現代の主流となっている慣行農業(工業型農業)は、増え続ける食料需要を満たすという観点においても、人類が生存できる地球環境を維持するという観点においても持続可能(サステナブル)ではないということが明らかになりつつあります。
そのような中、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)と呼ばれるものが、持続可能な農業として注目されつつあります。
ここでは、リジェネラティブ農業について、定義や注目される理由、世界と日本の動向について詳しく紹介します。
目次
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)とは
「リジェネラティブ農業(regenerative agriculture)」とは、「土壌を修復し、自然環境を回復する農業」を意味します。日本語では「環境再生型農業」と呼びます。
リジェネラティブ農業は以下の条件を満たします。
- 不耕起栽培…農地を耕さずに作物を栽培する農法
- 被覆作物の活用…作物を栽培していない期間に、農地を覆うように作物を植える農法
- 輸作…同じ農地に一定期間をあけて異なる作物を交互に栽培する農法
- 化学肥料や農薬の不使用(または最低限に抑える)
リジェネラティブ農業は、土壌の炭素含有量を増やして肥沃にし、保水性を高めることで干ばつへの耐性を高めます。他にも、害虫に強くなり、必要な肥料の量が減るといったメリットがあります。更に、二酸化炭素を土中に隔離することで気候変動を抑える効果も期待されています。
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)が注目される理由
リジェネラティブ農業が注目されている理由について紹介します。
農地の土壌が肥沃になるから
世界人口は増加の一途をたどっており、増え続ける世界人口に食料を安定的に供給することは国際社会の大きな課題となっています。
現在行われている慣行農業では、農地を耕すことで土壌の炭素が大気中に放出されて土地が痩せていってしまっています。一方、リジェネラティブ農業では農地を耕さないため、土壌の炭素を増やし、微生物を繁殖させます。ミミズが窒素分の豊富な土を作り、養分の吸収性が高まって、保水性も高めます。
環境汚染を減らせるから
農業は食料の供給という役目以外にも、減災や国土保全などの多様な役割を果たしています。
従来型の慣行農業では、窒素肥料を使用することによって土壌の有機物を破壊します。窒素は土壌表面の流出水や地下水と一緒に移動して、河川や海に流れ出します。その結果、藻類の大量発生や海の酸欠につながります。窒素濃度の上昇によって魚が大量死するなど、生態系にも悪影響を与えています。
これに対し、リジェネラティブ農業では化学肥料を使用しないため、そうした環境汚染を発生させないという利点があります。
二酸化炭素を隔離できるから
米国オハイオ州立大学のラタン・ラル教授によれば、これまでに地球の土壌中の少なくても50%にあたる約800億トンの炭素が、過去数世紀の間に大気中に放出されたと推定しています。
リジェネラティブ農業における不耕起と被覆作物によって、これまでに放出された大気中の炭素を土壌に隔離することができます。
世界における環境再生型農業(リジェネラティブ農業)の動向
世界的にもリジェネラティブ農業に注目が集まっており、先進的企業ではリジェネラティブ農業を促進するための具体的な取り組みを進めています。
ネスレの取り組み
大手食品メーカーであるネスレは気候変動に向けたロードマップをアナウンスしました。2030年までに、製品の原材料調達のうち1,400トンをリジェネラティブ農業で生産された作物にするとのことです。その結果、温室効果ガスの排出を実質ゼロを目指します。
パタゴニア
アウトドアブランド大手のパタゴニアは、地球温暖化などの気候変動や食糧不足などの世界規模の課題を解決する方法として、リジェネラティブ農業が中心的な役割になると考えて、独自のリジェネラティブ・オーガニック認証制度を制定しました。
その認証制度の基準は「有機認証を有する」「不耕起栽培または省耕起栽培」「被覆作物による土壌被覆が25%以上」「作物の種類・場所を変える輸作で、3種類以上の作物または多年性植物を利用」「土壌再生の農業技術を3種類以上導入」することです。これらの基準を満たしているか第三者認証機関が審査し、レベル別に3段階で認証します。
パタゴニアでは、1996年からオーガニックコットンを使用しています。2020年からはインドの150の農家と提携し、認証を受けるためのコットンの生産を試みました。現在では、リジェネラティブ・オーガニックを材料にしたTシャツを販売しています。
また、パタゴニアは食物生産の分野からも、地球温暖化なども問題を解決することが必要であると考えました。そして、食品生産システムの刷新を考え、食品事業の会社を新しく設立しました。食品部門ではじめて認証を得た「RO チリ・マンゴー」の販売を開始しています。
日本におけるリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の動向
日本においては、農林水産省で「環境保全型農業の推進」という施策があります。「農業のもつ自然循環機能の維持推進」「持続的な生産活動の推進」「環境負荷の低減」、これらを目標に環境保全型農業に取り組んでいるのです。
成果としては、すべての営農類型で環境保全に取り組んでいる農家が増えています。また、エコファーマーの認定件数も増加しました。さらに、「土づくりに関する技術」「化学肥料低減技術」「化学農薬低減技術」など自然循環と生産性の調和を考えた技術も開発・導入されています。
「環境保全型農業」(英語: conservation agriculture)は、化学肥料や農薬を使用するという点において、環境再生型農業(リジェネラティブ農業)とは異なっています。それ以外の、不耕起栽培、被覆作物の活用、輪作に関しては共通となっています。
おわりに|リジェネラティブ農業(環境再生型農業)とは
化学肥料や農薬を使用する工業型農業によって、農業の生産性は高まり、労働負荷も減りました。その一方で、土地は痩せ、環境に対する負の影響は大きくなっています。つまり、一時的な利益を享受することはできても持続可能(サステナブル)ではないということが明らかになっています。
不耕起栽培や被覆作物の活用、輸作といった農法は新しいものではありませんが、昔の農法に戻ることが、真に科学的な観点からも有効であることが分かってきました。