気候変動や無駄使いによる資源枯渇といった持続可能性の課題に対する解決策の一つとしてアップサイクルが注目されており、食品分野においてもアップサイクルの取り組みが活発化しています。
2022年12月14日にアメリカの人気レシピ雑誌「Eating Well」が発表した『2023年の食のトレンド予測TOP10』によると、1位「Alternative Coffees(代替コーヒー)」に続き、2位に「Upcycled Foods(アップサイクル食品)」がランクインするなど、注目度も高まっています。
本稿ではアップサイクル食品の定義や市場規模についての情報と、食に関するアップサイクルの国内外の動向と事例について詳しく紹介します。
目次
アップサイクル食品とは?
アップサイクル食品は英語で “Upcycled food”と綴ります。フードロスが問題視されている食品業界にアップサイクルの波が押し寄せています。
アップサイクル食品の定義
米国ではアップサイクルフード協会(本部コロラド州デンバー)が、世界自然保護基金や自然資源防衛協議会などの専門家チームによる共同作業を経て、2020年5月にアップサイクル食品の定義を発表しました。
【アップサイクル食品の定義】
Upcycled foods use ingredients that otherwise would not have gone to human consumption, are procured and produced using verifiable supply chains, and have a positive impact on the environment.
{アップサイクル食品とは、本来であれば人間の消費にまわらない材料を使い、検証可能なサプライチェーンで調達し、生産された、環境に対して良い影響を与えるもの。}
また、アップサイクル食品の要件として以下の5つを掲げています。
【アップサイクル食品の要件】
1. Upcycled foods are made from ingredients that would otherwise have ended up in any food waste destination.
(アップサイクル食品はそのままであれば食品廃棄されてしまう材料から作られます)
2. Upcycled foods are value-added products.
(アップサイクル食品は価値を加えられた製品です)
3. Upcycled foods are for human consumption.
(アップサイクル食品は人間が消費するためのものです)
4. Upcycled foods have an auditable supply chain.
(アップサイクル食品は監査可能なサプライチェーン上のものです)
5. Upcycled foods indicate which ingredients are upcycled on their labels.
(アップサイクル食品はどの材料がアップサイクルされたものかをラベルに表示します)
アップサイクルフード協会の最高経営責任者ターナー・ワイアット氏によると、「アップサイクルされた原材料は製品に付加価値を与えるとともに、食品廃棄物の削減に役立つことが求められる。例えば、ホットドッグはこの定義に当てはまらない。」と説明しています。
2021年6月には、アップサイクルフード協会が、食品廃棄を防止する製品を示す認証システム「アップサイクル認証」を発表しました。幅広いボランティアネットワークを用いて18カ月もかけて完成させたとのことです。
アップサイクル食品の市場規模
調査会社フューチャー・マーケット・インサイトによると、米国の2019年におけるアップサイクル食品市場規模は約467億ドルと推定され、年率5%以上のスピードで成長しているとのことです。
食のアップサイクルに関する海外の動向・事例
欧州では多くのスタートアップが生まれています。一例を挙げると、デンマーク発の「Kaffe Bueno」は、コーヒーの粉から脂質を抽出し、それらを標準的な小麦粉の粒子サイズに一致するように滅菌および粉砕した粉末を製造。ベーカリー・菓子・ピザとパスタ・健康的なスナックバーの材料等として販売するとともに、抽出オイルをスキンケア化粧品の原料や飲料の香料・保存料としても製造・販売しています。
欧州の特徴としては、世界的にみてもラグジュアリーブランドが多く、サステナブルな取り組みに対して積極的であることから、アパレル業界において食のアップサイクルとのコラボレーション事例が多く見られることです。
一例を挙げると、フランスと並ぶワインの産地であり、良質な本革製品で知られるイタリアで2016年に設立されたスタートアップ「VEGEA」は、年間140億トンほど廃棄されるぶどうの搾りかすから、本革に劣らない見た目としなやかさを備えたヴィーガンレザーを作り出すことに成功しました。その人工皮革はスウェーデンのファストファッションブランドH&Mのカプセルコレクションや、英高級自動車メーカーのベントレー100周年記念コンセプトカーのシートに採用されるなどの実績が生まれています。
そのほかにも、りんごの廃棄物から作られたアップルレザーなどの、食品廃棄物をアップサイクルした生地が「ヴィーガンレザー 」としてアパレル製品に採用されるケースが多くなっています。これらは、動物愛護や環境保護といったヴィーガニズムの視点からも注目されています。
食のアップサイクルに関する国内の動向・事例
日本における食のアップサイクルは2019年頃から取り組みが始まっています。
2019年9月、農林水産省が事務局を行うフードテック官民協議会内に、廃棄される素材を食品・食材の原料として使い、循環型の体制で生産する「サーキュラーフード®︎」を推進するサーキュラーフード推進ワーキングチームが発足しました。
2021年には、COVID感染拡大による飲食店の営業自粛の影響から、外食向けの食材が大量に行き場を失う事態が多く発生し、メディアでも積極的にとりあげられたことでフードロスに対する関心が高まり、アップサイクルという手段を用いて課題解決に取り組む事業者の活動が活発化しました。
次に、国内の食に関するアップサイクルに関して、アップサイクルした製品が「食品」か「食品以外」かに分けて事例を紹介します。
食品へのアップサイクル(アップサイクル食品)事例
食品はアップサイクルする際の加工方法によって分類できます。代表的な加工方法としては、乾燥、溶解、抽出、発酵、蒸留などが挙げられます。
アップサイクルの元となる材料としては、規格外の野菜や果物や皮、酒粕・パンのミミ等の食品製造時に発生する副産物(バイプロダクト)が中心となっています。
乾燥は代表的な加工方法として用いられています。アップサイクルの事例としては、海苔の技術を応用し、規格外野菜の旨味や栄養素をぎゅっと凝縮してシートにした「ベジート®︎」を開発したアイルが知られています。
溶解では酵素技術で規格外果物を皮ごとペースト化したピューレを開発したフードランド、発酵ではコーヒー粕を発酵してアップサイクルして大豆と混ぜたスナック菓子を開発した醸オープンラボ、蒸留では日本酒造りの過程で廃棄されてきた酒粕をリユースしてクラフトジンを開発したエシカル・スピリッツなどが挙げられます。
食品以外へのアップサイクル事例
食品以外は、化粧品、紙製品、アパレル製品(染色)、代替プラスチック製品、建材、その他に分類できます。
アップサイクルの元となる材料としては、卵の殻やジュースの搾りかすやコーヒーかすなどの、食品由来の有機性の残渣部分が中心となっています。
紙製品
紙へのアップサイクルの事例として、非食米を紙に漉き込んだ洋紙を開発したペーパルを紹介します。
これまで、非食米を混ぜた「kome-kami」や、ビールかすを混ぜた「クラフトビールペーパー」、籾殻を混ぜた「momi-kami」、人参の皮を混ぜた「vegi-kami にんじん」を開発しています。
アパレル製品(染色)
アパレル製品へのアップサイクル事例として、食品残渣さを使って染色したアパレル製品を開発した艶金を紹介します。
食品や植物を加工した後に出る、”のこりもの”を原料とした「のこり染」で染めた、リサイクルコットン100%のキャンバスを採用したオールスターが発売されました。長野県軽井沢近郊で採れたブルーベリー、岐阜県揖斐川地域で採れたよもぎを使って染められています。
その他(素材)
皮や搾りかすなどの食品由来の未利用素材を配合したアップサイクル素材を用いて作られたプロダクトブランド『UP FOOD STONE』を運営している株式会社コル。
海水由来の自然素材に野菜・果物・穀物などの皮や殻、搾りかすなどの残渣を20%ほど配合して食べモノのやわらかい色と風合いをもった石のような製品です。石油由来の化学物質は不使用で、成型時も熱を加える必要がないため、環境負荷も抑えられています。
写真はアロマストーン(ディフューザー)。上部に乗っている小さなCubeを外した後のくぼみに精油(アロマオイル)を垂らして使用します。(コーヒーかす/みかん皮/ニンジン皮/えごま搾りかす/たまねぎ皮の5種類)
おわりに|アップサイクル食品とは?
アップサイクル食品はそのままであれば食品廃棄されてしまう材料に付加価値を加えて人間が食べられるように作り変えられた食品です。
SDGsなどのサステナビリティ向上への取り組みに加えて、食料の6割を輸入に依存している日本では、将来的な食料不足問題や地政学上のリスクの高まりへの対策としても、アップサイクルのような未利用資源活用の取り組みが注目されています。
本稿の文頭で紹介した、アメリカの『2023年の食のトレンド予測TOP10』では「Upcycled Foods(アップサイクル食品)」が2位にランクインしましたが、ここでアップサイクル食品の例として紹介されたのは、コーヒーの生産過程において大量に発生する廃棄物である「カスカラ(cascara)」でした。
当サイトを運営する株式会社コルは、アップサイクルでコーヒー産業のサステナビリティ向上を目指す『UP COFFEE CHALLENGE』という活動を行っていますが、この活動の中で、カスカラのアップサイクルに取り組んでいます。
References :
・EatingWell’s Top 10 Food & Nutrition Trends for 2023