2015年9月に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で示されたSDGsにおける重要な特徴として、SDGs達成に企業が果たすべき主要な役割が認識されているということが挙げられます。
そこで、企業がいかにしてSDGsを経営戦略と統合し、SDGs達成への貢献を測定し管理していくかについての指針を提供することを目的として「SDG Compass」が作成されました。
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目次
SDG Compass とは何か?
2016年3月に、国連グローバル・コンパクト、GRI(国際的なNGO)、WBCSD(200を超える国際企業で構成される組織)の3団体によって作成されました。SDGs Compassではなく、SDG Compassと表記します。
企業はSDGsを達成する上で重要なパートナーである。企業はそれぞれの中核的な事業を通じてこれに貢献することができる。私たちはすべての企業に対し、その業務が与える影響を評価し、意欲的な目標を設定し、その結果を透明な形で周知するよう要請する。
潘基文 国際連合事務総長
という国連総長のコメントにあるように、本業とは別のところで社会貢献しましょうという発想ではなく、本業(投資・展開するソリューション・経営実践)とSDGsをつなぎこむ(=経営戦略と統合する)ことが求められており、それを実現するための導入マニュアルがSDG Compassです。
日本の大企業におけるSDG Compassの利用状況
GPIF(年金積立金管理運用独立法人)が2020年5月8日に発表した「第5回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」によると、東証1部上場の大企業においては、SDGsの取組みを始めている企業が61.6%となっています。
そして、それらの大企業がSDGsへの取組みの際に参考にしているものとしては、多いものから以下のようになっており、SDG Compassは「SDGs経営ガイド(経済産業省)」に次いで参考にされる情報となっています。
【出典】GPIF2020年「機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」
SDG Compassが挙げる「SDGsが企業にとって重要な理由」
SDG Compassでは、企業がSDGsに取り組むことで得られるメリットとして以下の5つを挙げています。
- ①将来のビジネスチャンスの見極め
- ②企業の持続可能性に関わる価値の向上
- ③ステークホルダーとの関係の強化、新たな政策展開との同調
- ④社会と市場の安定化
- ⑤共通言語の使用と目的の共有
SDGsは世界の首脳陣によって合意された目標であり、国際間の合意や各国の政策への落とし込みが着実に進んでいます。
SDGs達成にプラスとなるビジネスは様々な支援が得られるといったインセンティブが盛り込まれています。また、若者世代は持続可能性に対する関心が高いため、SDGsへの対応は、企業ブランドへの信頼や消費行動を左右するほか、優秀な人材の採用に大きく影響するため、企業価値評価にも結びつきます。
反対に、SDGs達成にマイナスとなるビジネスには規制や増税といった直接的な事業継続上の障害が設けられていくことでしょう。
このように、企業がSDGs達成に取り組むことは直接的なメリットが大きいと言えるでしょう。
SDG Compassの5つのステップ
【出典】SDG Compass
SDG Compassにおいて、企業がSDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定・管理するステップとして、以下の5つのステップが明示されています。
- ステップ1 SDGsを理解する
- ステップ2 優先課題を決定する
- ステップ3 目標を設定する
- ステップ4 経営へ統合する
- ステップ5 報告とコミュニケーションを行う
ステップ1 SDGsを理解する
- SDGsとは何か
- 企業がSDGsを利用する理論的根拠
- 企業の基本的責任
ステップ2 優先課題を決定する
- バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する
- 指標を選択し、データを収集する
- 優先課題を決定する
ステップ3 目標を設定する
- 目標範囲を設定し、KPI(主要業績評価指標)を選択する
- ベースラインを設定し、目標タイプを選択する
- 意欲度を設定する
- SDGsへのコミットメントを公表する
ステップ4 経営へ統合する
- 持続可能な目標を企業に定着させる
- 全ての部門に持続可能性を組み込む
- パートナーシップに取り組む
ステップ5 報告とコミュニケーションを行う
- 効果的な報告とコミュニケーションを行う
- SDGs達成度についてコミュニケーションを行う
まとめ
SDGs Compassを精読すると、大企業を想定したもので、かつ国際機関の秀才が英語で作成したものであると思われ、日本語としては少し難解なところがありますが、SDGsへの取り組み方を大枠として把握するためには良い資料と言えるでしょう。
ただし、大企業と比べると経営資源の小さい中小企業にとっては、客観的な指標を示し、測定して報告し続けることが求められていることは負担が大きいかもしれません。
しかし、SDG Compassのなかで、「中小企業、その他の組織も、新たな発想の基礎として、必要に応じて変更して、この指針を使用することが期待される。」と書かれていますので、できるところから取り組み始めてみては如何でしょうか?