農業の人手不足問題には、大きく分けて、「担い手(後継者)不足」と「働き手(労働者)不足」という2つの視点があります。
両者とも、日本の少子化高齢化といった人口動態に基づく構造的な問題が背景にありますが、ここでは、それぞれの現状・問題点・解決策を紹介します。
目次
農業の人手不足問題について
まずは、農業を主業として働く人に関する全体動向を見てみましょう。
農林水産省の「農業構造動態調査」結果によると、基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)の数は、2012年の177.8万人から2021年の130.2万人へと、9年間で約47.6万人(約26.8%)減少しています。
また、2019年における基幹的農業従事者の年齢構成を見てみると、平均年齢は66.8歳となっており、70歳以上が42.0%(59万人)、60歳以上が38.3%(53.7万人)となっており、60歳以上で8割(112.7万人)を占めています。
新規就農者の数は年間5~6万人で推移していることから、60歳以上の人達の引退に伴って、基幹的農業従事者の減少数は加速していく可能性があります。
農業人口の減少に伴って耕作放棄地も増加傾向にあり、同時に耕地面積も減少傾向にありますが、農業総産出額は2011年の8.1兆円を底として2017年には9.3兆円と微増傾向にあります。
この背景としては、20ha以上の経営体が耕作する面積の割合が1990年から2010年の間に2倍となり、100haを超える経営体も多数存在するようになるなど、農業経営の大規模化や法人化が進んできたことが背景にあります。
農業経営体の雇用者数のグラフを見てみると、臨時雇いの数は2005年の228.1万人から2014年の304.4万人9年間で76.3万人増加しており、基幹的農業従事者(経営者)は減少し、臨時雇いの働き手(非正規雇用者)は増加しているという状況であることが分かります。
農業の人手不足問題の背景
「担い手(後継者)不足」と「働き手(労働者)不足」のそれぞれの問題の背景について紹介していきます。
担い手(後継者)不足の背景
「担い手(後継者)不足」の背景となっている例としては、「新規参入のハードルの高さ」、「所得の低さ」の2つが挙げられます。
新規参入のハードルの高さ
農業を新たに始める新規参入のハードルが高いという問題があります。
農地確保の難しさや、水利権獲得の難しさ、農業用の機械導入がかなりの高額になったり、新規就農者には入手が困難なものもあります。ほかにも、苗や種などの仕入れ代金や農薬や肥料代、水道光熱費などの維持費がかかってきます。
また、やっとの思いで農業を始められることになったとしてもすぐに収入につながるわけではありません。作物を収穫するまでにはそれなりの期間を必要としますし、収穫物の販路を確立しなければ現金収入が得られないといった問題があります。
そのため、ある程度の起業資金を蓄えることは必須であり、農業経営法人で働くことによって、農業についての知識や経験を深めたりするといった準備期間を設けることが必要になります。
所得(採算性)の低さ
上述したような初期投資のための資本や準備が必要となる一方で、得られる収益が低いことが、他の産業と比べて投資収益率(≒採算性)が低いと見なされて、新規参入を阻む大きな要因となっています。
働き手(労働者)不足の背景
「働き手(労働者)不足」の代表的な背景としては、「労働場所が地方で人口が少ない」、「作業量が平準化していない」の2つが挙げられます。
労働場所が地方で人口が少ない
人口を多く抱える都市部においてでさえ、飲食業や運送業などで労働者が不足している状況の中で、都市から離れた人口の少ない地域にある農業では、更に労働者の確保が難しいという現実があります。
作業量が平準化していない
農業は年間を通じて一定の作業量があるというわけではなく、耕運・播種の時期や、収穫などの限られた時期に集中的に労働力が必要になります。そのため、働き手にとっても安定した仕事にならないことが、働き手不足に拍車をかける原因となっています。
作業の中身も、単純作業であればまだしも、専門知識や熟練技術を要する仕事となると、臨時雇いで対応できる人の確保は更に困難になります。
このように、働き手(労働力)を確保することが極めて難しい状況のため、中国や東南アジアなどから技能実習生を受け入れて、彼らの国に農業技術を持ち帰ってもらうための研修を目的として働いてもらうことで、何とか凌いでいるというのが現状です。しかし、技能実習生に関しても、母国の経済発展に伴って、海外(日本)で働きたいという人材の数は将来的に先細っていくことが予想されています。
農業の人手不足問題を解決するには?
農業の人手不足問題を解決するためにさまざまなことが考えられています。「担い手(後継者)不足」と「働き手(労働者)不足」について、それぞれの解決策の代表例を紹介します。
担い手(後継者)不足の解決策
農地の集約・規模の拡大
生産性を高め、農業従事者の所得を高めていくことが必要であることから、点在していることで非効率な農地を集約することや、採算を合わせるために必要な最低規模以上の耕作面積を確保できるようにすることが必要となります。
そのための、法律面での整備や、農地の流動性を高めるための支援施策が求められています。
テクノロジーの活用
労働力の維持・確保は今後より一層難しくなっていくという現実があります。そのため、より少ない労働力で生産量を増やしていくことが必要となります。そのためには、他の産業でも行われているように、機械による自動化を進めていくことが必要になります。
既に、国を挙げてドローンの活用・農業機械の自動運転・モニタリング自動化に代表される「スマート農業」の普及による生産性向上に取り組んでいますが、今後もテクノロジーの進歩が労働力不足を克服するための鍵になるでしょう。
法人の農業参入支援
経営規模が拡大し、テクノロジーへの研究開発や設備投資が必要となると、個人では限界が出てきます。そのため、異業種の法人による農業への参入を促進・支援する施策がますます求められていくでしょう。
働き手(労働者)不足の解決策
少子化・高齢化が進展する日本においては、働き手(労働者)を増やすのは現実的には困難です。そのため、自動化によって必要な労働力そのものを減らしていくことが目指していく方向性となるでしょう。
しかし、自動化には限界があり、投資採算が合わない領域においては、どうしても人手の確保が必要になります。そのため、産地間での人材の相互供給(働き手の産地間リレーも含む)や、地域内で閑散期や繁忙期が重複しない異業種との人材の相互供給といったような、細やかな人材供給の仕組み化に向けた取り組みも進められています。
おわりに|農業の人手不足問題と解決策について
農業が抱える人手不足の問題について、「担い手(後継者)不足」と「働き手(労働者)不足」という2つの視点から詳しく見ていきました。
担い手不足に関しては、農業を生産性の高い(すなわち所得も高い)魅力的な産業としていくことが重要であろうと推察します。そのためには、規模拡大と自動化が不可欠であろうと考えられます。将来的には、個人の小規模農家が減少し、企業の大規模農家が増加していくことになるでしょう。
規模と効率を追求することで、多様性が失われるという懸念もありますが、人口減少時代における食料安全保障や経済成長の観点からも、避けては通れない方向性のように思われます。