ソーシャルグッドCatalyst

社会課題の解決を目指すウェブマガジン

微生物燃料電池|発電する微生物が電気を生み出す

微生物燃料電池|発電する微生物が電気を生み出す

生物由来の資源(バイオリソース)を活用して、環境負荷を減らしながら経済活動を行うことを目指す経済モデルを意味するバイオエコノミーが注目されています。

本稿では、微生物を利用して電気を生み出す「微生物燃料電池」について、市場規模や開発に挑む大学や企業の事例を紹介します。

微生物燃料電池とは

微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell, MFC)は、微生物を利用して有機物を分解し、その際に発生する化学エネルギーを電気エネルギーに変換する技術です。

従来の燃料電池と比較して、手頃な価格、環境に優しい、再生可能エネルギーの利用、廃水浄化の可能性など、さまざまな利点があります。

また、排水・廃棄物から電力を生成し利用する「エナジーハーベスティング(環境発電)」としての用途も期待されています。近年、IoT(モノのインターネット)デバイスや低消費電力機器が普及する中で、エナジーハーベスティング技術の需要が急速に高まっています。リモートセンサー、ウェアラブルデバイス、医療機器などの分野で活用されています。

市場規模

世界の微生物燃料電池の市場規模は2023年に1,589万米ドルと推定され、2024年から2030年にかけて12.7%のCAGRで成長すると予測されています。

用途別では、廃水処理セグメントが2023年に収益ベースで微生物燃料電池市場で最大のシェアの57.48%を占めました。これは、廃水処理と発電の二重の役割に起因しています。全国の下水処理場で使われる電力量は、日本の総電力使用量の約1%にのぼるといわれており、廃水処理施設の運用コストを削減するのに役立ちます。

地球温暖化と気候変動に対する懸念の高まりにより、代替の持続可能な燃料源の需要が高まり、市場が活性化しています。さらに、炭素排出量の削減と排除に向けた政府の取り組みが市場を推進すると予想されています。この傾向は、持続可能な技術の研究開発に多額の投資が行われている北米やヨーロッパなどの地域で特に顕著となっています。

微生物燃料電池の開発に挑む大学・企業

微生物燃料電池の研究開発をリードし、実用化に向けた取り組みを進めている大学や企業を紹介します。

東京薬科大学

渡邉一哉教授を中心とする研究チームは、有機廃棄物をエネルギー源として利用し、発電効率を高めるための新たな微生物の探索や電極材料の最適化に取り組んでいます。この技術は、廃水処理と同時に電力供給を可能にする持続可能なシステムとして注目されています。

東京農工大学

廃水処理とエネルギー生成を同時に行う技術の開発が進められています。四国電力やベンチャー企業RING-eと連携し、愛媛県のみかん園地で実証試験を行うなど、実用化を見据えた取り組みが特徴です。

この試験では、農業廃棄物をエネルギー源として活用し、地域に適した持続可能なエネルギー供給モデルを構築することを目指しています。

佐賀大学

冨永昌人教授が、水田の泥に住む微生物を利用した微生物燃料電池の実用化に向けた研究を進めています。 廃水処理技術の研究が進められており、特に下水処理場での実証実験に力を入れています。

環境エネルギー工学研究センターを中心に、廃水中の有機物をエネルギー源としながら効率的に電力を生成するシステムを開発しています。地域社会や企業と連携し、実用化に向けたスケールアップやコスト削減にも取り組んでいます。

大阪公立大学・東芝三菱電機産業システム株式会社・大日本印刷株式会社

床波 志保准教授(兼LAC-SYS研究所 副所長)を研究代表者とする三者共同研究(共同研究者:東芝三菱電機産業システム・大日本印刷)が、NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」共同研究フェーズに採択されました。

容量当たりの発電量が少ないという微生物燃料電池の課題に対し、発電菌を生きたまま高密度に濃縮できる「ハニカム型光濃縮基板」の開発に成功し、出力を飛躍的に高められる可能性があります。

栗田工業株式会社

総合水処理の大手企業。排水処理装置に組み込むことを想定し開発を進めている微生物燃料電池について、実排水を対象とした実規模サイズセルによる発電実証試験を2024年11月に実施し、発生させた電力での電気機器の連続稼働の確認と、実用化に向けたさらなる知見を得ることができたと発表しました。

BioAlchemy株式会社

沖縄科学技術大学院大学(OIST)から設立されたスタートアップ企業。 嫌気性細菌を利用して有機物を分解しながら電気を発生する微生物燃料電池(MFC)技術を用いた排水処理装置の開発・製造を行っています。

バクテリアにより廃水から有機物が取り除かれ、排水基準を満たすレベル、または再利用できるほどきれいな水に生まれ変わります。ごくわずかな電力で機能するため、無電化の場所でも排水処理が可能となります。

おわりに

微生物燃料電池は、再生可能エネルギーの一つとして、多くの可能性を秘めています。特に都市部での廃水処理施設や農村地域での小規模発電システムとしての利用が期待されています。また、発電だけでなく、貴重な資源の回収や環境浄化への応用も進められています。

例えば、最近の研究では、新たな微生物の発見や電極材料の改良により、効率の向上が図られています。また、微生物燃料電池を利用したセンサー技術の開発も進行中で、水質モニタリングや環境監視への応用が期待されています。

微生物燃料電池は、環境問題やエネルギー問題の解決に寄与する可能性を秘めた革新的な技術です。まだ課題も多いものの、技術の進歩により、将来的には日常生活の中で広く利用されるエネルギー源となるかもしれません。私たちの生活や環境にどのような影響を与えるのか、今後の展開に注目していきましょう。

Return Top