石油化学大手の出光興産が、持続可能な航空燃料(以下「SAF」)を生産する際の原料として期待される非可食の油糧作物「ポンガミア」の試験植林を、2025年1月中旬から豪州クイーンズランド州で開始すると発表しました。
ポンガミアの長期安定的な栽培方法やサプライチェーンの最適化などを検証
試験植林は、出光興産の出資先で、10年以上にわたるポンガミアの栽培知見と研究成果を有する米国のTerviva社と行うとのことです。
この試験植林を通じて、ポンガミアの長期安定的な栽培方法や、栽培からSAFを生産するまでのサプライチェーンの最適化などの検証を行います。また、植林によるカーボンクレジットの創出、殻のブラックペレット化(バイオマス発電所向け)、搾りかすの家畜飼料としての利用など、SAFの原料以外としての活用方法も検証します。
東南アジアやオセアニアに分布するマメ科植物ポンガミアは、油収量効率の良い油糧作物です。ポンガミアは食用に適していませんが、種子を圧搾して得られる油は、SAFの原料としての活用が期待されます。これまで、ポンガミアは商業栽培されたことがなく、長期安定的に高収量の油を得るためには、優良品種の厳選と生産技術に加え、その栽培ノウハウの蓄積が重要となります。
出光興産は2030年までに年間50万klのSAF供給体制を構築することを計画しています。この供給体制の構築に向けて、徳山事業所では年間25万klのSAF生産を2028年度から開始することを目指しています。
しかしながら、SAFの需要拡大に伴い、SAFの原料は将来的な需給ひっ迫や価格変動が起こると予想されており、原料の確保が課題となっています。そこで、ポンガミアの自社栽培・油の活用が、長期にわたって安定的かつ経済的な原料確保策と考えており、商業規模への拡大に向け、試験植林を開始するとのことです。
ポンガミアの特徴
今回、出光興産がSAFの原料としての栽培を実証するポンガミアは、インド・東南アジア・豪州北部などの熱帯、亜熱帯エリアに自生する植物で、国内では沖縄県南部の一部にも自生しています。以下にその特徴を紹介します。
- 強い日差しや干ばつに強く、海岸近くの塩分が比較的高い土壌でも栽培が可能。
- 植物の生育に重要な窒素を栄養として蓄えることができるため、肥料が少なくても栽培が可能。また、蓄えた栄養による土壌改良の効果を有する。
- 食料用途と競合しない非可食の油糧作物。
- 単位面積あたりの油収量が他の油糧作物と比較して多いため、エネルギー供給量が多く、エネルギー供給量単位あたりのCO2排出量(CI値)は大豆の半分以下。
SAFとは
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、従来の化石燃料(ジェット燃料)の代替となる燃料で、航空業界の二酸化炭素(CO2)排出を削減するために開発されています。世界各国で研究開発と生産拡大が進んでおり、国際航空運送協会(IATA)や航空会社は、2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げています。
SAFの2023年の世界市場規模は約3億3,000万米ドルとされ、2032年までに年平均成長率(CAGR)63.4%で成長し、約276億9,000万米ドルに達すると予測されています。
以下に、SAFの特徴や利点、課題について説明します。
SAFの特徴
1.原料: SAFは、再生可能な資源や廃棄物から製造されます。主な原料には以下が含まれます。
・廃食用油(使用済みの植物油や動物性脂肪)
・林業や農業の残渣(木材廃材、トウモロコシの茎など)
・アルコールやガス(バイオマスから生成)
・廃プラスチックや都市廃棄物
2.互換性: SAFは従来のジェット燃料と物理的特性が似ており、現在の航空機エンジンや燃料供給インフラでそのまま使用できます。
3.環境への利点: 製造過程やライフサイクル全体でCO2排出量を大幅に削減できる(最大80%削減可能)。また、硫黄酸化物や粒子状物質の排出も減少します。
SAFの利点
1.炭素排出削減: 航空業界は地球温暖化の要因とされるCO2排出の約2.5%を占めています。SAFを利用することで、カーボンニュートラルなフライトが実現可能です。
2.資源の多様性: 廃棄物や再生可能な資源を有効活用することで、持続可能な資源循環に貢献します。
3.規制対応: 多くの国や航空会社が、カーボンニュートラルやゼロエミッションの目標を掲げており、SAFはそれを達成する重要な手段です。
SAFの課題
1.コスト: SAFの製造コストは、現在の化石燃料よりも高く、大量生産技術の進展が求められています。
2.安定調達: SAFの原料調達において、安定した価格と量を確保する必要があります。
3.供給量: SAFは全体の航空燃料供給量の1%未満であり、大規模な普及にはさらなる投資が必要です。
おわりに
航空輸送は、世界全体のCO2排出量の約2.5%。非CO2影響を含む温室効果ガス排出量(CO2換算)は約3.5%とされています。航空輸送の需要は年々増加しており、それに伴いCO2排出量も増加しており、国際航空運送協会(IATA)は2035年までに航空需要が2019年比で約2倍になると予測しています。
温室効果ガス削減に向けて、航空燃料のSAFへの切り替えが期待されているなか、課題の一つである原料の持続可能な調達に向けたニュースを紹介しました。