
これらの効果により、「農作物と共生する土壌中の有用微生物が繁殖し、農作地の毛細根が発達する。その結果、養分をより多く吸収できる農作物はその収穫量を増やし、より長期間果実を実らせることができる」といわれています。
農林水産省でも、バイオ炭の農地への使用は土壌の透水性・保水性・通気性の改善に効果があるとしています。また、地力増進法(昭和59年法第34号)の政令で、木炭は土壌改良資材に指定されました。
バイオ炭は、土壌への炭素貯留効果とともに土壌の透水性を改善する効果が認められている土壌改良材です。また、一般的にバイオ炭はアルカリ性(pH8~10程度)であり、その使用により、酸性土壌のpHを調整する効果があります。
しかし、過剰にバイオ炭を使用した場合、土壌のpHが上昇し、作物の生育に悪影響を生じさせる可能性があります。そのため、農林水産省はバイオ炭の使用の目安を参考として示しています。
森林資源の再生
日本は国土の約70%を森林が占めている国です。その森林で空気が浄化され、森林に降った雨は栄養を含んで川に流れだし、海に注ぎます。しかし、国内の木材需要の低下に伴い、各地で森林の荒廃が目立つようになりました。その結果、大規模な土砂崩れや洪水など大きな災害を引き起こす原因になっています。
また、近年の異常気象や台風の大型化などに伴い、全国各地で甚大な被害をおよぼす災害が多く発生するようになりました。森林の問題は環境問題だけでなく、喫緊に解決しなければならない社会問題になっています。
このため、森林を健康にし、治山の機能を高めるには間伐を進めていく必要があります。この山から出る大量の間伐材を炭化し、バイオ炭として使用することは、森林資源の再生にもつながります。
おわりに|バイオ炭とは何か
「バイオ炭」は、『ドローダウン〜地球温暖化を逆転させる100の方法〜(ポール・ホーケン 編著)』でも、2050年までに二酸化炭素排出を0.8ギガトン削減できる可能性があるとして紹介されています。
古代アマゾン社会で「テラ・プレタ農業」として実践されていたこの優れた農法が、現代社会で再び広がるのを期待してやみません。
バイオ炭を製造・販売し、CO2排出削減のクレジットを販売する取り組みに関心がある人は、日本バイオ炭普及協会のウェブサイトをご覧ください。