ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

認知症の高齢者数の現状と将来予想|引き起こされる8つの社会問題

認知症の高齢者数の現状と将来予想|引き起こされる8つの社会問題

日本における少子高齢化は、急速に進行しています。その中で、特に注目されるのが認知症の高齢者数の増加です。認知症は、記憶障害や認知機能の低下を主な特徴とする病気で、本人のみならず家族や社会全体に大きな影響を与えます。

本稿では、現在の認知症高齢者数の現状と将来的な予測を示すとともに、その増加が引き起こす8つの社会問題について解説します。

認知症高齢者数の現状

2024年5月に厚生労働省の研究班が今後の認知症と軽度認知障害(MCI)の患者数の推計結果を公表しました。それによると、2022年時点で認知症を患っている人の数は約443万人。認知症予備軍とされるMCIの患者数が約558万人と推計されました。

専門家は「今後1人暮らしの認知症の人が増えるとみられ、家族の支援が限られる中、地域でどう支えるかが課題だ」としています。さらに、日本では高齢化率が上昇を続けており、2025年には団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者になるため、認知症患者数も急増すると予想されています。このような背景から、認知症の予防や治療、介護体制の整備が急務となっています。

将来的な予測

団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年には認知症患者数が約584万人、MCIの患者数が約613万人になると見込まれています。高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症と推計されます。この増加は以下の要因に起因しています

1.高齢化の加速: 平均寿命の延伸により、認知症の発症リスクが高まる高齢者が増加。
2.人口構造の変化: 若年層の減少と高齢者の増加による影響。
3.生活習慣の変化: 食生活や運動不足が認知症発症リスクを高める可能性。

こうした予測に基づき、政府や自治体、民間セクターが連携し、問題に取り組むことが求められています。

認知症患者数の増加が引き起こす8つの社会問題

認知症になってしまうのは本人にとってつらいことですが、その家族、更には社会全体にも問題がつながっていきます。ここでは認知症患者数が増えると、それに伴って周囲や社会にどのような問題が生じるかを列挙します。

【社会問題1】介護負担の増大

認知症患者のケアは家族や介護者にとって大きな負担です。特に、認知症に伴う徘徊や記憶障害への対応は、精神的にも身体的にも負荷がかかります。この負担が原因で家庭内のストレスが増加するケースが多発しています。

【社会問題2】家族の経済的負担

認知症患者を介護するために家族が仕事を辞める「介護離職」によって収入が減少します。また、施設利用費や医療費が家庭の経済を圧迫するケースも多く見られます。

【社会問題3】介護人材の不足

介護需要が急増する一方で、介護業界の人手不足が深刻化しています。介護職の賃金や労働環境が改善されない限り、この問題はさらに悪化すると予想されます。

【社会問題4】医療費の増加

認知症は慢性疾患であるため、長期間にわたる治療やケアが必要です。その結果、医療費や介護費用が膨らみ、国家財政や個人の家計に大きな影響を及ぼします。
それによって、介護保険や年金などの社会保障制度の持続可能性が懸念されています。

【社会問題5】社会的孤立の増加

認知症患者やその家族が、周囲の理解不足や偏見により孤立するケースが増えることが予想されます。

【社会問題6】事故やトラブルの増加

徘徊や交通事故、誤認行動によるトラブルが増加し、本人や家族、社会全体にリスクが生じます。地域での見守り体制の強化が求められています。

【社会問題7】地域社会への負担

認知症患者を支えるための地域包括ケアシステムの構築が求められています。しかし、地方自治体や地域コミュニティのリソース不足が課題となっています。

【社会問題8】経済活動への影響

介護離職や労働力の減少により、生産性が低下し、経済全体に悪影響を及ぼします。また、企業による介護支援制度の整備も急務となっています。

介護離職とは?介護離職者は年間約10万人 うち女性が8割

解決に向けた取り組みと先進自治体の取り組み例

認知症患者数の増加に対処するためには、以下のような取り組みが必要です。

  1. 予防活動の推進: 生活習慣の改善や認知症リスクを下げる教育活動の強化。
  2. 早期発見の仕組みづくり: 地域での健康診断や相談窓口の充実。
  3. 介護職の待遇改善: 給与アップや労働環境の整備。
  4. 地域包括ケアの充実: 行政や地域コミュニティ、医療機関の連携強化。
  5. 認知症患者と家族への支援: 相談窓口の設置や家族会の活用。

日本各地の自治体では、認知症患者数の増加に対応するため、先進的な取り組みが進められています。以下にいくつかの事例を紹介します。

《事例1》埼玉県新座市:オレンジピーアール作戦
新座市では、9月から11月を啓発強化期間とし、認知症やケアに関する普及啓発活動「オレンジピーアール作戦」を実施しています。この取り組みは、地域住民の認知症に対する理解を深め、認知症の人々が住みやすい環境づくりを目指しています。

《事例2》埼玉県三郷市:脳とからだの健康チェック
三郷市では、「脳とからだの健康チェック」を実施し、脳と身体の健康状態を検査することで、認知症の早期発見に繋げています。この取り組みは、住民の健康意識を高め、早期の対応を可能にしています。

《事例3》東京都千代田区:認知症サポート企業・大学認証制度
千代田区では、認知症の正しい理解を持ち、認知症の人を支援する企業や大学を認証する「認知症サポート企業・大学認証制度」を導入しています。これにより、地域全体で認知症の人々を支える体制を構築しています。

《事例4》 高崎市:認知症伴走型支援事業
高崎市では、2021年度に認知症伴走型支援事業を自主事業として開始しました。この取り組みは、認知症の人々とその家族に対し、継続的な支援を提供し、地域での生活をサポートするものです。

おわりに

世界保健機関(WHO)が発表した2021年版の世界保健統計によると、2019年のデータで平均寿命が最も長い国は日本で84.3歳でした。しかし、寿命が長くても寝たきりで介護が必要な状態では幸福だとは言いにくいでしょう。家族や社会全体にも負担がかかってしまいます。

日常生活が制限されずに生活できる期間のことを「健康寿命」と呼びますが、厚生労働省の調査によると、2022年は男性が72.57歳、女性が75.45歳でした。同年の平均寿命(男性81.05歳、女性87.09歳)との差は男性で約8.5年、女性で約11.6年となっており、「健康寿命の延伸」が重要なテーマとなっています。

健康寿命とは?長寿に不安を感じている人は54.4%に達する

Return Top