空き家問題は人口減少・高齢化・少子化といったメガトレンドを背景にしているため、一朝一夕に解決できる問題ではありませんが、それだけに様々な角度から、かつたくさんのアプローチが必要となります。
空き家数の現状と今後の見通し、そして空き家が増えることでどのような問題が起きるのか解説すると同時に、 空き家の流通を活性化するビジネスに留まらず、空き家を活用してコミュニティ作りをしたり、新しいライフスタイルを提案するようなビジネスモデルを構築している、面白くて新しい「空き家×ビジネス」を紹介します。
目次
空き家数の現状と今後の見通し
空き家数の現状
総務省が実施した「住宅・土地統計調査」の結果によると、2023年(令和5年)10月1日現在の空き家数は900万戸と過去最多になりました。2018年から51万戸の増加、空き家率も13.8%と過去最高を示しています。
空き家数のうち、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万戸と、2018年(349万戸)と比べ、37万戸の増加となっており、総住宅数に占める割合は5.9%となっています。
【出典】令和5年住宅・土地統計調査(総務省)
地域別に見た空き家数の現状
空き家率を都道府県別にみると、和歌山県及び徳島県(21.2%)が最も高く、次いで山梨県(20.5%)となっています。また、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率」をみると、鹿児島県(13.6%)と最も高く、次いで高知県(12.9%)、徳島県・愛媛県(12.2%)となっており、西日本で高い傾向となっています。
一方で、空き家率が最も低いのは沖縄県(9.3%)、次いで埼玉県(9.4%)、神奈川県(9.8%)となっています。
【出典】令和5年住宅・土地統計調査(総務省)
空き家数の今後の見通し
野村総合研究所(NRI)が2024年に公表した予測によると、(2023年から)20年後の2043年には空き家数は1,861万戸で2023年のおよそ2倍に、空き家率は約25%に上昇する見込みとなっています。
住宅の建て方別では、共同住宅では空き家率が減少する一方、一戸建では上昇します。これは、共同住宅に住む単独世帯の割合が増えるのに対し、一戸建に住む核家族等の割合が減少していくためです。
一般的に、一戸建の空き家は腐朽・破損ありの割合が比較的高い傾向にあります。そのため、単独世帯以外の世帯数が減少するのに伴って一戸建の空き家数が増加し、腐朽・破損ありの空き家数の増加につながります。NRIの予測では、2043年の一戸建の腐朽・破損あり空き家数は165万戸となっており、2023年(82万戸)の2倍以上となる見込みとなっています。
空き家問題が起こる背景と原因
空き家が発生する最も一般的な原因は、自宅を所有する高齢者が老人ホームなどの高齢者住宅や子供宅などに転居することです。今後は団塊の世代を含めた高齢者は急激に増えていくのに伴って空き家もどんどん増えていきます。
また、税制上の問題もあります。住宅が建っている土地は更地よりも土地の固定資産税が安くなるという「住宅用地の軽減措置」が適用されているため、空き家を壊して更地にしてしまうと固定資産税が上がってしまうのです。
空き家が増えることで起きる問題
それでは、空き家が増えることで実際にどのような問題が起きるかについて説明します。
地方自治の崩壊
空き家問題は個人だけでなく地域全体に影響を及ぼします。その中の最たるものが、地方自治体の財政破綻でしょう。
空き家が増えるということは地域に住む人が減るということを意味します。すると税収の減少や施策の非効率化によって、道路や水道といったインフラを維持することが難しくなります。
2013年の調査結果では空き家率は13.5%でしたが、空き家率が30%を超えると財政破綻が懸念されます。2007年に財政破綻した北海道夕張市の空き家率は33%、2013年に財政破綻した米国のデトロイトは29.3%でした。
近隣住民への悪影響
住人不在の住宅は傷みが一気に進行します。老朽化が進むと屋根や外壁が剥がれ落ちたり、建物が傾いて倒壊する危険性が高まったりするなどの問題が生じます。
また、庭の雑草が伸び放題となってしまい景観を乱すだけでなく、蚊やスズメバチや害獣の発生にもつながります。
それ以外にも、ホームレスなどの不法占拠、粗大ゴミなどの不法投棄、放火の原因になるといった可能性があり、近隣住民に悪影響を及ぼします。
地域の資産価値の減少
空き家が増える一方で供給が減らないとその地域全体の住宅価値が下がるという問題もあります。
また、地域の人口が減ることでスーパー・銀行・診療所といった施設の撤退につながり、地域の利便性が低下してますます地域の資産価値が減少する、という負のスパイラルに陥ってしまいます。
空き家問題への対策として注目される不動産テック
空き家問題対策として先端技術を活用した不動産テックが注目を集めています。
不動産テック(PropTech)は、不動産業界におけるテクノロジー活用の総称です。IoTやAI、ビッグデータ、ブロックチェーンといった最新技術を活用し、不動産取引の効率化や新たなサービスの創出を目指しています。不動産テックによる解決策をいくつか例示します。
・AIによる物件価値の評価と市場分析
空き家を有効活用するためには、まずその価値を正確に把握することが重要です。AIを活用することで、物件の立地や状態、周辺の需要などを総合的に分析し、最適な活用方法を提案することが可能です。これにより、放置されていた空き家が賃貸物件やシェアハウスとして再生されるケースが増えています。
・オンラインプラットフォームの活用
不動産テックを利用したプラットフォームでは、空き家の情報を簡単に検索・共有できます。たとえば、空き家を所有する人が登録し、リノベーションや賃貸に興味のある人とマッチングする仕組みを提供するサービスがあります。これにより、空き家の利用促進が効率的に進められます。
・IoTで管理コストを削減
空き家の管理には手間とコストがかかりますが、IoT技術を導入することでこれらを大幅に削減できます。たとえば、スマートセンサーを設置することで、遠隔から物件の状態をモニタリングし、必要なメンテナンスをタイムリーに行うことが可能です。
・クラウドファンディングを活用した資金調達
空き家のリノベーションには資金が必要ですが、クラウドファンディングを活用することで、地域住民や投資家から資金を集めることができます。これも不動産テックの一部として注目されています。
空き家問題に挑む注目ソーシャルビジネス
空き家情報を整理することによって機会損失を減らすことはできますが、実際に借り手の需要がなければ空き家問題は解決しません。そこで、空き家を活用して借り手の需要を創出しているビジネスや取り組みを紹介します。
空き家ゲートウェイ
▼運営サイト: 空き家ゲートウェイ
所有者様は手放したいけど値段が付かない、売れない物件を100均(100円、100万円)物件というネーミングで、「手放したい人」と「使いたい人」を結びつける100均物件マッチングサイト。
借主が空き家をリノベーションして6年間運用するという事業を展開しているカリアゲJAPANと、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介するメディア「YADOKARI」を運営するYADOKARI株式会社が共同で運営しています。
空き家マンスリーネット
▼運営サイト: 空き家マンスリーネット
空き家・空室をマンスリーマンションのように短期賃貸として活用する事で、空き家期間も収益を得られるだけでなく、定期的な利用により建物の劣化・老朽化の抑制が可能になるというサービス。
空き家の所有者は、空き家マンスリーネットと提携することで、「アメニティ&WiFi提供」「清掃代行業務」「集客」のサービスを利用することができます。
AKIDAS(空き家活用株式会社)
▼運営サイト: AKIDAS
不動産事業者以外の様々な業種の事業者に対して、現地調査により作成した空き家や空き地をデータベース情報を提供しています。「空き家問題を解決する新しいビジネスを創造する」ためのWebサービスとなっています。
ADDress
▼運営サイト: ADDress
日本各地でADDressが運営する家に定額で住み放題というサービスです。空き家にリノベーションを施して会員に貸すことで空き家問題を解決すると同時に、
- リモートワークをしながら時間と場所に縛られずに過ごせる
- 都市と地方の複数の拠点で生活ができる
- 好きな時に好きな場所で暮らせる
といった『多拠点居住』という、時間と場所に縛られない新しいライフスタイルを提案しています。
カリアゲJAPAN(あきやカンパニー)
▼運営サイト: カリアゲJAPAN
空き家を貸し出すためにリノベーションは効果的ですが、所有者にとっては借り手探しに加えて費用面の負担が大きくなってしまいます。
そこで、カリアゲJAPANでは、借主が空き家をリノベーションして6年間運用するという事業を展開しています。
- 貸主は改修費用を負担せずに家賃収入を得ることができる
- 貸主は契約期間(6年)終了後は、改修された物件を自由に活用できる
- 借主は空き家を自分好みに改修できる(原状回復は不要)
- 借主は相場よりも安い家賃(相場の1~7割)で物件を借りれる
といったように、貸主・借主ともにメリットを得ることができます。
更に、カリアゲJAPANでは、同社が空き家を買い上げたり、そのままの状態で借り上げて改装可能な物件としてサブリースするといったサービス等も展開しています。
ボーダレスハウス
▼運営サイト: ボーダレスハウス
通常借り手がつかないような空き家を、貸主に対しては家賃保証をしてリノベーションし、シェアハウスを運営しています。
入居者の半数が外国人となっており、国際交流の意識が高く、交流したい人たちだけが集まる質の高いコミュニティづくりに力を入れています。そのため、家賃を高めに設定しているにも関わらず稼働率は高くなっています。
Rennovater
▼運営サイト: Rennovater
単身高齢者・外国人・生活保護受給者などの住居を簡単に借りられない人たちに、購入・リノベーションした空き家や築古物件を低廉な家賃で提供しています。(2020年1月現在、東京・埼玉・千葉・大阪で合計45室)
それだけに留まらず、入居者に対して生活相談や買い物代行、就労支援プログラムといった生活・自立支援サービスを提供して、入居者の生活改善や新たな挑戦を支援する予定とのことです。
- 住宅確保困難者には「低価格で良質な住居を提供」
- 地域社会には「空き家の活性化」
- 行政・自治体には「住宅確保困難者の住居問題を公費負担無しで解決」
- 地球環境には「既存ストックの活用で環境負荷を軽減」
を価値として提供するという素晴らしい事業モデルとなっています。
みんなのうえん
▼運営サイト: みんなのうえん
一般社団法人グッドラックが大阪市の住之江区北加賀屋で、無農薬にこだわった貸し農園の運営に加えて、食と農を介して地域の人々が通いたくなるコミュニティづくりを展開しています。
街なかにある住宅跡の空き地を畑に変え、隣接する空き家をキッチン付きのサロンスペースに改装して、農園利用者から地域の人々が気軽に参加できるイベントを定期的に開催しています。
人口減少によって増加する遊休不動産やコミュニティの希薄化という地域課題まで解決する取り組みをモデル化しようと、2020年4月には2拠点目を寝屋川を立ち上げて運営しています。
アキサポ
▼運営サイト: アキサポ
不動産の売買・賃貸・仲介および空き家活用事業を展開する株式会社ジェクトワン(本社:東京都)が運営する、首都圏の空き家を借り受けて、アキサポが全額費用負担で地域に必要とされる活用法をプランニングしてリノベーション工事を行い、利用者とマッチングさせて一定期間転借するサービス。
空き家オーナーには「建物がバリューアップして戻ってくる」「リノベーション費用はアキサポが全額負担」といったメリットがあります。
日本の空き家問題の新たな解決策として「空き家活用」という選択肢を普及させるため、空き家専門情報メディア『アキヤノワダイ』の運営も行なっています。
おわりに|空き家問題の現状と将来予測
空き家が社会問題となるなかで、日本政府としても対策に乗り出しています。商業利用を促すことで空き家を解消するために、2019年6月に改正建築基準法を施行して、空き家住宅の用途変更の要件を大幅に緩和しました(2023年12月13日に改正法が施行)。
都市部では不動産価格が高騰していることや、インバウンドの増加が地方に拡大している現状をチャンスとして、特に問題となっている地方の空き家問題が改善に向かうことを期待します。
【空き家活用に関する最近のニュース】
References:
•令和5年住宅・土地統計調査(総務省)