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IUU漁業が引き起こす問題と世界と日本の取り組み

IUU漁業が引き起こす問題と世界と日本の取り組み

IUU漁業によってさまざまな問題が生じており、水産業の持続可能性が危機に陥っています。国際的な取り組みは進展を見せていますが、依然として法の抜け穴や資金・人材不足、技術の導入が遅れている国々の対応など、課題が山積しています。

本稿では、SDGs14.海の豊かさを守ろうのターゲットにも入っているIUU漁業が引き起こす問題や世界と日本の取り組みの現状について詳しくお伝えします。

IUU漁業とは

IUU漁業とは、「Illegal(違法), Unreported(無報告), and Unregulated Fishing(無規制漁業)」の略称で、水産業の持続可能性の危機につながっている世界的な問題です。

・違法漁業(Illegal Fishing)
国や地域で定められた漁業規則や法令に違反して行われる漁業を指します。例えば、許可のない船が漁業を行ったり、規定以上の量を捕獲する行為が含まれます。
・無報告漁業(Unreported Fishing)
漁業活動が必要な報告義務を怠ったり、意図的に実態を隠すことを指します。漁獲量や捕獲種のデータが不完全だと、資源管理が難しくなり、将来的な漁業資源の枯渇につながります。
・無規制漁業(Unregulated Fishing)
規制のない海域や、未管理の魚種を対象に行われる漁業です。この場合、漁業協定や地域漁業管理機関(RFMO)が存在しないため、事実上自由に漁業が行われてしまいます。

IUU漁業は世界中の海域で行われており、年間約11~26万トンもの魚が違法に漁獲されると言われています。この規模は、全世界の漁獲量の約20%に相当し、合法的な漁業者や国際的な資源管理の取り組みを大きく損なっています。

国際連合食糧農業機関(FAO)や各国政府、NGOなどがIUU漁業の抑制に向けて取り組んでいますが、広大な海洋で行われる違法活動の監視や取り締まりには、多くの課題が残っています。

IUU漁業が引き起こす問題

IUU漁業は、魚の乱獲や海洋生態系の破壊、合法的な漁業従事者への経済的打撃、さらには沿岸地域の食料安全保障への脅威となっています。

資源枯渇と環境破壊

IUU漁業は海洋資源の枯渇を招いています。規制を無視して過剰に漁獲することで、魚種の個体数が減少し、生態系のバランスが崩れます。特に再生能力の低い魚種に対しては、絶滅のリスクが高まります。また、繁殖期や成長途中の個体が大量に捕獲されることも、資源の回復を妨げる原因となっています。

また、海洋環境が破壊につながっています。例えば、トロール漁などの破壊的な漁法により、海底の生態系が壊滅的な被害を受けることがあります。対象としない魚や海洋生物が網にかかる「混獲」も問題となっています。これによりウミガメや海鳥、サメなどの保護種が犠牲になるケースが増えています。

経済的損失・沿岸地域への影響

合法的に活動している漁業者や水産業は大きな経済的打撃をうけています。違法漁業者が市場に不正な魚を低価格で供給することによって、正規の漁業者が得られる利益が減少します。さらに、各国政府も税収や管理費用において損失を被ります。FAOの報告によれば、IUU漁業による経済的損失は年間230億ドル以上と推定されています。

また、多くの沿岸地域、特に開発途上国では、漁業が人々の主な収入源であり、食料供給の重要な柱です。しかし、IUU漁業によって地元の漁業資源が奪われ、地域経済が脅かされています。これは貧困や食料不安をさらに深刻化させる原因ともなっています。

人権問題

IUU漁業は、時に人身取引や労働搾取などの社会問題とも結びついています。一部の違法漁業船では、劣悪な労働環境のもとで労働者が働かされており、国際的な人権問題としても注目されています。

IUU漁業の主な事例

IUU漁業は世界中で行われています。その一部を事例として紹介します。

・アフリカ西海岸の違法漁業
アフリカ西海岸では、多国籍企業や外国船が違法に漁業を行い、地元の漁業資源が枯渇する事態が続いています。これにより沿岸の小規模漁業者は収入源を失い、地域経済や食料安全保障が脅かされています。特にシエラレオネやセネガルでは、違法漁船が地元の海域で無許可操業を繰り返していると報告されています。

・東アジアでのサンゴやウナギの乱獲
日本を含む東アジア地域では、ウナギやサンゴなどの高価な水産物を対象にしたIUU漁業が問題視されています。絶滅危惧種に指定されている種も違法に取引されており、持続可能性が大きく損なわれています。

・南極海のトロール漁業
南極海では、冷水魚の乱獲が行われています。特にパタゴニア・トゥースフィッシュ(チリシーバス)は高級食材として知られており、違法漁業が後を絶ちません。漁業管理機関の監視が難しいエリアでの操業は、生態系への深刻な影響を及ぼしています。

これらの事例を通じて、IUU漁業がいかに広範囲に深刻な影響を及ぼしているかが明らかです。解決に向けて、各国が連携して取り組むことが求められています。

IUU漁業への国際的な取り組み

IUU漁業は国境を超えて行われるため、各国単独での対応は限界があります。そのため、国際的な枠組みや協力体制を通じた取り組みが不可欠です。ここでは、国際機関と枠組みと取り組み内容を紹介します。

国際機関と枠組み

・FAOの行動規範と港国措置協定(PSMA)
国連食糧農業機関(FAO)は、IUU漁業に対抗するための「責任ある漁業の行動規範」を策定しました。これは、持続可能な漁業を実現するための国際基準であり、多くの国がこれを指針として政策を立案しています。

・港国措置協定(Port State Measures Agreement, PSMA)
IUU漁業を抑制するための重要な枠組みです。この協定は、違法に捕獲された魚が港に持ち込まれることを防ぐ目的で、港湾国が漁船を監視し、必要に応じて入港を拒否する権限を持つことを規定しています。これにより、違法漁業者の活動を経済的に困難にすることが期待されています。

・地域漁業管理機関(RFMO)
RFMO(Regional Fisheries Management Organizations)は、特定の地域や魚種を管理するために設立された国際組織です。例えば、太平洋クロマグロを管理する「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」や、南極海の生態系を保護する「南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)」などがあります。これらの機関は、加盟国と協力して漁獲量の規制や監視の強化に取り組んでいます。

取り組み内容

・衛星技術やデジタルツールの活用
近年では、衛星技術や人工知能(AI)を活用した監視システムが、IUU漁業対策において重要な役割を果たしています。例えば、衛星画像による違法漁船の追跡や、電子モニタリングシステム(EMS)による漁業活動の記録が行われています。これらの技術は、広大な海洋を効率的に監視する手段として期待されています。

・国際的な連携と取り締まりの強化
多国間協力の具体例としては、米国、EU、日本、オーストラリアなどが主導する取り締まりの合同パトロールがあります。また、国際刑事警察機構(インターポール)も「プロジェクト・アイシャー」というIUU漁業対策プロジェクトを通じて、違法漁業者の摘発を支援しています。

・民間企業やNGOの活動
国際的な取り組みの中で、民間企業やNGOも重要な役割を果たしています。例えば、マリン・ステュワードシップ・カウンシル(MSC)認証を通じて、持続可能な漁業で捕獲された製品を消費者に提供する取り組みが進められています。また、NGOはIUU漁業の調査や情報公開を通じて問題を可視化し、国際社会に訴えかけています。

日本国内の対策と取り組み

日本は、豊かな水産資源を持つ一方で、IUU漁業が大きな課題となっています。

特に、外国漁船による違法操業や国内での密漁が問題視されています。北朝鮮や中国の漁船が日本の排他的経済水域(EEZ)で違法操業を行い、スルメイカやサンマの漁獲量が激減する事例が増えています。また、アワビやナマコなどの高級食材を狙った密漁が沿岸地域で頻発しており、地元の漁業者に深刻な被害を与えています。

法整備の状況

日本では近年、IUU漁業対策として法整備が進められています。2020年には「漁業法」が改正され、漁業管理の強化が図られました。

また、2021年には「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が施行され、違法に漁獲された水産物の流通を防ぐ仕組みが導入されました。この法律により、漁獲から流通に至るまでの追跡可能性(トレーサビリティ)が強化され、違法な水産物が市場に出回るリスクが低減しています。

監視・取り締まり体制

海上保安庁や漁業取締機関は、外国漁船による違法操業を防ぐため、監視や取り締まり活動を強化しています。

具体的には、EEZ内での違法漁船の摘発や、漁船に搭載されるVMS(船舶監視システム)を活用した監視体制の拡充が行われています。また、沿岸部では漁業者や自治体が密漁対策のためのパトロールを実施しています。

企業や漁業者の自主的な取り組み

日本の水産業界では、持続可能な漁業を目指した自主的な取り組みが進んでいます。たとえば、MSC(マリン・ステュワードシップ・カウンシル)認証やASC(養殖業の認証)を取得し、持続可能な水産物の生産と流通を促進する企業が増えています。

また、一部の漁業団体では、漁獲量を自主的に制限したり、地域独自の管理ルールを設けることで、資源の保全に努めています。

おわりに|私たちにできること

IUU漁業を根本から解決するためには、政府や企業の取り組みだけでなく、私たち一人ひとりが関心を持ち、行動することが大切です。日常生活の中でできる具体的な行動を以下に紹介します。

【できること1】 持続可能な水産物を選ぶ
消費者としてIUU漁業を防ぐための最も身近な行動は、「持続可能な水産物」を選ぶことです。スーパーや飲食店では、MSC(海洋管理協議会)認証やASC(養殖業認証)ラベルが付いた商品を購入することで、合法的かつ持続可能な漁業を支援できます。また、地域の漁業者から直接購入することも、地元の資源保護に貢献します。

【できること2】 食品のトレーサビリティを確認する
水産物がどこで、どのように獲れたものかを確認する「トレーサビリティ」に注目しましょう。最近では、原産地や漁獲方法を明記した商品が増えており、信頼できる情報を基に選ぶことが可能です。また、不明瞭な情報の商品を避けることで、違法漁業を支援しない意識を持つことが重要です。

【できること3】 知識を深め、問題を共有する
IUU漁業についての正しい知識を持ち、周囲の人々と問題を共有することも効果的です。たとえば、SNSで情報を発信したり、友人や家族と話題にすることで問題への関心を広げることができます。また、学校や地域のイベントでの学習活動に参加するのも良い方法です。

【できること4】 NGOや取り組みへの支援
IUU漁業の撲滅に取り組むNGOや団体を支援することも重要な行動です。寄付やボランティアとして参加することで直接的に問題解決に貢献できます。また、団体が提供する情報やキャンペーンに積極的に関わり、周囲に広める役割を果たすことも可能です。

IUU漁業は遠い問題のように感じられるかもしれませんが、私たちの日々の選択がその影響を減らす鍵を握っています。自分の行動が海と未来にどう影響するのかを意識し、できることから始めてみましょう。

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