宿泊業においても環境重視の潮流が生まれています。必要なアメニティを宿泊者が選択できるシステムを取り入れているホテルも増えるなど、消費者の理解向上と共に、宿泊事業者の環境への取り組みも向上する傾向にあります。
今回は、ヨーロッパを中心に広まりつつある「ビオホテル」という、ホテルの健康と環境配慮に関する認証制度と、その日本での動向について紹介します。
ビオホテルとは
「ビオホテル」(BIO HOTEL)とは、ビオホテル協会(Die BIOHOTELS)が定める、宿泊者の健康と環境配慮に関する厳しい基準をクリアして認定されたホテルのことを指します。
ビオホテル協会は、2001年にオーストリアで、志を高く持ったホテルや生産団体によって発足しました。オーガニックの本場ドイツのBiolandというオーガニック民間認証団体のサポートのもとで立ち上げられました。BIO(ビオ)はドイツ語で「オーガニック」のことを意味しています。
2016年現在、ドイツ・オーストリア・スイス・イタリア・ギリシャ・スロベニアなどのヨーロッパで約100軒前後のホテルが認定されています。
ビオホテルでは有機認証を受けた農家や加工業者、その生産品を主に取り扱っています。また、ビオホテルでは、ありのままの自然を感じながら過ごす時間や地域とのつながりなどを感じることができます。豊かな自然との共存やオーガニックな世界観を味わえます。
ヨーロッパを中心としたビオホテルには、アルプスや海岸の大自然に囲まれた休暇型タイプ、農業併設型タイプ、賑やかな都市型タイプなどさまざまな多様なタイプの宿があり、それぞれに特化した特性を持っています。特に、環境や健康への関心が高い消費者層を中心に人気を集めています。
ビオホテルの認証基準とは
ビオホテル協会では、明確かつ厳しい基準と徹底された検査体制を持ち合わせており、ビオホテルと認証された後も、毎年必ず検査が入るという決まりがあります。その際、基準を満たしていないような問題が見つかれば罰金や強制退会が課せられるという厳格な仕組みとなっています。
ビオホテルの認証基準は、大まかに3つに分けられています。
①食品・飲み物に関する基準
②コスメに関する基準
③環境に関する基準
まず、①食品・飲み物に関する基準では、宿泊施設で提供する食品や飲み物は、原則としてオーガニック認証を受けたもののみ使用可能となっています。またできるだけ地元で作られたものであることや電子レンジの使用禁止などが定められています。
次に、②コスメに関する基準では、宿泊施設内で使用するシャンプーやせっけんなどのコスメや、ショップなどで販売するスキンケアアイテムなどは協会が指定するナチュラルオーガニック認証を受けたコスメのみ使用可能となっています。もしそれ以外のコスメを使用する場合には、その都度協会から許可が必ず必要と定められています。また、基準で定められてはいませんがタオル、ベッドリネン類や施設の内装材や建材などに関しても可能な限り自然素材を使用していることが望ましいとされています。
最後に、③環境に関する基準では、環境マネジメントの徹底に基づいて定められており、環境への負荷低減に向けて取り組んでいます。宿泊者のひとり当たりのCO2(二酸化炭素)排出量上限値を決めることで継続的な温室効果ガス排出量の改善に努めています。再生可能エネルギー、再生紙などの使用も促しています。
ビオホテルの認定基準は年々厳しくなってきています。
日本のビオホテル動向
日本では、2013年に5月にビオホテル協会の認定を受けたBIO HOTELJAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)が発足しました。
日本のビオホテルは2021年11月現在2軒となっています。一般社団法人日本ビオホテル協会のウェブサイトは英語表記となっており、認定ホテルの数も増える傾向に見られないことから、積極的な活動が行われているとは言い難いように見えます。
ここでは、認定を受けている2軒のホテルについて紹介します。
八寿恵荘(長野県)
▼運営サイト: 八寿恵荘
2015年に日本で初めてビオホテル認証を受けました。長野県の豊かな自然に囲まれています。
野菜以外の肉や魚、卵や調味料にわたる食材の90%以上がオーガニックのものを使用しています。化学調味料は一切使っていません。無農薬で土づくりからこだわった自家製国産カモミールの栽培、そのカモミールから取れるカミツレエキスをたっぷり配合したスキンケアを開発しています。
オーベルジュ エスバステラ(北海道)
▼運営サイト: オーベルジュ エスバステラ
2018年にビオホテル認証を受けました。
北海道富良野町にあり野菜ソムリエプロの資格を持つご夫婦で営んでいます。敷地内の自家菜園で育てられた新鮮でオーガニックな野菜やハーブ、生産者を直接訪問して吟味した地元北海道で作られたオーガニックな食材を使用したイタリア料理が楽しめます。水やオイルにもそれぞれオーガニックなこだわりを見せています。またワインとの相性も大事にしています。
全客室が3室だけなのは、郊外や地方にある宿泊施設を備えたレストランだからこそ。プライベートな空間で大事な人との美味しい食事を味わえます。ビオホテルならではの、上質で健康的なひとときを感じてみてください。
おわりに|ビオホテルとは?
ヨーロッパでは、食品や化粧品に対する認証制度は広く普及しており、消費者からの信頼度も高いように思われます。人と自然に優しいサステナブルなホテルの認定制度も、エコや有機に対する関心の高い消費者から歓迎される動きのように思われます。
その一方で、日本ではこうした認証制度に対する認知度は低く、消費者の購買選択の参考情報としても弱いというが現実です。そのため、事業者にとっては、志はあっても認証制度への参加に対するインセンティブが働きにくく、結果として盛り上がりに欠けてしまうという印象があります。
こうした認証制度が日本で普及しにくい原因について、今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。